コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

部下とのコミュニケーションがうまく取れない新任課長のコーチングです。~部下とのコミュニケーションを考える~


新任課長との出会いは、会社のコーチングルームに、予約なく訪問されることから始まりました。

「コーチ、ちょっと話したいことがあるんですが、いいですかねぇ・・」と腰をかがめながら入室された新任課長。
「どうぞ、どうぞ。はじめましてコーチの今井です。よろしくお願いします」と挨拶し、いすを勧め腰をおろしたところでさっそく「部下の山田のことですが、彼が何に悩んでいるのかわからんですが、山田は、この部屋ではどんなことを話題に話しているのでしょうか?」との質問を受けました。

通常、コーチである私は、守秘義務を職業倫理として掲げているため、上司であっても生命の危険等、緊急性が高いか、本人の承諾を得なければ話の内容を開示することはありません。

「ご質問は、山田さんの話の内容を明かしてほしいということでしょうか?」と柔らかく尋ね返すと、「いや、まぁ、何を話しているかを知りたいのはもちろんですが、何を考えているのかがわかれば、もう少し、彼をサポートしてやることが出来るのではないかと思いまして・・・」

「なるほど。部下の考えを知り、サポートしてあげたいと思っていらっしゃるんですね」
「そうです。山田は、何でも一人で抱え込んでしまうたちらしくて、それでは、彼の下にいる若いやつらも育たないですよね? それに、私は、仕事はチームですべきであると思っていて、個人が自分のマンパワーで仕事をするというのでは、異動になったとき困ると思うんです。それと、この間は、山田から、『自分は行政が主催する健康相談会に行ってきたが〝うつ病になりやすい。注意したほうがいい〟と言われた。それだけは避けたいというんです』。

まるで、私が「うつ病」になりやすくしてるみたいに言われてしまって、私こそ、どうしていいのかわからず、ストレスがたまる一方なんです。そんなとき山田がコーチングルームに出入りしていると聞いたもので、上司の私に話さないことをコーチに話しているのではないかと思うと信頼を裏切られたような気がしていてもたってもいられなくて、失礼を承知で押しかけてきたんです」
勤めて穏やかに話そうと心がけていらっしゃるように見えますが、怒りを強く感じさせる口調で話しは続きました。

「いくつかの問題を同時に抱えているように感じるのですが、一番初めに解決したいことは何でしょうか?」
「そうですね、まず、彼が何をしているのか、報告してもらったり、相談してもらえたりすればいいと思います」

「なるほど、報告と相談が必要なのですね。それが出来るようになると、課長さんにはどんなものが手に入るのでしょうか?」
「手に入るもの?・・・なんだろうなぁ。日ごろから報告や相談を受けていればもし彼に、スタンドプレーされても、安心出来るかな?
いまだと、何が起きるかわからないから、不安で落ち着けないことが良くありますからねぇ。いまより安心出来るんじゃないかと思うんです」

「失礼を承知で伺いますが、ご自身の評価に影響することだから、部下の行動が気になるのですか?」
「まぁ、そうですね。私は彼の上司ですからね。取引先の人から、私の知らない彼の行動を教わる私の身になってください。管理者としての能力がないような気持ちに追い込まれるんですよ」

「なるほど、管理者としての能力がないように思われるんですね。つらいんですか? 怒りを感じるんですか?」
「怒りですね。もう少し人のこと考えろって感じかなぁ・・」

「そうですね。課長のことを考えてほしいっていう感じですね。ところで課長が山田さんのことを〝人の気持ちや立場がわからんやつだ!〟とレッテルを貼って見ていることを、山田さんは感じているようですか?」
「うん・・それはどうかな?感じているんだったら、もっと積極的に自分から接触してきてもいいと思うけど・・」

「つまり、感じてないから、行動が変わらないとお考えなんですね」
「はぁ、まぁ、そういうことになりますか? よく分かりません」

「一つ、私が今感じていることをお話してもいいですか?」
課長は不安な表情を浮かべ、少し私の話を聴くことを躊躇しましたが、嫌だ!とは言えない様子で、私の意見を聴こうとします。

「課長さんから伺う山田さんの考えは、すべて課長さんの憶測(推測)でしかありませんね。これは、コミュニケーションの量が絶対的に不足しているから起こっているように感じられます。
1日のうちで、五分でもいいから。仕事の話でなくてもいいから、彼と話す時間を作ってみたらいかがでしょうか?」
「(無言)・・・」

「私のアドバイスが嫌だなぁというお気持ちがあれば、どうぞ遠慮なさらずおっしゃってくださいね。いかがですか?」再度促されてようやく課長は「話す時間を作るといっても、何を話していいか、それすら分からんのです。出勤したらすぐに出かけてしまう日もあるし。そうかと思うと、ずっとパソコンの画面に向かってぶつぶつ言ってるから、話しかけちゃ迷惑になるかもしれないと思うし。彼がしたいと思うことなら、どんなことでも課長の自分が責任はとってやれるから、やらせてやりたいと思うけど、そのためにも彼が何をしているかは把握しておきたいんです。そうじゃないと、私としても責任のとりようがありませんから」

「部下に寄せる思いはとても熱くていらっしゃるんですね。もったいないですね。そんな課長さんの気持ちが伝わっていないことが・・・。どうでしょうか?まずは、その自分の気持ちを伝えてあげるだけでもいいんじゃないですか? 聴いてほしいことがあるけれども、今いいか?と話し始められたらどうですか?」

「彼が忙しかったらどうしようか?」
「忙しければ忙しいで『今でなくてもいい』とつけ加えてみたらいかがですか」

「そうですね・・」
「そのほか、どんな言葉を準備したらいいと思いますか?」

「そうだなぁ・・・今日の予定は?と聴くとか・・」
「うん、それいいですね。一度、声をかける練習をしてみましょうか?私が部下をやりますが、いいですか?」

「そうですね。でも、子供じみてるし・・・。一度、席に帰って考えます」
入ってこられるときよりは、少しはすっきりした顔をなさった新任課長。でも、まだまだ肩に力が入っているから、会話の練習を子供じみていると思うのでしょう。もう少しリラックスして、自然に会話が出来るようになればコミュニケーションがとれるようになります。

コミュニケーションがとれず、強いリーダーシップも発揮出来ずに悩んでいるのは、自分に原因があることに気づいてくれる日があるといい。人を変えることは出来ませんが、自分が変わることが出来る。そう伝えてあげることが出来たら、もっと肩の力が抜けるのではないかと思いながら、背中を見送りました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る


コメント(0) | トラックバック(0)

新任センター長と古参社員との戦い(その3)~新任管理者、職場改善を目指す~


いよいよ三回目のコーチング予約日がやってきました。浜田さんは、これまでの二回より足取りも心も軽いことを感じながら、コーチの元へとやってきました。

「和田さん、一つ荷物が降ろせたんです!」

部屋に入るなり、浜田さんは和田コーチに明るい声で話しかけました。
「浜田さん、どんな荷物を降ろされたんですか?」
和田コーチは、いきなり話しかけられたことにもすぐに反応し、浜田さんの話を先に進ませようとしました。
「敵じゃないんですよ。どんな社員にも、良いところと悪いところがある。悪いところにばかり目を向ければ、どんどん悪いことばかりが目立つようになる。ところが、良いところに目を向ければ、どんどん良いところが目立つようになるんですね。
先週、あのあと、正直言って職場に戻りたくなかったんですが、センター長はそのまま帰ってしまうに違いないと悪口を言っているような気がして、半ば意地のような気持ちで、職場に戻ったんです。ここで逃げたら、あいつらに負ける・・なんて感じでした。
職場に戻ると、いつもならセンターにないはずの人影が、その日に限ってあるんです。どうしたんだろう?と思いながら、『戻りました』と声をかけると、『お帰りなさい、センター長。ちょっといいですか?』と、古参の女性社員のほうから声をかけてきたんです。
どうせ不平か不満なんだろうなぁとうるさく思いました。私のそんな気持ちは、顔にも出たかもしれません。でも、話は聴かないといけないと思い事務所に入ったんです。
古参女子社員の態度はいつもと同じように横柄なものに感じましたが、ここは負けてはいけないと思って『何かあったんですか?』とたずねると、『センター長さんがお出かけの間に、1件、クレームがあって。ドライバーが一人待機していてくれたので、効率は悪いのですが、そのお宅にだけ届けるために、今向かってもらっています。まもなく到着だと思うので、約束の時間には七十八分ほどの遅れで商品は届くと思います。お客様へのお詫びの電話ですが、これは、私ももちろんいたしましたが、センター長からも電話をしていただけると助かります。お詫びはしたんですが、どこまで私の真意を伝えられたか、自信がないんです。帰ってきて早々、つまらない話で、申し訳なく思います。よろしくお願いします。ほんとに勝手にやってしまって申しわけありません』と、一気に報告して頭を下げたんです。

でも、和田さん、あんなに嫌だった古参社員の横柄に見えていた態度についても、ぜんぜん気にならなかったし、それどころか『申し訳ありませんでした』と素直に頭を下げている女子社員を見ていると、不思議なくらい自然にその社員に『ありがとう、適切な処置で助かったよ。電話、今からすぐかけてみようと思う』と、心から言えたんですよ。

お客様に連絡したら、『担当の女性からも電話をもらっています。誰でも間違いはありますから。それよりも孫の誕生日のプレゼントすぐに対応していただいたので、お誕生会までには間に合ったんですよ。おかげさまで孫の喜ぶ顔を見ることが出来ました。どうもありがとう・・』と、お客様から暖かい言葉もいただけたし。今まで僕は、どんな眼で彼女たちを見ていたか?
ちょっと申し訳ないかなぁという気持ちです」

興奮気味に話す浜田さんの言葉を、ときにうなずき、ときに促すように和田さんはじっくり聴いていました。
「浜田さん、私もすごく嬉しいです」和田コーチの言葉に、浜田さんは怪訝な顔をして聞き返しました。「なぜ、和田さんが嬉しいんですか?」
「浜田さんの考え方が、すっかり変わったこと。彼女たちを仲間として受け入れてくれようとしていること。何より、浜田さんが目指す、お客様の笑顔をもらったこと。これらすべてが嬉しいです」

和田コーチは、心底嬉しそうに微笑んだあと、浜田さんに話かけました。

「浜田さん、改めて伺いたいのですが、よろしいですか? 浜田さんは、彼女たちにどんな働き方を望んでいたんでしょうか?」
「時間いっぱいうまく使って体を動かすこと。あと、仲間という意識を仲良しクラブといった子供じみた持ち方をするのではなくて、大人として持ってもらいたかったんです。アルバイトをあごで使ったりとか、男性社員の目を意識するということではなくて、アルバイトも男性社員も交えて、一つのチームであるというような感覚を持ってもらいたかったんです」

「そのことは、ちゃんと言葉で伝えましたか?」
「いやぁ、そんなことは大人の常識というか、長く仕事してるんだから、知っていて当然だと思っていたから、わざわざ特に話しはしませんでしたよ」

「でも、浜田さんの真意は、伝わっていたのでしょうか?」
「いや、今から思うと、僕は面倒なことには関わらないようにしていた気がします。言うと何か言い返されるような気がしていましたから・・・・」

「そうですか・・。前回は、チームメイトのことをあいつらと、まるで敵対視するような表現だったんですが、彼女たちからみた浜田さんは、どんな存在だったんでしょうか?」
「やはり、彼女たちから見たら、よくわからん上司だけど、うるさいことだけは言う、嫌な敵だったんじゃないでしょうかねぇ・・」

「今は、どうですか?やはり『あいつら』でしょうか?それとも信頼出来るチームメイトでしょうか?」
「もちろん、全面的に信頼出来るとは思っていません。シビアな言い方をすれば、経験が長いんだから、クレーム処理ぐらい出来て当たり前かもしれないです。ただ、報告のタイミングとか、報告の仕方が、いつものふてぶてしいものじゃなく、具体的だったし、客観的にクレームに対してくれたり、冷静に対応してくれたりで、やれば出来るんだという手ごたえみたいなものを感じました。まぁまぁ、磨けば何とかなるのかな?と思っています。そして、彼らと一緒に仕事をしていくことで私も成長出来ると思っています。やはりお互いが認め合える仲間になれればいいと思っています」

「そうですね。コミュニケーションは、キャッチボールですよね?これまでの浜田さんと古参社員の関係は、ドッジボールしているように、ボール(言葉)をぶつけるだけのような関係でしたよね?これでは、受け取る側も、今度受け取ったら、当ててやろうという気持ちを育ててしまいますよね。評価は、必ずしも『良い』『悪い』だけであらわすものではありませんよね。少しでも、褒められるべき点があれば、それを認めて受け止めることも大切ですね」

「改めて考えてみると、和田さんから、『彼女たちの良いところを見つけるための質問』を受けたことを思い出し、その意味がようやく分かりました。真にチームワークを高めるためには、まだまだ時間がたくさんかかると思うんですが、とりあえず、今までのような冷戦状態をとることだけはやめて、厳しさの中にも温かみをもって接してみるつもりです。どうもありがとうございました」と、浜田さんは、心の中に抱えて歩いていた重い荷物を一つ下ろしたように、すっきりした表情で部屋を後にしました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る


コメント(0) | トラックバック(0)

新任センター長と古参社員との戦い(その2)~新任管理者、職場改善を目指す~


流通センターに就任した新任センター長の浜田さんは今年五十二歳になる社内経験豊富な部長です。

前回は浜田さんの現状を訴えたいという思いを、和田コーチが傾聴することに終始したコーチングでした。
「浜田さん、1週間たちましたが、古参社員とどんな関係作りを望むのか?考えてすごされましたか?」という和田コーチの少し厳しい表情から二回目のコーチングが開始されました。

「いやぁ、よく分かりません。感じることはやはり同じですね。毎日毎日、社員の勤務振りに対して・・というか、態度が気になって気になってしようがないですねぇ。相変わらず、ルーズに休憩時間を延ばしているし、夕方の掃除も、どうもやっているのは、比較的年数の短い人がいやいややっているようにしか思えません。私のモチベーションまで引き摺り下ろされそうで、もう、相手にしないで事務所からなるべく出ないようにと心がける以外、手はないのかなぁ・・と考えています」
「浜田さんは、このままでは、自分のモチベーションも下がる、だからどうしたらいいかということも考えられたわけですね?」

「まぁ、そうですね。自分のことはまず守らなければと思います。本社の人の目は届かないわけですから、実態を知らない本社の人に、自分まで、あいつらと一緒だと思われたくはないですからね」
「あいつら」という言葉をはっきり口に出した時に、浜田さんの表情が少し緩んだのを和田コーチは見逃しませんでした。和田コーチは、厳しい表情を崩さないまま浜田さんに質問を重ねました。

「浜田さん、あなたにとって、部下ってどんな存在なんですか?」
「はぁ?・・・・・・・・・・・(沈黙)」

お互い、その状況に耐えられなくなるほど沈黙している時間が経過しました。

「浜田さん、あなたがお答えになるのを待っていたのですが、お答えがでませんか」
和田コーチは話し始めました。
「浜田さん、部下の方を『あいつら』と言われたのですがそのことに気づかれましたか?わたしには、『あいつら』という表現の中には、『仲間』とか、『チームメイト』というような暖かなものが感じられませんでしたが、浜田さんは、どんなお気持ちで『あいつら』とおっしゃったのでしょうか?」

心の中を見透かされ、懐を一気にえぐられたような気がした浜田さんは、また、表情を固くして下を向いてしまいました。

「あの・・和田さん、今、そのことについては話したくありません」そう伝えるのが精一杯でした。
浜田さんの答えに、和田コーチは始めてにっこり微笑みました。

「いいですよ。答えたくないという答えがあることに気づいていただけたことが私は嬉しいです。ものの見方って、いくつかあると思います。まっすぐに表からだけ見るのではなくて、裏側からも見ていいんですよね。必ずしも質問には答えなければならないということではありません。『No』という答えも、また、答えですよね」と、穏やかな表情で、冷静に話す和田コーチに、浜田さんの心が包まれているような感じを抱いたようです。重ねて、和田コーチの質問が続きます。
「浜田さん、無理やりに考えてもらう必要はないのですが、古参社員の方のこれは素晴らしいと認められる仕事ぶりは何かありますか?」

「そうですねぇ・・経験年数があるから、出荷間違いは、まず、ありませんね。その点はしっかりしています。安心して任せられます。むしろ、営業が間違って出荷価格を入力していることが、一目で指摘出来るぐらいのスキルの高さはもっているんです。この間も、営業サイドで単価の入力間違いがあって、これまでより高い値段で出荷しそうになって、危うくクレームになるところだったんですが、それを見つけて未然に防いでくれたんです。そういうときは、饅頭を差し入れたりして、ご機嫌を取ったりするんです。まぁ、それなりに饅頭の効果はあるようですが・・」
「なるほど。浜田さんは、気も遣い、お金も遣ってご機嫌をとっているわけですね。饅頭を買っているときの浜田さんの気持ちは、どんなものですか?」

「いやぁ、正直、お金の無駄遣いだなぁと思うこともあるし、こんなご機嫌とらなくちゃならない部署は、早く異動させてほしいとさえ思うことがあります。本来は、お客様の笑顔を創造出来る、いい職場だと思っていたのに・・・」

古参社員のことを話すにつれて、どんどん、落ち込んだ表情になる浜田さんに、和田コーチは言いました。

「浜田さん、もし浜田さんが、チームメイト(仲間)として受け入れられず、敵対視されながら職場に迎えられたとしたら、頑張って仕事をしよう、この仕事はお客様のために働き甲斐があると感じることが出来るでしょうか?一生懸命に仕事をしようと思えるでしょうか?」

ようやく和田コーチは、質問の核心に触れました。

「う~ん・・・(沈黙)」
しばらく黙って考えていた浜田さんは、「そうですね。難しい問題ですね」そう言って、また黙りこんでしまいました。
「・・・・・・(沈黙)」

黙り込んだ浜田さんをみて、今度はさほどの時間を空けずに、和田コーチは浜田さんに言いました。

「そうですね。難しい問題ですよね。それでは、次回までに、この質問の答えを探してきていただいてもいいですか?」
救われたように顔を上げた浜田さんは、和田コーチにアイコンタクトをして大きくうなずきました。
「和田さん、今日のこのコーチングの時間は私が次回までに答えを探すのに効果的であったのでしょうか?私は、あなたの求めるとおりの答えを出せていない気がするのですが・・・それでいいんでしょうか」

和田コーチは、同じように深くうなずき、ゆっくり息を吐いて穏やかな口調で言いました。

「コーチングは、コーチである私が求める答えを探すものではありません。私は答えを求めていません。コーチの私のためにコーチングをしているわけではありません。
浜田さんが自分自身でどうしたいのかを考える事が大事なんです。ゆっくり時間をかけて、自分を大切にして考えてみてください。」
このようなやり取りにて二回目のコーチンの時間が終わりました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る


コメント(0) | トラックバック(0)

新任センター長と古参社員との戦い(その1)~新任管理者、職場改善を目指す~


流通センターに就任した新任センター長の浜田さんは今年五十二歳になるやり手部長です。
流通センターの仕事は、商品をお客様に届ける最前線の仕事。荷物を今か今かと持ち構えていてお届けしたときのお客様のほっとした顔や、思いがけないギフトを受け取ったときのお客様の喜ぶ笑顔などを思い描くだけでワクワクするというホスピタリティにあふれた浜田さんとしては、これぞまさしく天職とばかりに、異動辞令を受け取りました。それはわずか半年ばかり前の出来事です。しかし、センター長として着任してみては一週間、二週間と時間を重ねるごとに元気ややる気が失せていくのが自分でも感じました。それは上司の眼からも目に見えてわかるほどになっています。

「浜田部長、最近元気がないようだがどうかしたのか。私が相談にのってもいいのだが、いろいろなことを支援してくれるコーチ制度を会社として設けたのだ。私に相談するより気楽に出来ると思うので、コーチングを受けてみたらどうか」

社内に新しく設けられたコーチングルームに足を運んだらどうかという、担当役員からの勧めもあり、コーチングを受けた経験などなく半信半疑ながらコーチングを受けてみようと思って、会社が外部から雇い入れた専門のコーチに会ってみることにしました。
「浜田さんですね、始めまして、私、コーチを専門職としています和田と申します。よろしくお願いします」

「あ、はい。和田・・・なんてお呼びすればいいんでしょうか?」
浜田さんは、コーチングのことが良くわかりませんので、コーチのことをどんな風に呼んだらよいかがわからず、口ごもってしまいました。
「浜田さん、そうですね、どんな風に呼ばれてもかまいませんよ。浜田さんの呼びやすいもので結構ですよ」

和田コーチにそう言われても、浜田さんから次の言葉がでてきません。

「そうですね、『和田さん』と呼んでいただきましょうか。呼びづらいですか?」と、和田コーチは、ソフトにたずねました。
「いいえ、大丈夫です。『和田さん』と呼ばせていただきます。それでは和田さん、始めまして浜田です。よろしくお願いします」一旦、不安が消えると、浜田さんは部長としての威厳を持って礼儀正しく挨拶をしました。

「浜田さん、コーチングについて、まず説明をさせていただいてもよろしいですか?」と、和田コーチは今後三ヶ月間の間に十二回の会話する時間を三十分ずつ持つことや、この場での話の内容は決して他言しないなどというコーチの倫理についての説明を丁寧に行いました。

「何か、ご質問をいただきたいと思うのですが、いかがですか?」
「いや、良くわかりました。では、今回は、私の悩みを話してもいいですか?」と、浜田さんは少しの時間も惜しむかのように、自分が置かれている状況を話し始めました。

「実は、職場の女性九名のほとんどが古参社員で、私よりも皆、流通センターでの仕事は長い人ばかりなんです。男性社員は、配置換え等の事情があって、そこそこ若い人もいるし、年配者であっても、経験年数は三年くらいと比較的短い人が多いんですね。後は、アルバイトが数名いるんですが、いずれも学生で、まぁ、やる気があるんだかないんだか、良くわからないけれどもまじめに一生懸命仕事をしているようには見えます。
問題は、この古参社員の仕事振りなんです。休憩時間は守らない、勝手に何度もお茶を飲みにいってしまう。夕方なんか、最後のトラックを見送ると、休憩室に上がりこんでしまって、横になって休んでいるものも居る始末。職場でも、大きな声でおしゃべりはするは、アルバイトのシフトを勝手に変更するわで、とにかく自分のセンター長としての立場がなくなるようなことを平気でするんです。
この間、あまりに目に余ったので、シフトの変更は、センター長の責務で行うこと。出すぎた仕事はしないで欲しいときつくいったんですが、『これまでは私たちがやってきたんです。センター長さん、あなたは事務をしているだけで、何も現場のことがわからないんだから、任せてください』と、えらい剣幕でまくし立てられて。挙句の果てに、休憩時間を三十分も延長されてしまって、一部の業務に支障が出るところだったんです。だけど、勤務時間は就業規則でも決められているんだから、夕方のトラックを送り出してしまったとしても、何か、見つけてでも仕事をするのが社員としての勤めだと思うんですよね・・」堰を切ったように一気に思いのうちを話した浜田さん。ようやくここで一息つくかのように、肩で大きく息を一つしました。

「なるほど、そうですか。どうぞ、その先を続けてください」和田コーチは、一息入れている浜田さんを見て、更に先を促します。

「この間の忘年会では、まぁ、私が居たら盛り上がらないだろうと思って、気を使って乾杯だけ済ませて後は用事がある振りをして、退席したんですが、後で、『センター長、居心地が悪いで帰っちゃったんだわ。この間、あんなやぁらしいこといったから、しょうがないわねぇ』と、宴席で言ってたということを信頼する男性社員から聞かされて。私の気持ちも分からない、自分勝手な連中なんで、よっぽど人事に言って、即、人事異動させたろうと思ったんですが、あまりに大人気ないのでそれはやめたんです」と、たまりにためていた怒りをぶちまけました。

「和田さん、この自分の気持ち、分かりますか?」浜田さんは、何とか自分の気持ちを伝えようと一生懸命話したことが伝わったかを、和田コーチに確かめる質問で、現状を訴える話を終えました。
「浜田さん、今、とても浜田さんが怒っているということを感じます。そこで伺いたいのですが、浜田さんが今一番、解決したい問題は何ですか?」

「え?一番解決したいものは何ですかって、私がこんなに話したのに、私の気持ちが理解してもらえなかったんですか?これだけ話してもわかってもらえないんだったら、百聞は一見にしかず。一度、職場にアルバイトとして状況を見にきてください。ちょうど、一人バイトを募集している最中だから、見つかったといって、もぐりこむことは出来ますから・・」口も厳しく、眼も何とか窮状を訴えたいと、力がこもっています。

「いや、私が整理したいのは、浜田さんの気持ちなんです。それで整理したいことの順番というか、優先順位を付けたいんです」と言われた。
浜田さんは、すぐに答えることが出来ず、黙り込んでしまいました。
「今日ここでゆっくり考えていただく時間をとりたいのですが、そろそろ三十分の約束の時間が過ぎようとしています。一つ、次回までに考えていただきたいことがあるんですが、よろしいですか?」沈黙の浜田さんの同意を得る前ににコーチは続けます。

「古参社員との関係をどうしたいのか?その点だけ一つに絞って、考えてきてください。次回は、その点の確認からスタートさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「わかりました。次回までに考えてきますが、早く古参社員の何人かを飛ばして明るい職場作りをしたいと思っているので、よろしくお願いします」
浜田さんは、捨て台詞のような言葉を残して、コーチングルームを出て行きました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る


コメント(0) | トラックバック(0)

組合の書記長になっての悩み~思い込みを外すコーチングの効用・効果~


「配置換えがあって二ヶ月。まだ、自分の役割すら理解出来ていなくて、後ろめたさというか、本当に自分でいいのかなぁ?と思うと、辛いほうが先にたちます」とおっしゃる横井さん。
浮かない表情だけれども、眼には力があります。うん・・・辛いのが先にたっているのか、頑張ろうとの気持ちが勝っているのか、果たしてどっちなんだろう?という疑問を感じながら、すぐにセッション開始しました。

「横井さん、はじめまして。今日は、ご契約時に確認した目標の背景と、今、何を考えているかを中心にお話をしていただいてもいいですか?」
「はい、コーチ、よろしくお願いします」

「では、まず、ご契約時のお話では、今回の配置換えで、組合の書記長にご就任になった、そのことでコーチングを受けたいと伺いましたが、どんな理由からでしょうか?」
「はい。書記長って呼ばれるのは正直居心地がいいし、これまでは、一社員としての勤務だったんですが、この前社員通用口で取締役執行役員とお目にかかったら、役員のほうから、『おはよう』と声をかけてくださったんです。一社員のときでは到底考えられないことなのでびっくりしました。
団交のときにしか顔を合わせてないわけですから、いわば、敵ですよね?なのに、覚えていてくださったのが嬉しくて・・・」

「なるほど、ちょっと今までと扱われ方が違うとお感じなのかしら?」
「そうですね。ただ、だから責任が重くてきついんです・・・」

しばらく言葉が出なくなってしまった横井さんは、大きなため息とともに、言葉をつなぎ始めました。

「僕はね、出身が田舎の農家の次男坊なんです。農家というのはみんなが自分の持ち分を発揮して、助け合ってやっていくものです。自分の家だけのこともそうですし、集落というか地域全体のことも自分の役割分担が決まっていて、それを楽しく忠実にやっていくもの。それぞれが自分の役割をやっていくことことが、そこに住む者の使命であり義務なんです。だもんだから、自分の生き方というのは、権利より義務を大事にするものなんですよね。
でも、組合の仕事っていうのは、権利が先なんですよね。権利を主張するのが組合の仕事だから、それは書記長としては当たり前なんですが、ついつい、だからって自分は、自分の周りはちゃんと言えるほどの仕事してるか?って考えちゃうんですよ」
「うん・・・難しい判断ですね・・・必ずしも、みんながみんな、権利ばかりを主張しているわけじゃないでしょう?でも、横井さんの周りには権利の主張だけで、義務を果たしていないのかもしれないと思える人もいるわけなんですよね?」

「ええ、そうなんです。みんなちゃんとやってるってわかっているんですが、この交渉を会社としようと思うときに限って、組合員が問題を起こすような気がして。被害者意識が強いのかな?でも、ほんと、このときに問題起こすなよって言うときに限って、問題を起こされると、会社側から『仕事もちゃんと出来ない組合が何を権利だけ主張するんだ』と言われるような気がして、自分がみんなを代表して交渉するのにもブレーキをかけちゃうんです」
「うん、なるほど。交渉するのに影響しちゃうわけですね。ところで、その問題はほんとうに交渉力を奪うほどの問題なんですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

しばらく沈黙が続きましたが、そのあとで横井さんは堰をきったように話し始めました。

「あははは、厳しいことをあえて言うんですね。そうですよね。コーチにも分かられてしまいましたか。たいした問題じゃないんです。そうなんです。もちろん、そんな深刻な問題じゃないのは私にも分かってるんだよ。問題は、自分の心にあるんだよね。問題を摩り替えているだけだよ、それも知ってる。でもだめなんだよ。自分がコントロール出来なくて、どこかに逃げ込んじゃうってわけ。やっかいだろ?」
「なるほど、逃げ込んでることも理解されているというわけですね。でも、逃げ込んじゃうんですね?」

「ああそうだね、逃げ込むんだよなぁ。そのほうが交渉に失敗したとき、自分が傷つかなくてすむから。この歳で、自分が傷つくことを考えるなんて、おかしいでしょ?」
「いえ、自分が大事なのは、歳とは関係ありませんから・・といいたいところですが、立場上はどうなんでしょうか?」

「うん、やっぱりまずいよな。立場上もまずいけど、人としてもまずいよなぁ・・。いい加減に大人にならないといけないと思う。いつも自分に起きる問題は、他人が持ち込むものだと思っている。悪い癖だと思うが、やっぱり都合の悪いことは人のせいにしたい。こんなんで、書記長なんて続けていいんだろうか?」
「横井さんにとって素敵な書記長って、どんな感じなんですか?」

「そりゃぁ、何事からも逃げない人じゃないかな?人格と品格が伴っているというか・・」
「それは大変ですねぇ・・・。人格も品格も高めなければならない?そうじゃないと、書記長っていう役割は果たせないんでしょうか?」

「いやぁ、みんなそうだとは思わないが、そのほうがいいだろうと思う」
「そうですよね。そのほうがいいという程度のことですよな。自分の与えられた役割を誠心誠意やっていればいいんじゃないですか。結果はあとからついてくるものですよ」

「そうですよね。そうなんだ。自分の出来る範囲のことを一生懸命やればいいんだ」
「そのとおりです。人格と品格が伴っているというのは人が判断するわけであって、自分が判断するものではありません」

「なんか、スッキリしちゃったなぁ・・。自己解決とは違う何かがあるね、コーチングには・・・」
「そうですね、私たちは聴くことのプロであるし、話すことのプロでもあるんです。プロフェッショナルな思いと技がマッチしたら、この仕事は楽しい仕事ですよ」

「そうか、今度は、自分がコーチになれたらいいね。今日はありがとう」
「お疲れ様でした」

眼に力があったのは「やる気の高さ」にあったようですが、何かが絡まっていたので、その眼の力よりも浮かない表情が目立っていたようです。絡まっていたものが解けてすっきり晴れやかな顔で、横井さんは席を立たれました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る


コメント(0) | トラックバック(0)
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24

カレンダー

<< 2017年 2月 >>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728

カテゴリ別アーカイブ

月別アーカイブ