女性の仕事ぶりについての悩み~テーマどおりに進められないセッションの組み立て方~

下着販売メーカーの人事係長村瀬さんは、家事・育児と仕事を両立させているスーパーレディで、これまでも大勢の女性社員のよき相談相手になっていました。全国各地を飛び回るハードな仕事ですが、村瀬さんはいつ眠っているんだろうかと同僚が心配するくらい、精力的に活動し職務に励んでいました。
そんな村瀬さんのコーチングセッションは、いつもは、合理的に行動するための計画や、目標・目的確認をテーマに行っていますが、今日は少し様子が違います。

「めずらしく気分が沈んでいるようにお見受けしますが、私が少し村瀬さんの感情に過敏なだけですか?」
「ソフトに忍び寄ってくる影・・って感じですね。コーチの心が寄り添うこの瞬間にほっと救われます」

「ありがとう、今までの経験から申し上げますが、村瀬さんが叙情的な言葉を出すときは、たいてい大きな悩みを抱えたときだと思いますが、今感じられているのはどんな悩みですか?」
「え?私ってそんなに分かりやすいですか?」

「ええ、申し訳ないけど、少なくとも私の前では、とてもいつもご自分に正直でいらっしゃるように感じています」
「なんでも見ているんですねぇ」

「そしてもう一つ、村瀬さんは、言いたいことはあるけれどもはっきり表現していいかどうか迷うときには、いつも話を遠回しにし始める。これも、村瀬さんのコミュニケートの癖ですね」
「うん・・今日はなんだかコーチがどんどん攻めてくるような気がします」

「ああ、それは申し訳ない。そんなつもりはないんですが。ところで、今日はどんなテーマでこの時間を過ごしましょうか?」
「女性として自分の仕事を追及したいという気持ちが高い人は多いけど、なんとなく、ご主人や子供を言い訳に曖昧にというか、甘えて仕事している人がこのごろ増えてきていて、こういう人達に対してどういうふうに意識を変えさせたらいいのかなぁと思って」

「うん、女性が仕事を続ける難しさを感じているんですか?」
「いえ、女性自身が甘えているのが気になるんです」

「うん、なるほど」
「実際、女性が仕事をするとなると、たくさんの障害がありますでしょ? 子供が急に病気になると保育園や学校に迎えに行くとか、家事は主婦がして当たり前とか。夫が働くことに賛成しないとか」

「そうだね、現実はやはり女性は家事と育児に専念してもらい、男が稼げばいいという考えはありますね」
「コーチもそうなんですか?奥さんを『働かせたくない派』ですか?」

「いや、我が家は妻もコーチ兼社労士として仕事をしていますから、お互い自宅の部屋の事務所にこもったままで、顔を合わせないことが多いですよ。夕方になって、子供たちが戻る頃、夕飯の支度に降りてきて始めて、あれ?今日はいたの?と言って、怒らせたこともあったくらいだからね」
「奥様は幸せですね。仕事に全力投球出来る」

「でも、私は不自由するときがあるし、料理もさせられるし。大変だよ」
「やっぱりコーチも、させられるという言い方になるんですね」

「ああ、うっかり。どうしても家事は女性の仕事だという概念が捨てられない。だけど、私は彼女が出張だったりすれば、子供たちの食事の面倒は見ますよ」
「代理店の女性は、主婦が多いんですが、みんな、入るときは社会とつながっていたいというんです。ところが、半年もたつと元気がなくなってくるんです。やれ子供の病気だ、父母会だと言い訳して仕事を中断するし、たとえ、売り上げが上がらなくてもその理由をほかに求めようとする。職場で事務処理しているかと思えば、だんなの悪口三昧。『やれ協力しない』とか、『うるさいことばかり言われて働く気がなくなる』とか。仕事をすることで自分の人生を豊かに出来るけど、家族という枠の中で、家族というチームのメンバーだけど社会に出るわけだから、それなりの工夫や協力を取り付けたり、ルールを作ればいいと思うんです。現実にはそんな物分りのいい旦那なんかいないし、子供も大きくなればなるほど手伝わなくなるし。与えられることよりも、工夫して自ら行動して欲しいんだけど・・」

「うん、耳が痛い。世の女性がみんな村瀬さんのように自立した女性になると、男はもっとなまけものになってしまうかもしれないな」
「みんなに言われるんです。村瀬さんは特別って。私は特別じゃないと思うんです。
はなから私を特別だと思っているから、みんな、努力したり工夫したりしない。それでもいいのかもしれないと思うときもありますが、せっかく教育して研修させても、1年くらいでやめられたら、企業は損失が大きい。会社での仕事は自分を成長させてくれるものという考えを持っていなくて、自分勝手なんですよね。みんな。だから、職場での評価も上げようがない」

「村瀬さんは、女性達の意識をどうして変えたいのですか」
「それは・・・、彼女達の働く意識を高めたいというか、成長して欲しいわけです」

「そもそも、彼女たちはどんな意識で働きに来ているか、理解していますか?」
「社会に出たいという気持はなんとなく感じますが、働く意欲とか理由はあまり考えたことがないですね」

「村瀬さんはどんな理由で働いているんですか?」
「うん、私は子供の教育費のためにと、一人でも多くの人に仕事を通して成長してもらいたくて、その応援をさせてもらいたいので・・という理由ですかねぇ・・」

「村瀬さんが働く意識と、多くの女性の意識と、一番の違いは何ですか?」
「意欲かなぁ・・なんか違う気がする。責任かなぁ・・。何でしょう・・・」

「相手を理解しなければ、相手の意識を変えることは出来ませんか?」
「本質が変わらなければ、表面だけ変えてもまたすぐにくじけるでしょうから・・。相手を理解したいんですが、みんなが私を理解出来ないように、私も相手が理解出来ない。したくないのかも知れない・・甘えているあの人たちを理解してもしょうがないと思うということは相手への配慮はないかもしれませんね」

「厳しさをもっているのが村瀬さんの自立の証だと感じます」
「私は自立しているのかしら?私が他の人と違っているだけかも知れないと、このごろでは自信がなくなってしまって」

「村瀬さん、今日のセッションのテーマは働く女性の意識を変えさせたい、甘えをなくさせるには?ということだったと思います。本来のテーマから離れた展開になってしまって申し訳ないと思いますが、今、話してみて何を感じていますか?」
「私自身が、まず、落ち着いて考えを整理する必要があるということですね」

コーチングは、必ずしも用意されたテーマどおりに話が進むばかりとは限りません。そんなときも、あわてず、クライアントの話したいように進めていくことをためらわず、自信をもって会話を進めましょう。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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