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コーチング事例集

私の居場所がないように感じられて・・・ベテラン社員の悩み~職業人としての自分の価値を考える~


今日はベテラン社員の榊原さんのコーチングの日です。どんな会話が出来るのか楽しみに待っていましたが、榊原さんは、私の顔をみるなり、
「私の居場所がないように感じられて・・・」。

勤続二十年。まじめにこつこつと、会社のことだけを考えて仕事をしてきた自負があるとおっしゃる榊原さんは、いきなり話し始めました。
コーチングのセッション(会話すること)では、その日のテーマを扱う前に、気持ちをほぐす目的で、本題とはまったく違う話(アイスブレイク)をすることがあり、コーチである私は、今日もアイスブレイクからスタートしようと漠然と考えていたので、すぐには、傾聴の耳が用意出来ませんでした。
いつもはおだやかに時候の挨拶から始める榊原さんが、今日に限っては突然、本題を喋り始めたことを意外に思いながら榊原さんの話を聴いていました。

「榊原さん、会社に居場所がないと感じたきっかけは何かあったんですか?」

やっと榊原さんが考えをまとめるにふさわしいと思う質問が準備出来たのは、つぶやくように言った榊原さんの声からかなりの間があったと思います。
榊原さんは、私の問いかけに対し「いえ、別にこれということではないんです。この二月、異例の人事異動があって、課長が転勤されてきたんです。それから1ヶ月。まだまだ何もお分かりになっていらっしゃらないためか、うちの支所では一番キャリアが長い私を頼りにしてくださっているんです。
ただね、キャリアは長くても、結局チームのメンバーは、肝心なことの相談は課長にしてしまうわけです。当たり前ではあるけれども、淋しくてね。課長も一応は私を立てて話の輪に入れてくれるわけですが、結局決めるのは課長のわけです。私の今までの経験を踏みにじられているような気がして、たまらないんです。私って、どんな存在なんだろうって思う。そう思うと、ただ、キャリアが長いだけで、何にも価値がないように思えてしまって、最近では会社に行くのも嫌になったり、若い者から相談されても、課長に聴けばいいじゃないかって厭味を言ったりしてしまうんです」

一息に榊原さんは、話してくれました。

「榊原さん、あなたにとって、会社が認めるあなたの価値って、どのくらい大事なことなの?」

答えがわかっているようでも、あえて本人が話すことによって再確認出来る自分の思い。コーチングが大事にしている基礎に忠実にコーチングを進めてみました。

「そりゃあやっぱり大事ですよ。インセンティブ(報酬)で評価されるわけでしょ?ビジネスパーソンって。だったら、見合うというか、評価してくれた価値の分だけ、給料や役職で表すしかないでしょう。だから、会社が自分の価値をどのくらい認めてくれているかは大事だよ」

当たり前のことをたずねられたからか、榊原さんの口調がいつもよりきつく感じられました。しかし、ひるまず、「あなたがお考えになるあなた自身の価値を百点とした場合、会社はあなたをどのくらいで評価してくれていると思いますか?」と尋ねました。

「点数?そんなこと考えたことはないけれど、四〇点くらいかな?」
「なるほど、四〇点ですね。今置かれている立場、待遇などか四〇点くらいとお考えなのですね。それでは百点満点の榊原さんは、どんな待遇になるんでしょうか?」

「係長という責任ある立場を任されていると思います。係長という待遇もさることながら、メンバーがなんでも相談してくれて、ああ、それはこうしましょうとか、それはこうでしょう?こうしなさいと、指示命令出来るようになるでしょう。そうすると自分の思い通りの仕事も出来るようにあるわけだし・・・」
「なるほど、指示や命令が出来るようになり、自分の思い通りの仕事が出来るのですね。そうすると、チームはどうなりますか?」

「チームは、当然、業績も利益も上げられるから、いい雰囲気になると思います。会社内での評価ももちろん上がると思いますし・・」
「そうですね。業績利益や、雰囲気も良くなるわけですね。社内での評価も上がる。いいことばっかりですね。では、デメリットがあるとすると、どんなことがあげられますか?」

「デメリット?う・・・・ん・・・特にはないんじゃないでしょうかね?」
「特には見当たらなさそうなんですね?榊原さんが考えるご自分の価値は、指示命令をするポジションに立ったとき出来るものなんでしょうか?」

粘り強く、榊原さんが考えをまとめやすい質問を続けていこうと、努力します。

「いやぁ・・・どうかな?指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃないかも・・」
「なるほど、指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃない。
では、どんな存在になると価値が上がるんでしょうか?」

「だれもが頼ってくれるような、私と話すと明るい気持ちになれるような、そんな存在になれたらいいかなって思うかなぁ?」
「榊原さんと話すと明るい気持ちになれるといってもらえるような存在になりたいんですね?」

「そのとおり、若い者から尊敬出来る先輩っていってもらいたい」
「尊敬出来る先輩というお立場でいいんですね。地位には固執しないわけですね」

「う・・ん、そうかなぁって思うけど・・」
「ほんとうにそれは望んでいらっしゃることなんですか?」

「うん・・・」
「いい人って思われればいいんですか」

「うん・・・・?」

考え込んでいる時間が長くなってきたセッションの後半。
私は、気長にゆっくり待ちます。

「コーチ、私が考える自分の価値についてもう一度考えてみてもいいですか?」
セッション開始二〇分。榊原さんは、その日のコーチングを終了したいと、自らの言葉で切り上げられました。
「榊原さんご自身のことですから、よく考えてみてください。今日はこれぐらいで終わりにしましょう」

ビジネス環境が大きく変化したからなのか、組織の中の自分のポジションを見直すビジネスパーソンが増えてきました。同時に、いつも感じるのは、仕事をしている人の承認がなされる機会が減っているのであろうということです。
人の三大渇望の一つ。尊重されるということの大切さを改めて感じさせられました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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