コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

板前修業に入って三年目。~他者の感情を理解する~


日本料理が大好きで、いつかは自分の店を構えたいと思っている神山君。
高校卒業と同時に、料理の世界に足を踏み入れた神山君ですが、このごろ元気がなく、コーチをされているお母さんに紹介されて、セッションすることになりました。

「こんにちは。お休みをつぶしていただいて、恐縮です。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、急なお願いをしてすいませんでした」

「今日は、どんなことをテーマに話しましょうか?」
「はい、今後の進路のことをちょっと考えたいんですが、いいですか?」

「そんなに硬くならなくてもいいですよ。何か緊張でガチガチになっていますね。神山さんは、お仕事で緊張するのはどんなときですか」
「そうですね。板場の中でも、板場のものの食事『賄い』を作るときは緊張します。同じ道を志す下っ端が先輩のための食事を用意するわけですから。実力とアイデアを試されているようで、とても緊張するんです」

「そうでしょうねぇ・・。どんな『賄い』がお得意ですか?」
「得意なのは野菜たっぷりの雑炊です。魚のアラでだしをとり、野菜の切れ端を細かく切って、卵だけは料理長から分けてもらいますが、他は、すべてお客様にお出しした料理の材料の残りというか、切れ端でやれるようになりました」

「そうですか。素敵ですね・・見習わなくちゃと思います」
「それはいいんですが、このごろ料理長が僕に何も言わなくなったんです。僕より下の新人にはいろいろ言っているのに、僕は何をしていいのかわからず戸惑う毎日なんです、僕は、料理長の気持ちというか、阿吽の呼吸で動くことが出来なくて・・・板場にいるのが苦痛なんです」

「うん、辛いですねえ」
「・・・・」

「お料理の世界を志したのは、どんな自分を思い描いたからでしょう?」
「僕は、母一人子一人で。いつも母は夜遅く仕事から帰ってきて食事の支度をしてくれていたんです。だから、大きくなったら、いつか母に食事を作ってあげようと思って。それなら、いっそ料理人になって自分の店を持って、母においしいものを作ってあげたいと思ったんです」

「素敵な夢ですねえ。お母さんをうらやましく思います。神山君は優しいのねぇ」
「中学でまったく勉強しなかったし、家は経済的に難しいから高校へいけないと思っていた。でも、母は一生懸命に働いて、高校へはどうしても行けと応援してくれて。自分もバイトして頑張って卒業しました」

「そう、苦労したんだネェ」
「親父を恨みました。親父がしっかりして、離婚してなければって」

「そうですね。ご両親には何かの事情がおありだったわけでしょうからね」
「僕、親父がいないから、歳の大きい人との話をどうしたらいいかわからなくて・・」

「料理長とのこと?」
「はい、料理長もだけど、先輩とかも。怖いんです、話し方が。いつも怒られている様で」

「そうかぁ、それは困ったネェ。ほんとうに怒られてるの?」
「そういう時もあるし、そうじゃなくて、仕事の指示を出されてるだけのときもあります。僕がわからないんだと思うんです」

「今年入ってきた後輩はそれがちゃんと出来るってことですか?」
「はい、『べつに料理長は怒ってないんじゃないっすか?』ってこともなげに言うんだけれども、僕にはどうしてもそう思えない」

「そうかぁ、それは辛いね。一つ聞いてもいいかな?」
「はい」

「料理長の表情ってどんな感じか観察したことはある?」
「表情ですか?」

「いつも、まじめな顔をされています」
「そうですか、まじめな顔ですね?先輩方は?」

「先輩は、料理長と同じようにまじめな顔」
「なるほど。お母さんのというか、女性の表情と比べて、何が違うと思う?」

「女性の表情ですか?」
「そう、例えば女将さんとの違いは?」

「うん・・・難しいなあ・・・。女将さんは・・・」
「私が想像したことを話してもいい?」

「はい」
「女将さんは、いつも笑顔。おかあさんのイメージも笑顔。だから、何も抵抗を感じないけれども、男性は笑顔をほとんど見せず、まじめな顔をして、お仕事を黙々としていらっしゃるんじゃないかしら?」

「ああ、確かに・・・。先輩とは、まだ、手が空いたとき話をして笑う顔を見たことがあるけど、料理長とは、そんなふうに時間を過ごしたことはないですねぇ」
「そうだね。だから必要以上に緊張しちゃうんじゃないかな?」

「そうかもしれません。後輩は、それが出来ているような気がします」
「それが出来ているというのは?」

「僕も1年目は、料理長から直接、いろいろ教わったことがあるんです。包丁の入れ方とか、鍋の磨き具合をチェックしてもらったりとか。もちろん、そういうときは、厳しい顔しても当たり前だと思ってました」
「どうしてそういう時間が減ったのかな?」

「仕事場で、一応、自分で動けるようになったからだと思うんです」
「それは、成長したということだよね。誇りに思っていいじゃない?」

「そうかもしれない。でも、料理長と話せないで、阿吽の呼吸も持てないし。どうしたらいいんでしょうか?」
「厳しいことを言ってしまうけど、学校じゃないから、声かけてもらうまで待ってちゃだめなんじゃないかな?」

「自分から、話しかけて迷惑じゃないでしょうか。僕は、人から話しかけられるのが嫌いなんですが・・・」
「迷惑だなんて心配することはないと思うわ。料理長はあなたが成長しているから、手取り足取り、何から何まで指図されて動かさなようにと考えたんじゃないかしら?料理長は神山君に任せて話しがあれば聴こうと考えているんだと思うわ」

「自分から、どう話しかけたらいいんでしょうか?」
「神山君はどんなことを話したいの?」

「そうですね、いろいろ聞きたいけど、技術のことかな?まだまだ、覚えなきゃいけないこと、いっぱいあるし。あと、材料のこととかも」
「なるほどね、いろいろ教えていただきたいんですが?って、自分から声を掛けてみたら?」

「え?だって、料理長はお忙しい方だし・・」
「もちろん、調理している最中はだめだよね?だとしたら、いつならいいと思う?」

「ああ、そうですね。お昼休憩のときとか?仕事が終わって帰り道とか?」
「そうだね。声をかけてもいいときがいつなのか?1週間、観察してみようか?」

「そうですね。やってみます」

年齢の違う父親のような上司や先輩との付き合いにまごつかないようにするには、子育て中の父親はどう接していけばいいのか。
子育て過程の中でのお父さんの役割、改めて感じました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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社長時代とのギャップに悩むNPO法人の理事長さん~利益を上げる組織から、利益最優先でなくてもよい組織のリーダーの役割の変化を考える~


NPO法人を設立し、地域社会の子育て支援をしている理事長の堀口さんは、元は会社の社長さんでした。
会社は、息子に譲り、自分はこれまでの恩返しに、地域のお役に立ちたいという思いをもって、NPO設立に奔走したのです。
非営利を目的とした活動団体なので、事業から利益を出す必要はありませんが、メンバーのモチベーションを下げないようにするためには、ある程度、運営している皆さんに利益を出す工夫をさせ、自分たちの活動が価値あるものであることを感じてもらうことによって、参加意欲をますます高めようと思っていました。
子育て中のお母さんと子供のために、腹話術の人形劇や、絵本の読み聞かせなど、親子のふれあいを大切にした事業を中心に計画したのですが、参加費の徴収を巡って、他の会員を説得しようとするが意見が合わず、このごろ疲弊気味であるとのことでした。

「堀口さん、相変わらず、皆さんの反応が鈍くてお苛立ちですか?」
「はいコーチ。相変わらずです。『ボランティア団体が利益を得るなんて、もっての他、理事長が以前に社長をされていた会社とは違うんです』とまるで相手にされません」

「残念ですね・・」
「残念と言うより、もう、かかわりたくないという感じですね」

「かかわりたくない?」
「はい、何を言っても分からないんですよ。主婦の感覚と言うか、所詮、閉鎖的な女性の考えで支配されている団体で、あきらめました。長期的なビジョンも描けないで『奉仕奉仕』と言いますが、彼女達は自己満足を感じることで精一杯だから・・・」

「うん・・・厳しい言葉がたくさん並びましたね」
「何年やっても変わらないんじゃ、何のためにやっているのか?自己成長がないんですよ」

「自己成長がないんですねぇ・・・。堀口さんは、自己成長を感じたくてこの活動を続けているんですか?自己成長って必要ですか?」
「コーチ、人間は、生涯成長したいという気持ちを持っているはずですよ。だから、人間なんでしょ?自己成長を続けるには、学習したり、目標を立てて行動して結果を残すしかないですよね?でも、それを放棄してしまう人たちもいるっていうことが理解出来ただけでもう十分です。今度の総会をもって理事長を退任させてもらおうと思っています」

「堀口さんの胸の内は、すでにお話したんですか?」
「いえ、別に言う必要もないでしょう。皆さん、同じ考えなので私がいないほうが、むしろ『和』が保てていいと思っていると思うんですよ」

「そうですか・・・残念ですね・・・」
「でも、仕方がありませんよ。寄り合い所帯じゃ、出来ることも限られていますからね。私は私にしか出来ないことがしたいので、また、別の角度で地域にお礼の出来る活動をしようと思います。まあ、私には、まだまだたくさんの時間があるので、何とかなると思います」

「皆さんと話し合う時間を、改めて持つことは出来ないのでしょうか?」
「持ったって無駄だから持とうと思わないだけです。感覚が違うんですね」

「この活動をしたいと思ったきっかけというか、意欲は、まだ小さくなっているわけではない。でも、周りの人の賛同を得られないのであきらめる・・というのは、少し淋しい気がしますね。今度は一人でやられるおつもりですか?」
「以前社長をしていた会社では、社員は、いつも私の戦略やビジネスモデルどおりに行動し、常に成果を挙げてきました。私は、今回の活動でも、だからあえて皆さんが嫌がるリーダーを引き受けたんです。皆さんもそれがいいと認めたからしたんです。それなのに、私が実際描いた事業を進めようとした途端、それは理想だとか、そんなことをしたら理解されないのではないかとか、ブレーキばっかり掛けられて。挙句、『堀口さんの常識はちょっとわれわれとは違う』と言われても・・・。むなしいですね」

「そうですか・・・以前社長をしていた会社の社員さんと今のNPO法人の会員さんとを比較して、そのように感じられるんですね。ところで、堀口さんの描くNPO法人の活動って、一般的にどう捉えられているんでしょうかねぇ?」
「一般的に見る?・・・必要があるんでしょうか?なんでもそうだけれど、それぞれであっていいんじゃないですか? 
NPOは利益を出しちゃいけないわけじゃないないでしょう?利益を出してもそれを還元すればいい。大事なことは高い意欲を維持することじゃないですか?やりっぱなしになったり、途中で放り出さないようにすることが重要だと思うのです。
企業活動ではないだけに責任が分散しやすいから、より厳しいルールや規範にのっとって行動することが求められると考えていたのですが・・・」

「そういう、堀口さんの気持ちを皆さんに分かるように説明したことはありますか?」
「最初の頃はしていたと思います」

「その頃の堀口さんの気持ちと今の気持ち、何が違っているのですか?」
「会員のみんなが私の言うことについてきてくれないので、むなしさが益々大きくなっていると言うことでしょうか?」

「理解してもらえないから?」
「はい、理解する能力がないわけじゃなくて、理解しようとする心がないことを感じて更にむなしいかな?」

「以前、会社の社長をされていたときは、社員の方は、堀口さんの言うことを理解しようと努められていました?」
「それは、そうですよ。社長の私の言うことですよ。理解しようとつとめないで、どうするんですか。当たり前ですよ。それにひきかえ、NPOの連中は、理事長の私の意見を聞こうともしないんですよ」

「そうですか・・・残念ですね・・・」
「はい、でも、また新しいことを考えるチャンスを得られることになった。そう考えれば、気持ちは晴れますから大丈夫です」

残念ですが、堀口さんはこのNPO法人の理事長を退任し、今は新たな計画を立てることに専念しています。コーチングセッションのテーマも、どうしたら地域の人に貢献出来るか? どうしたら、皆のやる気を高めることが出来るのか? ということに終始しています。
元経営者としての堀口さんの意欲や能力の高さには敬服しつつも、上下関係や雇う人と雇われる人の関係ではない、横のつながりにおいてのコミュニケーション能力をあげることの重要性を感じていただけるよう、次回のセッションではテーマを絞ろうと心に誓うコーチでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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脱サラマスターの苦悩~苦手意識をなくし、コミュニケーションを考える~


コーチングを受けて早二年が過ぎた錦織さんは、喫茶店のマスターです。
喫茶店激戦地域とも言われる地域での厳しい競争の中、マスターこだわりの店になっているせいか、常連のお客様が多く、皆様思い思いのコミュニケーションの場になっています。
このごろは、定年退職された男性のお客様がモーニングの時間に多く来られるようになり、急に自由になった時間を持て余しているのか時間つぶしに長く店にいらっしゃいます。店内はお昼までの待合室の様相を呈する時間もあり、これまでとは少し雰囲気が変わった気がすると、こぼしていました。
ところで、最近の午前中の、このなんとも重苦しい雰囲気は、自分の意図している喫茶店の雰囲気とは全くことなるもので、マスター自身も居心地が悪いと、セッションのテーマに選ばれました。

「このごろは喫茶店の経営そのものに関するテーマが少なくなっていましたが、今日は珍しいですね」
「ええ、今日だけで解決するような問題ではないように思います。とにかく、この朝の重苦し
い雰囲気を変えたいんですが、さりとて、男性のお客様入店お断りというわけにはいかないですからネェ・・」

「どんな点が一番気になるんですか?」
「覇気がないというか、活気がないというか、とにかく雑誌や新聞をたくさん席に持ち込んで、コーヒーを飲み終わると、水だけで場所を占領する。まぁ、朝早い時間は、お客様が多いわけじゃないし、ビジネスマンが利用する時間帯よりは少し遅れて入ってくるので、むしろ、売り上げは増えているんです。ただ、とにかく空気が重くなるんですよ・・・」

「空気が重くなる。それが一番気になる点ですか?」
「ええ、元気がないし、会話がない。オーダーを受ける際、『モーニング』といったまま、後はお水のお変わりを注ごうが、カップをさげにいこうが、とにかく黙ったまま。たまに話しかけてくるお客さんがいるかと思うと、景気はどうか?とか、新聞が汚れているとか、雑誌の次の発売日はいつかとか。あるいは、政治の話で、こちらは客商売なんだから、お客様と議論するわけにはいかないんだから、『そうですね』、『いいですね』と相づちを打つだけにしていると『あんた、何にも考えてないのか?』なんて意見されてしまう。この間なんか『マスターはなんにも考えないでコーヒーを出していればいいんだから、いいよな』『我々が苦労して働いてきた上前をはねているんだから・・・』『定年後の我々にいままでありがとうの気持ちはないのかね。もっと、まじめに受け答えしろよ』って怒られてしまったんですよ。午後の食事過ぎにいらっしゃる主婦のお客様のご近所ネタも困るけれども、こちらのほうが、まだ、雰囲気が華やかなだけに、居心地はいいんです」

「なるほど、主婦の客層と、男性の客層ではあきらかな違いがあるんですね」
「そうなんです。どっちがいいとか悪いとかじゃないけれども、好きなのは、午後の主婦のお客様のほうですね。答えるのに困るような質問はめったになく、どちらかというと、私を相手に、愚痴をこぼすような感じでいらっしゃって、『話すだけ話したらすっきりしたわ・・ありがとうね、マスター』といって明るい顔で帰ってくれるんです」

「男性のお客様は、そういうわけにはいかないんですね?」
「ええ、ぜんぜんダメですね・・・」

「単刀直入に伺いますが錦織さんはどうしたいんですか?」
「うん・・・売り上げは減らせないから、来るなとはいえない。これははっきりしています。でも、それ以外は、どうしたらいいか・・・まったく分かりません」

「男性客の嫌な点は、雰囲気が暗いということでしたね?」
「はい、そうです」

「他には?」
「会話にならないことでしょうか?私も聴かれたことには答えるけど、それ以上にはならない。議論は振られても、議論してはならない」

「議論をしたことはあるんですか?」
「議論に巻き込まれそうになったことはあります」

「お客様は不愉快そうだった?」
「不愉快と言うか・・苦虫つぶしたような表情だったけど・・・」

「お客様から話しかけられるのは、議論が多いわけではないですよね?」
「ええ・・」

「でも、かわしてしまうのはどうしてなんでしょう?」
「苦手意識があるのかな?」

「どうしてそう思ったんですか?」
「うん・・なんとなく・・・」

「なんとなくそう感じたんですね」
「うん・・・昔、サラリーマンのおちこぼれって言われたことが尾を引いてるのかな?」

「脱サラしてコーヒーショップを開いたころの評価が思い出されるの?」
「そうですね。サラリーマンを全うした彼らに、負い目と言うか・・・」

「うん・・・・深い心の闇を見せていただいた気がしますねぇ・・。その勇気に感謝します」
「そんな、勇気だなんて・・・」

「マスターの人生って、今何合目なんでしょう」
「え?」

「ごめんなさい、唐突過ぎましたね。人生を山登りになぞらえて考えると、今、何合目でしょう?」
「ああ・・六合目かな?」

「六合目まで昇った満足感は?」
「満足感は八〇点。いろいろあったからネェ・・よく頑張ったって思うよ。こんなこと、あんまり考えてなかったけど・・」

「では、六合目まで昇った充実感は?」
「・・・」

まったく予期しない質問に、マスターは長く沈黙し、考え込んだ後小さな声で「やっぱり八〇点」と答えてくれました。
ビジネスパーソンとしての人生を含めて、マスターの六二年の人生は、満足感も充実感もあるそうです。しかし、段階の世代といわれる同世代の人たちが、会社人生を卒業してくるのを見たとたん、自分の人生の軸を「他人」においてしまったようです。自分の人生は自分のものだからこそ、「自分軸」で生きることが大切であることを、この後三回のセッションで取り戻したマスターは、今ではお客様と元気よく議論することがあると言います。組織人だったビジネスパーソンは、組織から開放されたとたん、誰とも真剣に話す機会がなく、淋しい思いをしていることを、お客様から教えられたマスターの新たな接客サービスの一つになったのです。
男性は、とかく自分の感情を表に出したがりません。ここにコミュニケーションが上手くいかない理由があるのです。
お客様との議論は、勝ち負けではなく、相手の言いたいことを汲み取り、自分の意見も主張する良い機会として、他のお客様を巻き込むこともあり、午前中も活気ある雰囲気が取り戻せたそうです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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年配の部下とのコミュニケーション~年配者への配慮を持ちながら、職場の管理者としての役割を果たす戦術を考える~


年配職人とのコミュニケーションに悩む三〇代半ばの管理者とのコーチングです。
中堅製造メーカーに勤務する川畑さん。年配職人社員とのコミュニケーションに悩み、コーチングを受けることになりました。

「はじめまして。川畑さんの仕事は、管理部門で業務管理が主だということですが、どんなお仕事をされているんでしょうか?」
「はい、私は、製造工程表に基づいて、仕事の割り振りや資材の調達と管理を主にしています」

「幅広い業務ですね。やりがいを感じるところはありますか?」
「仕事は楽しいんですが、現場の職人さんは皆さん、親父みたいな年齢の人ばかりなので、なかなか・・・」

「何か、思い切って全力投球することが出来ていないように感じるんですが、何か川畑さんの気持ちを阻むものがありそうですね?」
「はい、職人さんは、コミュニケーションをとることもまっすぐ、実直にストレートに来るんで・・たとえば、急ぎの仕事を頼もうとしたりすると、『今出来んことぐらい見て判らんか!』とか、『そんなの自分でやれ!俺には関係ネェ』で片付けられてしまって。親父のような年代なんで、言われたらそれ以上は反論出来なくて・・自分も、管理者になる前は、製造の現場にいたんで、ちょっとはモノが造れる技術はあるんです。だから、どうしても急ぎだと、自分でやっちゃうしかないなぁと思って現場に入ると、課長からは『お前がそんなことするから、あそこで職人が2人も遊ぶじゃないか!管理者は管理が出来て初めて仕事が出来ると言うんだ。自分でやってどうする?』と、こっぴどく叱られる始末で、どうしていいやら分からないんです」

事情を説明している間に、すっかりしょげ返ってしまった川畑さん。気の毒ですが、本来の自分の役割を全うするための方法を探らなければ、解決しないことにまだ、気づく余裕が見られません。

「川畑さんはどうしたいの?」
「え?・・・」

「自分の業務を全うしたいんですか?」
「もちろんです!当たり前じゃないですか!そのために・・」

相談に来ているんだとばかりに、眼が殺気立ちます。

「コーチの私に出来ることが何かありますか?」
「いやぁ、初めて逢った人に職人さんたちを教育して欲しいといったって、彼らは心を拓きませんよ。プライドが高くて、閉鎖的なものの考え方をする人たちですから、あなたの言うことを素直に聞くとは思いません」

「そうですね。私がいくら、コミュニケーション能力を発揮して、川端さんとの関係を穏やかにして欲しいと申し入れたり、職人さんにコミュニケーションのあり方について教育しても、所詮、職人さんたちにはおせっかいとしか理解されません。ところで、職人さんたちを認めるべき点はどこですか?」
「職人さんの認められる部分は、やはり技術力の高さでしょう。人間的にも実直だしまじめだし・・」

「尊敬出来る?」
「職人としては尊敬出来ます。でも、人間的かというと・・・すぐ大声出すし、すぐ怒鳴るし」

「川畑さんにだけですか?」
「いや・・・どうかなぁ・・課長には怒鳴ってないから、自分たち、若い者だけにかもしれません」

「若いから馬鹿にしてるんだろうか?」
「馬鹿にすると言うか、頼りなく思ってるかもしれません。何せ、相手はこの道一筋四十年とか四十五年とかですから・・」

「子供と同じ世代の社員には、ついつい態度が横柄になるのかしら?」
「年齢と言うよりも、技術力が不足しているからじゃないかな?職人は、プライドが高いですからね」

「なるほど、プライドが高いのね。それは仕事に反映されているの?」
「はい、わずかな仕上がり具合が気に入らなくても、もう一回作るからと言って、勝手に納期を延長したりして、管理者としては、納品期日に間に合わないことのほうにやきもきさせられますよね」

「いつもいつも、納期を無視して仕事をしているんですか?」
「いや、もちろんいつもじゃありません。多くは守ってくれるんですが、どうしても見過ごせない傷が残ったとか、R(カーブ)の仕上がりが気になるとか、絶対譲れないポイントでは、納期度外視ですね」

「会社として困るんじゃないの?」
「もちろんです。後工程のセッティングに影響が出るわけですし、会社の信用にもかかわりますから、そういう意味では、全体への影響もあります」

「そんな時、川畑さんはどうかかわるの?」
「そんなこと、いちいち気にしてたら利益も減るし、信頼もなくす。検査は、品質管理が判断するから、手直ししなくていいから早く出して・・と・・」

「もし、川畑さんが職人の立場だったら、そういう管理者をどう評価する?」
「・・・・」

「職人としての仕事に敬意をもっていると思えるかしら?」
「・・・・」

「職人としてのプライドが傷つけられたとは思わないかしら?」
「・・・・」

「その程度の仕上がり具合でいいんだ。責任は管理者が取るんだから、多少手を抜いても簡単に作業をすればいいんだ。それだったら楽なもんだって手を抜くことを考えないかしら?」
「・・・・」

「相手の立場でモノを見ることは難しいね。ただ、今、このコミュニケーションの不成立は、職人さんにだけ原因があるとは思えないのね。川畑さんは、自分の業務を一生懸命全うしようと努力していることはとてもよく理解出来ます。ただ、仕事はすべての立場の人とのリレーションで出来るものですから、後工程の人への影響を考えることも大切ですが、職人さんとのコミュニケーションの工夫もしないと、それこそ後工程に多大な被害が出るんじゃないかしら?」
「そうですね・・話しているうちに、だんだん、自分のことしか考えていないことに気づきまして・・」

「反省も大切ですね。ただ、次にどうしたらいいかを考えましょうか?次回のコーチングも希望なさいますか?」
「はい、ぜひお願いします」

三〇分は短すぎる時間でした。
自分の業務を全うしようとする者同士、ガチンコで向き合うことが、かえって、コミュニケーションのゆとりを阻むことになった事例です。
お互いが相手を認め合うことが大切なことです。
政府の発表では、七五歳以上の高齢者が、総人口の一〇%を超えたとありました。
今後、地域においても、ますます高齢者とのコミュニケーションの難しさが、人間関係を悪化させるかもしれません。職場での経験は、一生を楽しく生きるためのトレーニングでもあります。
川畑さんの今後の人生に役立つコーチングを目指して、セッションは続いています。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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年配者との交渉が上手くいかない~仕事がうまくいかないのは、コミュニケーションのとり方に原因があった~


インテリアデザイナー歴六年。これからますます仕事に、プライベートに人生を楽しみたいとおっしゃる、前向きな松永さん。住宅メーカーと組んで仕事をすることが多いため、内装の打ち合わせに同行することが多く、新しい家が完成するたびに、大きな喜びを感じるそうです。また、自分が手がけた家の写真撮影を許可していただける場合には、アルバムにして、次のお客様の参考にしようと、常に前向きに自分の仕事に工夫を凝らしながら楽しんでいました。
ところが、今年の初め、正月気分が抜けないくらい早々にいただいたお宅の打ち合わせ以後、すっかり気持ちがふさがり、このごろは、仕事も休みがちで今後どうしたらいいのかというテーマでのセッションでした。

「おはようございます。とても疲れていらっしゃるようですが、お体の具合はいかがですか?」
「すみません。病気とかではないんですが、なんとなく全身に力が入らなくて・・」

「これまでも、そんなことがあったんですか?」
「いえ、病気一つしたことがなくて、おかげさまで医者に知り合いが出来ません。仕事でのクライアント以外は・・」

「なるほど、そのくらいお元気な方が、なんとなく全身に力が入らなくてとおっしゃる。何かお心当たりがあるようですね?」
「はい、今年の正月にいただいた仕事が、お医者さんのご自宅の新築だったんですね。若いご夫婦といっしょに暮らすから二世帯住宅をというお話でした」

「二世帯住宅。仕事も倍という感覚でお引き受けになるんですか?」
「そうですね。基本的には、親御さんの居住部分は、和のテイストでまとめることが多いですし、お若い方の住居部分は洋のテイストでまとめることが多いので二つの仕事を同時に進行させるという感覚で心構えをします」

「それは大変ですね。1度に二つの物件を扱うわけでしょう?松永さんお一人でされるんですか。それとも人は使ってらっしゃるんですか?」
「はい、スタッフは三名います。いずれも主婦の方で、パート契約をしています。仕事があるとき、時間があるだけ働いていただくというスタイルです」

「そのお歳で、年上の方を使われるのはしんどいでしょう?」
「そうですね。三十三歳にしてこの発展は、ほんとうに幸運だったと思います。ただ、この年齢が災いしたのかなぁ・・」

「どんな問題を抱えられたのでしょうか?」
「そのお宅のクライアントが、私の提案を、ことごとく否定するんですね。でも、同じことをスタッフが表現を少し変えてお客さんに打診させると、それはOK!って二つ返事で話が進むんです」

「具体的に伺ってもいいですか?」
「はい、たとえば、『親御さんのお宅の玄関の壁を利用して、お写真を飾ったらいかがでしょうか?』と提案させていただいたんですね。とてもお孫ちゃんたちと仲が良いお宅なので、やり取りを聞いていたら、ほのぼのとしていい雰囲気だったんです。そこで、お玄関横の壁をフォトギャラリーのようにして、写真を5・6点、飾ったらいかがでしょうか?という提案をしたんです。ところが、最初は、『医師仲間が尋ねてきたとき、落ち着きのない家だと思われるのはかなわん。そんなことは、若いもののやることだと』頑として受け付けなかったんです。
ところが、スタッフが『お孫さん思いのおじいちゃまのお気持ちを、写真を飾ることで表現させていただけると嬉しいですねぇ』・・と言ったとたん『それはいい!ぜひ、そうしてください。写真を選ばなくちゃいけないなぁ』と、がらりと変わって『すぐに写真と写真を飾る額を選んでください』と、発注がきたんです」

「結果はオーライですねぇ」
「もちろん、結果だけを見ればいいんですが、どうして同じ提案なのに、私は駄目で、スタッフはいいのか、腑に落ちなくて・・・」

「スタッフの方は、この件はなんておっしゃってるんですか?」
「コーチと同じです。結果が良かったんだから、それでいいんじゃないかって?」

「なるほど。でも、松永さんは納得出来ていないんですよね」
「はい、結果は確かに良かったんですが、なぜ、私ではだめで、スタッフならいいのか。それが知りたいです」

「それを知ることは、今後にどんな影響を与えますか?」
「年配者との交渉がうまくいくと思います」

「なるほどね、交渉がうまくいくわけですね? ところで、スタッフさんは、お客様と交渉しているんだろうか?」
「ん??どういうことですか?」

「言葉尻を捕まえて申し訳ないんですけれどもね、交渉しているのかな?お客様のご相談に乗っているというふうに考えてみると、松永さんとスタッフさんの違いは何でしょうか?」
「ん・・・お客様とは、商談や交渉はしますが、単なるご相談に乗っている関係であると思ったことがないので・・・」

「なるほどね。スタッフさんは、お客様の孫を思う気持ちをうまく褒めて、提案をしていますよね?」
「そうですね・・・」

「交渉は大切だと思うんですが、施主さんやそのご家族の気持ちを引き出すような進め方をすると、何か障害になることがありますか?」
「うん・・私が若いということは、問題ではないのでしょうか?」

「松永さんご自身はどう考えますか?」
「スタッフがみんな年配者だから、上手くいっているとばっかり思っていました」

「そうですね、確かに、日本という国では、歳をとっているほうが、信頼を得やすい気がします。でも、それだからといって、すべてが上手くいってないわけではないように思いますがいかがでしょうか?」
「私には、相手に配慮するという視点が欠けていたんでしょうか?」

「率直に、今までのお話から、私はそう感じました」
「そうか・・クライアントとは交渉するもんだと思っていました。お金をいただくんだから、責任ある仕事をしなくちゃいけないと思って、力が入ってたかも・・」

「インテリアデザイナーの仕事がしたいのか、お客様の喜ぶ顔を見る手段として、インテリアデザイナーでありたいのか、どちらなんでしょう」
「うん・・・難しいけど、それをゆっくり探してみます。何か、目先のことだけ考えていたような気がします。歳は急いで取れないし。ちょっと気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございました。次回のセッションは・・・」

答えがすぐに見つかるセッションばかりではありません。
時間をかけて支援出来る、コーチの仕事の魅力の一つですね。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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