上司の手腕でやる気の戻った中堅社員~承認上手な上司との出逢いによって気持ちが変るクライアント~

褒め上手な上司になって、やる気が戻った中堅社員の実例をご紹介しましょう。
商社に入社して六年目の佐伯さんは、このごろ仕事に対する意欲が低下しており、いっそのこと転職しようかと考えてみたもののどんな仕事が自分にふさわしいのかも分からず、とりあえず仕事はお金を稼ぐためと割り切って毎日を過ごしていました。
しかし、そうとはいっても、どうせ働くなら仕事にやりがいを感じたいと思い、頻繁にキャリア・カウンセリングルームに通うようになりました。
キャリア・カウンセラーに話を聴いてもらうことは、気持ちを穏やかにするには効果がありましたが、何か物足らないものを感じていました。そこで佐伯さんは、思い切ってコーチと話す時間を持つことにしました。コーチングを受けるようになって、半年たった頃、突然、上司が変わりました。

「佐伯さん、新しい上司との係わりは上手く出来ていますか?」
「はい、上司が仕事内容に不慣れなせいか、とにかくよく話しかけてくれるんです。これまでの上司は、いつも不機嫌そうな顔をしていたから、こちらから話しかけると怒られそうで話などしなかったんです。年度初めに課の方針を出して、それを忠実に遂行することを求められていました。個々の案件については、特に説明を求められるわけでもなく、やりやすい反面、どのように評価されているのかもわからず、モチベーションを保つのがやっとでした。
今の上司は、とにかくどんなことでも意見を求めてコンセンサスをとるように、話しかけてくれるんです」

「そんなときの佐伯さんの気持ちは?」
「嬉しい反面、そんな小さなこと、いちいち気にするのかよ?っていうときもあります」

「なるほど、嬉しくもあり、うざったくもあり・・っていう感じですか?」
「そうですね。うざったいんだけど、でも、話しかけてもらいたいんだよね・・」

「うん・・どうしてでしょうか?」
「なんでかな?」

「話しかけられるときって、どんな感じの会話になるんですか?」
「たとえば、昨日は、メールで問い合わせていたことで、すでに返信してもらっていたのに、廊下ですれ違ったとき、『佐伯君、メールありがとう。気がつかなかったから教えてもらえて助かったよ。直接返事しなくて申し訳ない。時間がなかったからメールでの返信で勘弁してもらったよ』なんて、わざわざ説明してくれて・・
そんなふうにちゃんと対応してもらえると、嬉しい気がして、また、この人のために気づいたことをメールしてもいいんだって感じたなぁ」

「なるほど、佐伯さんとのメールのやり取りを、廊下で改めて言葉にしてもらえた。それが嬉しかったんだろうか?」
「そうなんだろうなぁ・・何か、すっごく自分を大切にしてくれているような感覚になったんだよなぁ」

「なるほど、佐伯さんは大切にしてもらったという感覚になったわけですね」
「そう、いつもこの上司はこんな調子なんだ。どうでもいいようなメールにでも、メール開封しましたとか、メールありがとうとか、すぐに返信してくれるから、読んだか読まないか、すぐ分かるし、指示をされるときも、なんか嫌じゃないんだよなぁ・・」

「指示をされるときは、どんな具合?」
「目標とか、目的とか、必ず教えてくれる。それから、やり方をどうするか、必ず指示されたときその場で確認されるんだ。だから、ちゃんと考えなきゃまずいぞ!って思って、その場ですぐに考えるから、行動に移しやすくなる」

「コミュニケーションをとるのが上手いのかな?」
「そうなんです。コミュニケーションをとるのがすごくうまい気がする」

「行動の結果については、どうなの。前の上司のように任せっぱなしであまり口をださないの?」
「それが、結果についての確認もきちんとされる。細かく説明させられるから、勘弁してよって思うときもあるけど、結果について必ずジャッジしてくれるので分かりやすいし、上司を通して会社との一体感もでるんです」

「なるほど、部下に会社との一体感を感じさせるのは、すごい人だね。仕事のやり方、部下との接し方がよく分かっている人ってことかな?」
「それだけじゃない気がする。なんていうのかな、褒め上手っていうか、認めてくれてる気がするんだ」

「認めてもらっている感じがするんだね」
「そうですね、自分の仕事に対する考え方とか、姿勢とかも含めて、認めてくれてるんだ。間違ったときも、前の上司みたいに、頭ごなしに怒鳴らず、どうしてそうなったかという原因を探ったり、工夫したほうがいいことは何かと、一緒に考えてくれている気がする」

「なるほどね、佐伯さんの存在を認めてくれているんですね」
「そうなんです。私の存在を認めてもらっているんです」

「上司に自分の存在を認めてもらっているってどんな感じがしますか?」
「とても充実した毎日を送っています」

「それはよかったですね。話しっぷりも前より明るくなりましたよ」
「コーチ、この間話していた転職の事なんだけど、しばらくこの上司の間は、この職場で頑張ろうと思うんです。この職場では、まだまだ、やりたいことがないわけじゃなかったわけだし、転職しようにも、商社マンだった自分の魅力って何か、ぜんぜん分からないし。当分、この会社でどうしたらいいかを考えたくなったんですけど、いいですか?」

「もちろんです。コーチングは佐伯さんのためにしているわけです。転職がテーマの時には、その方向でコーチングしますし、現在の職場でのモチベーションの維持・向上がテーマのときには、その方向でコーチングします。コーチングは、佐伯さんの気持ちを更に高めるため行うわけですから、コーチとして今後も支援させてください」

いつもいつも、コーチングのスキルを身につけている上司に出会うわけではありません。こんなにタイミングよく、出会えるチャンスもなかなかめぐってはこないでしょう。
しかし、上司のコミュニケーションスキルによって、部下はこんなにも働き甲斐に満ちた生活が出来ることを知っていただければ、自己啓発の大切さや、コミュニケーションを大事にしようと、改めて考えていただけるのではないでしょうか?


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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