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コーチング事例集

新入社員との関係に悩む新任係長重田さん「社内コーチ制度」の失敗~社内コーチ制度を作るための環境整備~


新任係長重田さんの悩みは、今年入社の1年生社員伊藤くんとの関係だった。去年の四月に伊藤くんが入社して十一ヶ月が経ち、今は二月です。他の部署に配属された1年生社員は、それなりに業務を一人でこなしているように見え、自分の下に配属された伊藤くんのことを疎ましく思うこともあり、なかなか思うようにならない苛立ちから、このごろでは伊藤くんの顔を見るのもイヤになり、出社するのさえ気持ちが重くなってしまっていた。
そんなおり、部下への対応に悩む社員を助ける制度として社内コーチ制度が出来たとのことで、それがどんなものかわからなかったが、わらをも掴む気持ちでさっそく利用してみようと重田さんは人事部へと赴いた。
人事部の扉は硬く閉まっており、いつもながら、人事部への入室は気が重かったが、それでもこのままでは二人とも会社に居場所がなくなってしまう、何とかしなくてはという焦燥感に駆られて、とにかくノックだけでもしようと重田さんは行動しました。
ノックして、人事部に入った重田さんを待っていたのは、いつもいかめつい顔をして、威厳的というか、権威の象徴というような顔立ちの三上部長でした。
重田さんは、三上部長が苦手で、思わずしりごみしましたが、顔を見ただけで退室しては失礼であると考え、踏みとどまって思いきって聞きました。

「あのう・・社内コーチ制度というのが出来たという掲示板の記事を読んだんですが、どのような制度なんでしょうか?」
すると、三上部長はいつにもまして威厳的に、「社内・社外を問わず、コミュニケーションが上手くとれずに困っている社員の支援をするというものだが、重田君だったね、君はこの制度を利用したいのかね?何かあったのかね?コーチにコーチングを受けて見る気があるのかね?」三上部長は、ニコリともせずに答え、質問をあびせかけてきました。

「はい、一回コーチ制度を受けてみようかと思っています。それで、そのコーチはどなたがお勤めになるのでしょうか?」三上部長は、いつご機嫌が良くて、いつご機嫌が悪いかがわからないタイプなので、出来る限り言葉遣いに気をつけながら、重田さんは質問を続けました。

「コーチは原則として部長の私がします。社内の問題だから、人事部の部員が私を中心にしてコーチをするわけです。社員の微妙な問題に関わってきますから、事情のよくわかるものほうがいいんです。社員は全員が貴重な人材なんです。今回導入した『社内コーチ制度』は、会社の重要な人事戦略の一つなんです」
三上部長は、丁寧に説明をしてくれますが、なかなか重田さんの心は開きません。(「こんなこと聞いたら、査定が下がるかなぁ・・」)(「何で部長がコーチなんだろう・・井上課長にコーチをお願いすることは出来ないんだろうか」)など、余計なことを考えながら質問しているので、どうにも歯切れが悪いのが自分でも気になるほどでした。

五分ほど、気まずい思いで三上部長と話した重田さんは、結局、相談があるとは言えずに、コーチとはどういう制度であってどんなことが望めるのか、人事戦略としての取り組みであるということを確認しただけで、この日は人事部をあとにしてしまいました。
日々の業務では、新人伊藤くんが自律した仕事が出来ないので、重田さんは二人分の仕事をこなす時間が多く、どんどんとストレスがたまっていきます。先日聞いた社内コーチ制度を使って、どうしたらいいのかを支援してもらおうと考えても見ましたが、しかし、三上部長の威厳的な態度と向き合う勇気は出ないので、どうしようかと迷うばかりで、仕事も手につかなくなってしまいました。

直属の上司の課長に相談しようと思っても「伊藤くんは明るくていまどきの若者っぽいけれども、話せばわかると思うよ。飲みにでも誘ってみたらどうなんだろう? そうだ、どうだね、今夜三人で一緒に行くかね?」と言われてしまい、社内で一緒に過ごすだけでも精一杯なのに、勤務後もつき合わされそうになってあわてたことがあってからは、上司の課長にも相談出来ずに、モヤモヤしたまま毎日を過ごしていました。

やがて、重田さんは、このままでは伊藤くんまでつぶしてしまいかねないと考え、勇気を振り絞って、改めて人事部のドアをノックしました。
「はい、どうぞ」中から声がしたのは、井上課長でした。
重田さんは救われたように、ドアを開け、胸に中の全てを井上課長に話しました。

「ご相談があってきました。部下とのコミュニケーションのことで『社内コーチ制度』を利用したいのですが、コーチ役の三上部長はいらっしゃいませんか」
「三上部長が自らコーチをやられるのですが、三上部長が不在の時には、代理として課長の私、井上がコーチ役をやらしてもらっています」
幸い、三上部長は席に戻られなかったのですが、いつ戻ってくるかと思うと、重田さんは気が許せず、井上課長から出される質問にも、深く考えもせず、常日頃思っている不満ばかりを口にしました。

ところが、二十分ほど話したのですが、重田さんの心の中は、ぜんぜんスッキリしていきません。むしろ、井上課長の質問が多くなれば多くなるほど、息苦しさを感じる始末です。(「おかしいなぁ・・聞いてもらっているんだから、もっとすっきりしてもいいはずなのに・・」)と思いながら話す重田さんの表情は、ますます暗くなり、うつむき加減になってしまいます。
井上課長もそれに気づき、「今お話いただいていることは、私の胸のうちだけにしまうことですから、どうぞ安心して話してくださいね」と言われました。しかし、じゃぁ話そうという気持ちにもならず、もっと話したいと思いながらも、重田さんはとうとう言葉に詰まってしまいました。
(「部下に対する不満を言っていると、自分の査定にひびくんじゃないだろう。余計なことを言わないで、自分のことを大事にしよう。新入社員の伊藤くんのせいで、自分の成績が落ちるのは馬鹿馬鹿しい。部下が出来が悪いとあまり言っていると、自分の出来の悪さを自白していることになるぞ・・・・。人事部のコーチなどに相談するんじゃなかった」)
この事例は、社内にコーチング制度を立ち上げる会社が良く陥る失敗です。

まず、コーチング専用の環境を準備していない。人事部配属の社員がコーチ役となるため、評価される側とする側という対峙関係があるという社員の意識改革が出来ないと、本音を語る機会にはならない。などの理由から起こるものです。井上課長は、人事部担当の課長という点において信頼も置かれているのですが、反面、社員の情報をいつも集めているのではないかという見方を、社員からされているということをわきまえていなければ、せっかくの制度も作っただけで活用されることがないまま、社内のコーチング熱が醒めてしまいます。

社員の育成計画は、ますます重要になってきました。長期的に、戦略的に立てておかなければなりませんが、コーチング流に捉えるならば、制度を作ることがゴール(目標)ではありません。どう運用するか、それによってどんな風に社内風土がかわるのか、どんな風に社員が育つのか?など、明確なビジョンを描いておくことが大切です。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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