産休中の母親の悩み~中断しがちな女性のキャリアを考えるセッション~

10月のすがすがしい秋の空の下、ひとりの女性と出会いました。

「はじめまして、コーチの宮田です。どうぞお入り下さい」小気味良かった足音とドアの前に立つ女性の表情に違和感を感じながらも、部屋の中に招き入れ、椅子を勧めて腰掛けるよう促しました。
「あの・・子どもが泣き出すとお話が出来なくなりますがよろしいでしょうか?」

「もちろん、かまいませんよ。赤ちゃんの世話を一番にしましょう。今は、眠っておられるんですね?」
「はい、車の中ではいつも寝てしまうんです・・あの、私のようなものがコーチングを受けるということはあるんでしょうか?」

「ええ、生後間もない赤ちゃんを連れてきてくださる方もいらっしゃいます。赤ちゃんとお母さんは、ある時期までは、離れられない関係ですから、どうぞ遠慮なさらずに」
「そうですか、ちょっと安心しました」

「コーチングは初めてですか?」
「はい、こういうことは、仕事をしている人しか縁がないと思っていたんです」

「早速ですが、南山さん、コーチングってどんなものか、体験してみますか?」
「はい、あ、でも子どもが起きて泣いたらどうしましょうか?」

「はい、泣いてどうにもお話するのが難しくなったら、中断しましょう」
「いいですか? ありがとうございます」

「南山さんは、日ごろ何かを達成したいけどなかなか実行出来ないとか、これやってみたいけど出来ないという不満足なことって、どんなことがありますか?」
「はい、あの、子どもが生まれてから、自分のペースで生活が出来なくて、すっごくイライラしちゃうんです」

「なるほど、マイペースではなくて、他人というか赤ちゃんペースでの生活になっていることに苛立ちを感じているんですね?」
「ええ、自分のしたいことが何にも出来ないのですごく強く苛立って、この間なんかは、子どものおもちゃを、壁に投げつけてしまったんです。いけないと思いながらも、もう、どうにもとまらなくて・・」

「そのときの気持ちですが、投げる前と後、どんな違いを感じたの?」
「投げる前は、なんかもう何も考えてなくて、ただただ、衝動に駆られたって感じかなぁ?投げた後は、すっごく後悔しました」

「そうですか、すっきりしたということはなかったんですねぇ」
「はい、すっきりどころか、子どもはますます泣くし、おもちゃはこわれてしまうし。自己嫌悪で、私なにやってるんだろうって感じで泣きたくなりました」

「南山さんは、出産されるまでは仕事をなさっていたんですか?」
「はい、してました。商社で、貿易事務です」

「貿易事務の仕事は楽しかった?」
「すっごく楽しかった。海外からの商品を輸入する証明書を書き、税関にお使いに行くときに、海が見えるんですが、この海の向こうに、自分が買い付けた商品があるんだと思うと、とても嬉しくなって・・早く、日本の皆さんにご紹介出来たらいいなと思っていました」

「失礼ですが、子どもを持つことは、夫婦お二人で決められたことでしょう?」
「はい、でも、散々迷ってのことです。育児休暇1年で、職場に復帰するつもりですが、これから1年、どうしたらいいのか、子育てだけに向き合っていたら、なんか、取り残されるようで・・」

「一番大きな気持ちは、何?」
「うん・・どうしたらいいかがわからない不安でしょうか?」

「なるほど、どうしたらいいかわからない不安ですね。その不安を解消するためには、どんなことをはっきりさせたいのかしら?」
「そうですね・・復帰後、自分の会社での居場所を作れるかどうか、作るなら、どんな仕事をするのがいいかどうか・・1年のブランクなんで、大丈夫とは思うんですが、貿易事務が出来るくらいでは、今、変わりに来てもらっている人材派遣会社の人のほうが仕事が出来たりすれば、会社は私を必要としなくなるでしょうか?」

「たしかに、南山さんの休暇中、あなたの仕事を埋めていただくためには、会社は人材派遣会社の社員を使うことでしょう。でも、人材派遣会社の社員を雇ったということは、あなたに復帰していただきたいという会社の思いがあるのではないでしょうか?派遣会社は、必要なとき、必要なスキルを持っている人を、必要な分だけの労働力を提供するというのが基本です。会社として南山さんの復帰が望めないのであれば、社員の代わりを探すのではないですか?」
「それはそうだと思います・・。貿易事務といっても誰にでも出来る仕事ではありませんから・・」

「日本語と英語が、ビジネスレベルでストレスなくコミュニケーション出来るという条件だけでもハードルは高いと思いますが・・。もっとご自分のスキルに自信を持っていいと思いますが?」
「子どもは可愛いけど、ちっとも自分の思うとおりにも育児書のとおりにもならなくて・・私、こんなふうにいい加減で、親としてやっていけるかどうか分からなくて・・・」

「どうやら、自信を失った原因は、子育てにあるようですね。赤ちゃんにとってあなたは母親、ご主人は父親ですよね。子どもは二人で育てていいんじゃないですか?」
「え?」

「子育てに、もっとご主人を巻き込んじゃったら?」
「でも、仕事して帰ってきたら疲れてるだろうし・・」

「南山さんが一人前に働いていたからこそ、ご主人のしんどさも理解していらっしゃるんでしょうが、楽しみだってあるんじゃないですか?」
「子育ての楽しみ?」

「ええ、笑ったとか、泣いたとかもそうだし、日に日に変わる顔をみてるだけでも、幸せって感じる人もいるようですよ。今しかないこのときだから、もっと赤ちゃんに触らせてあげたら?」
「でも、夫に出来るかしら。落としたりしたら大変だし・・」

「もちろん、モノじゃないので、落としたら大変でしょう。なら、畳に座って抱っこしててもらうとか、ローソファーがあれば、それでとか」
「ぶきっちょ何ですよ。彼」

「大丈夫、自分のお子さんですよ。なんでも一人で抱えていないで、少し、荷物を降ろしてみたらどうでしょうか?これからも一緒に考えてみたいのですが、いかがですか?」
「はい、子供連れでもいいとおっしゃってくださるなら、ぜひ、お願いします」

「もちろんですよ、赤ちゃんが泣いたら中断すればいい。疲れれば、また、眠りますから・・」

子どものせいで、自分の人生が思うとおりに運ばない、自分にとって不都合だと思うお母さんが増えたように思います。大人だけの生活から一変する生活の中で、女性は自分のキャリアを描き続けることが難しくもあります。
子育ても一つのキャリアだということを忘れている人もいます。まずはお母さんが輝くキャリアビジョンを持っていることが、子どものためになることを、一緒に見つけられたらいいなと思います。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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