子育てで悩むお母さん~積極的なコーチからの働きかけによるセッションのあり方~

福山さんの子どもさんは中学1年で、自分は親父の後を継ぎ、会社を拡大するのが自分の使命であると口にするほど、ビジョンがはっきりしている男の子です。
ところが、そのビジョンがはっきりしていることで、彼の生活はクラブ活動中心の毎日になり、家に帰ればぐったり疲れて眠ってしまうと言う有様。勉強で評価されることに価値を見出していないため、宿題を提出するのは気の向いただけという状態で、保護者会に出席するお母さんの福山さんは針のむしろの上にいるような気持ちでいっぱいになるそうです。そこで福山さんは、コーチングを学んで、何とか子どもとのコミュニケーションにおいて、子ども自身に自分で気づかせようとしますが、なかなか現実はうまくいきません。
コーチング学習中の模擬演技では、感情を抑えて相手とかかわれるのに、現実に向き合うとうまくいかず、この日も落ち込んだ姿を見せまいと、必死に模擬演技をする福山さんを見て、コーチは学習後、セッションを促しました。

「福山さん、保護者会だったのね?」
「どうして分かるんですか?」

「お子さんとのセッションをしてみたいと、手を上げてくださったでしょう?お子さん役を演じてくださった森山さんとの会話、とっても現実的でしたよ」
「うちでは話し始めて五分でアウトって感じなんです。今何とかしないと・アヒルさん(2)の行列どころじゃない、煙突(1)がいっぱい立っているんですよ?」

「成績が良くないことが、心配なんですね」
「そりゃあ心配ですよ。このままではどうなってしまうのか・・・・」

「どんなお子さんになってもらいたいの?」
「勉強は普通でいいんです。どんな人生がいいかをしっかり決めている子なので、高い学歴は必要ないと思います。手先が器用であれば、今のうちの仕事は継げますから。でも、うちの仕事をつぐことと勉強しないことはつながってはいきません。学生は、勉強するのが仕事だし、学校の評価基準で評価されなければ意味がないのです。よく気がつく良い子だといわれても、それを評価する項目が、通知表にはありません。内申点に反映されません」

「評価してもらうことがそんなに大事ですか?勉強することにはどんな意味があるのでしょうか?」
「一般教養や知識をつけるためです。だからと言って、それが即、現実社会で役立つことは少ないと思います。特に我が家の家業に必要な知識は、『センチ』の世界ではなく『尺・寸』の世界ですから。
でも、それとこれとはやはり違う気がします」

「福山さんのお話は、いつも二つの視点でものを見ていることに気づいていますか?一つは、子どもを実年齢の中学生と言う立場でみる視点。もう一つは、大人になって家業を継いだときの視点。今は、どちらの視点で捉えたらよいと思っていますか?」
「・・・そうですね。今は中学生としての視点を持つことです」

「では、中学生としての視点から考えましょう。学校で学ぶことは、どんな意味があると教えたいですか?」
「評価されるという現実と、評価によって進学先が決まると言うことです」

「性格的な良い点は、どうこの話に絡めていきましょうか?」
「良い点はそのまま伸ばしたいので、いろいろな役割を言われなくてもこなせることはとてもいいことだと思うけれども、それを評価する項目がないことを、通知表を見せながら説明してやりたいと思います。」

「もう一度伺いますが、息子さんに何を感じてもらいたいんですか?」
「学校と言う社会では、勉強が出来るかどうかで評価が決まると言う現実です」

「そのために福山さんは、いつ、それをテーマに話し合う時間を持ちますか?」
「今度の終業式の日、成績表をもらって帰ってきたときです」

「どこで話しますか?」
「家の中です」

「だれか、他の家族を交えますか?」
「いえ、父親も交えないほうがいいと思います。家業を継ぐといってくれたことで、ほっと安心しきっているので、子どもの味方をして、まぁ、勉強はなぁ・・とでも言い出されたら困ります」

「お二人で話し合うんですね?」
「はい、二人で」

「どう切り出しますか?」
「いきなり、何、この成績は・・とはさすがに言えません」

「そうですね。では、どんなことからなら話せますか?」
「・・・・」

「一つ、提案してもいいですか?」
「はい」

「お子さんの性格が良い、よく気がつく子だと担任が評価していたことから話し始めたらどうでしょうか?」
「でも・・・褒めた後に叱ったら、余計にこたえるんじゃないでしょうか?性格の優しい子ですから」

「初めて、息子さんを褒めましたね?」
「え?」

「今、初めてお子さんを『性格が優しい子ですから』とおっしゃいました。私も嬉しいです。お子さんの良い点をちゃんと認めておられるのに、今日はぜんぜん、その話が出てこなかった。残念だと思っていました」
「・・・・」

「子どもの可能性って、無限大にあると思いませんか?」
「はい」

「それを引き出してやるのは、親や教師をはじめ、子どもとかかわる大勢の人の役割だと思うんです。ただ、我が子となるとどうしても厳しい評価をしがちになる。子育てに責任を持てるのは親だけですからね。真剣勝負だし、全身全霊をこめてのかかわりになるから、ついつい厳しくなりますよね?でも、自分の子どもと言えども、人格をもった一人の人間です。冷静に距離をとって、良い点と悪い点というように、両方を提示してあげると、本人が気づくことも多くなるのではないでしょうか?」
「・・・」

「お子さんに伝えたいことをもう一度、整理して考えましょう。叱る叱らないじゃなくて、『伝えたいことは何か?』というようにポイントを絞って考えると、福山さんの気持ちも整理出来ると思います。いかがですか?やってみられますか?」
「はい。やってみようと思います」

親業をしていると、記念日はプレゼントをする日で、もらう日ではないと考えて過ごしているのではないでしょうか?
子育てに、親のやる気や欲は必要です。と、同時に、感謝が必要ではないでしょうか?
元気であること。学校を嫌わずに通う根気を持っていること。学校で友達と協調して集団生活出来ていること。褒めるべき点、認めるべき点、感謝すべき点はあらゆる角度から眺めてみればどこにでもあるはずです。子どもから毎日たくさんのものをいただいていることに、感謝出来る日があるといいなと思います。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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