コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

新任所長さんの悩み~着任地での仕事環境を整える~


新任所長の木幡さんは、着任早々、大勢の得意先回りをして着任の挨拶をしました。
しかし、営業部長と一緒にどこの得意先に伺っても、一様に世間話ばかりで、お客様との関係や得意先企業のカラーがつかめず、四日目にしてついに我慢出来ず、担当の営業部長を呼んで叱りつけてしまいました。
以来、社内の雰囲気も悪いような気がしてならず、特に女性社員に人気が高い営業部長だったためか、このごろは、木幡さんが外出する際「行ってきます」と挨拶しても、なんとなく返事によそよそしさを感じてしまうという始末でした。
当の営業部長は、毎月、予算を達成するばかりではなく、予算よりはるかに高い成績を上げ続けているため、これ以上、何かを言わないほうがいいのかもしれないと、臆病にもなっているそうです。

「こんにちは。木幡さん。久しぶりですね。お忙しかったんですか?」
電話の向こうの木幡さんの沈み込んだ様子が伝わってきますが、コーチは、クライアントの感情を恐れず、コーチングをスタートさせます。
「コーチ、日本に久しぶりに帰ってきて、嬉しくてたまらなかったのに、もう、次の転勤先のことを考えているのって、どうなんでしょうか?」

「ん? 木幡さん、日本に帰っていらしたばかりのときは、すごく嬉しいとおっしゃっていましたのに何かあったのですか?」
「ええ・・。久しぶりの日本ということもあるけれども、どうも、地方の営業所は、生ぬるいような気がして。着任の挨拶回りのとき、営業部長と一緒にお尋ねしたんですが、世間話ばかりで、得意先の担当者の性格とか、企業の特色とか、何も獲るものがなかったので、『営業部長を呼んで、挨拶回りは、文字通りの挨拶回りじゃない。今後のビジネス展開を考えて、ランクをつけるとか、商談中の進捗状況を確認するとか、担当者の癖や、企業の方針を知りたいと思って時間を作っているのに、君がリードするのは、世間話程度の話ばかりで何も実がないじゃないか?
いったい君はどういう仕事をこれまでしてきたのか?』と、注意してしまったんです」

「なるほど、営業部長の仕事に対する姿勢と、自分の仕事に対する姿勢の違いに、腹を立ててしまわれたんでしょうか?」
「ええ、そうですね。正直、腹が立ちました。こんな厳しい環境下において、生産性のあがらない仕事をさせられるほど、わが社はゆとりがあるわけではありませんから」

「そうですね。生産的ではない時間の使い方が気に入らなかったのですね?では、どんな挨拶回りをしたかったんですか?具体的にお話してみてください」
「まず、一社あたりの訪問時間は、最低でも四十五分は必要だと思います。どうしても、『どこから着ましたか? これまでの仕事の経験は?』と、客先に聴かれることが多いですから、それに十五分は必要です。その後、私が質問させていただく時間が欲しかった。『御社が今、一番力を入れている事業は?』とか、『今期の予算は?』とか、今後の方針や戦略だって、相手が社長なら伺うことが出来たはずです」

「そうですね。それを挨拶の時に伺えれば、効率はいいですね。実際、1社あたりの訪問時間は何分だったんですか?」
「十五分程度でした。長く引き止められたところでも、二十五分くらいでしたかねぇ・・」

「なるほど、そうなると、お客様が質問する時間分だけで、木幡さんが質問する時間はほとんどなかったということでしょうか?」
「ええ、まったくといってなかったですね。しかも、『この赴任地は初めてだ』と言うと、やれ、『水が旨い』だの、やれ、『米がうまい』だのと、食べるものや名所・旧跡の話ばかり。まったく無駄な時間だったんです」

「ところで、営業部長に、挨拶回りの目的や自分の考えを話してみましたか?」
「いや、無駄ですよ。あいつのへなへなした態度や考えじゃ、僕のいうことは理解も出来んでしょう」

「営業部長の役割って、営業成績さえ上げていればいいんでしょうか?」
「まぁ、そりゃあやっぱり営業部長ですからね、成績は上げてもらわなくちゃいけないよね。その点は見事なんだ。この地元出身者だから、顔も人脈もあるだろう。でも、それにしてもすごい。それだけは認めるしかない」

「なるほど、地元出身であるという強みがあるわけですね。だから、売り上げが出来ているんでしょうか? 私には、何か他の要因があるように思えますが、いかがでしょうか?」
「うん・・・。確かに、何かあるんでしょう。でも、それは分からんのです。営業部長は、契約をまとめるときも、よほどじゃないと私を一緒に同席させません。接待のときは、地元採用者をよく同席させているようではあるけれども、そういう基準で行動しているかどうか? それは分かりません」

「うん、うん、そうね。そういう基準かも知れないし、そうではないかもしれない。木幡さんは、営業部長に対して、不平や不満を持っておられるようですが、以外、彼に関するどんな情報をもっていらっしゃるんでしょうか?」
「そういえば、嫌な奴だ、苦手だという意識ばかりで、これまでの社内キャリアに関しても情報を持っていないような気がするなぁ・・」

「うん、そうね。人事台帳ごらんになったら分かるんじゃないですか?」
「いやぁ、うっかりしていたなぁ・・。そうだ、彼の情報を集めてみるか。そこに彼の強みのヒントがあるかもしれない。うっかりしていたなぁ」

「もう一つ、私が疑問に感じたことがあるんですが、伺ってもよろしいですか?」
「木幡さんが赴任されたその土地柄って、どんなふうですか? 地方独特のルールとかが根強くあるんじゃないでしょうか?」

「たとえば?」
「うん、たとえばよそ者を受け入れるのに時間がかかる土地柄とか・・」

「ああ、たしかに。どこに挨拶に行っても、『出身はどこか?』『この土地に知り合いや親戚はいるか』って聞かれて、身上調査じゃない!って閉口した覚えがありますよ」
「はるほどね。やはりそうですね。地方であればあるほど、地元意識というか、身内身びいき的な雰囲気が高いから、営業部長もその点を配慮されたのではないでしょうか?」

「コーチ、あなたはいつもストレートに言いますね。確かにそうかもしれない。私が『東京出身です』とか、『前任地はタイ・バンコクでした』というと、みんな一様に関心がなさそうな顔をするんです。
『親戚もこちらにはいない、大学時代の友達が何人かはいたが、あまり親交がない』と言うと、会話が止まったように思います。そういえばそうだなぁ・・」
「木幡さん、あらためて営業部長に求める役割が何か、どんな関係になりたいのか、営業所の環境を整えることを考えてみましょうか?」

「そうですね。私は少し偏った見方をしていたようですね」
木幡さんは、新任営業所長として、何を見直す必要があるかに気づいてくれました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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定年間近の部下とのコミュニケーションに悩む課長さん(その1)~コーチングをはじめて受けるクライアントとのスタートに築く信頼関係の重要性を知る~


水野さんは生産管理部で生産管理課長をしていますが、一年後に定年退職者が出ることから、沈み込んでいました。
社内に、困ったときに相談出来るコーチングを受けるシステムがあることは知ってはいましたが、それは自分で解決出来ない者のお助け制度のようなものであり自分には関係ないものと思っていました。水野さんは困ったことがあれば部長に相談するぐらいで、普段は、出来るだけ自分で解決をするように努力していました。

課長としての大きな課題は、ベテランと若手の技術力の差を解消すること、部下育成に努め若手に技術力をつけさせることです。会社としても大きな課題であり、そのためにはベテランの社員の若手に対する技術伝承がぜひとも必要になります。一年後に定年を迎えるベテランの協力がどうしても必要だったんです。この定年退職予定者は、社内では口数少なく、黙々と仕事をこなしており、いわゆる職人気質であり、仕事中は声をかけづらい雰囲気を持っているため、なかなか仕事の手を止めさせてまで切り出すことが出来ませんでした。

「コミュニケーションがうまく取れないから、俺は職人として成功したんだ。仕事は人から頭で教わるものではなく、体で覚えるものだ、俺もそうやって先輩の技を盗み取ったんだ」という本人がいつも言っている言葉に一応は納得してはいますが、それでは困ると水野さんは考えています。

なかなか頼みにくく、先送りしている間に、日にちがどんどん過ぎて行きます。
残り時間はわずか1年、このまま定年を迎えられては困ると思って、毎日のように「最後のお勤めとして、会社に貢献してほしいんですが・・」と何度も依頼するようにしました。その都度、「わかりました。努力してみます」と返事が返ってくるにもかかわらず、なかなか後輩の指導をしないこの部下に、このごろでは毎日イライラしている自分を感じています。
水野さんのイライラは仕事ぶりにも現れ始め、ちょっとしたことでも部下を叱りつけてしまうようになりました。
そんな水野さんを見かねた生産管理部長は「どうしたんだ、水野くん、最近随分イライラしてるみたいだな。水野くん、何か仕事のことで心配事があるんだったら、会社で委託しているビジネスコーチに相談してみたらどうかね?君がそんなにイライラしていると、部下との間の信頼関係が壊れるのじゃないかね?」と、注意してくれました。

水野さんは「部長こそ、自分の話をもっと聞いて、具体的なアドバイスをくれたらいいじゃないか? この問題は、会社全体の問題であり、私だけが考えるべき問題じゃないのに・・・」と、内心大きな不満を感じましたが第三者の冷静の意見を聞けば何か参考になるかもしれないと藁にもすがる思いでコーチのいる部屋を訪ねました。

「はじめまして水野さん。コーチングルームを初めてお訪ねいただきありがとうございます」にっこり笑顔のコーチを前に、水野さんは、「この人がコミュニケーションのプロなんだな。やけに愛想がいいけど、いったい何なんだ、この人は。部長が相談することを勧めたから来てみたんだが、部長から何か聞いているのかな。部長はいったい何を吹き込んだんだ?」と懐疑的な思いを抱きながら、勧められる椅子に腰を下ろしました。

「水野さんにお聞きしますが、率直に言って、今、この瞬間の出会いにどんな印象をもたれましたか?」というコーチの質問に、水野さんはドキっとしました。一瞬、自分の心を見透かされたような気がしたのです。
「はぁ、いえ、あの・・緊張しています」、嘘ではないが、自分の心の中を見透かされないようにと、自分の心がよろいをまとっていることを強く感じながら水野さんは答えました。
「そうですね。とても緊張しているみたいですね。もっとリラックスすることをお手伝いしたいのですが、何か私に出来ることはありますか?」
優しいコーチの言葉に、本当のことを言ってもいいのか?と一瞬戸惑いを見せた水野さん。これまで、職場での愚痴や相談事は、極力話さないように努めていた水野さんは、何をどう話していいのかわからなかった。と、同時に、この話をすると、部長はじめ社内にもれていくのではないかと思うと、気が気ではなく、汗ばかりが流れるように出てしまうようでした。
「・・・・・・・・・」
「初対面のコーチに『何か私に出来るものはないか』と聞かれて、何を言えばいいのかお困りのようですね。私もちょっと先を急ぎ過ぎました。私のほうから少しお話をしますね」
「社内のコーチングルーム、会社のやとったコーチということで、自分の話すことが、会社にもれるんじゃないか。会社にもれて、そんなことも一人で解決出来ないなんて、管理職としては失格だと失格者の烙印をおされて出世にも響くんじゃないかとご心配ですか?
そんな心配は無用ですよ。まず、私は人のことを別の人に面白がって話すことはしない人間です。それから、これはコーチとしての職業倫理ですが、コーチは医者や弁護士と同じように、依頼者のことを他人に話をしてはいけないものです。これは、たとえ私が会社に雇われているとしても、同じ事で水野さんの了解なしには、絶対に口外しませんから安心してください」
コーチは、コーチの職業倫理を話し、また、どんなことをテーマとしてもいいとゆっくり話すことで、水野さんをリラックスさせようと援助してくれています。

「私は、相手に対しては一生懸命にやるほうです。これは、相手が人間だろうと花だろうと同じです。土日は小さな庭でガーデニングっていうんですか?庭いじりをしてまして、花と花との間が開いていたりすると、つい寂しいだろうからと思って、その間を他の花でうめてしまうんです。花たちが小さいときはいいんですが、育ってくるとジャングルになってしまって・・・・。育つスピードも違うし、大きくなると十センチ足らずものもあれば一メーターにもなっちゃうものがあって、もうめちゃめちゃになってしまいます。注意しないとほんとうにダメですね・・・」

このごろガーデニングに凝っていて、花を見るとついつい手が伸びるが、自分を戒めないと、脈絡のない庭になってしまうと笑いながら話すコーチの姿に、水野さんは、自分も庭いじりには興味があると、いつのまにか、庭の手入れの話に体を乗り出すように話し始めました。

「そうですね。私も同じような失敗をよくやっています。蝶々がきて卵を産むようにと、バタフライガーデンっていうんですか、みかんの木を沢山植えて、蝶々の幼虫を育てていたら、近所のみかん農家の人から、あなたの所は害虫を育てているのかと怒鳴り込まれたこともありましたよ。ガーデニングも自分勝手ではダメですね」

頃合を見計らってコーチは、「水野さん、職場でこんなふうに、趣味の話で盛り上がれる部下はいますか?」と、切り込みました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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傾聴と承認に終始したコーチングセッション~コーチはクライアントに常に寄り添う~


「どうしてみんないい加減に仕事して帰っちゃうのかなぁ・・」とつぶやくように話し始める浅野さん。
「いい加減なんだよなあ、みんな。みんなのそのいい加減な仕事の後始末をする自分が一人残って仕事をするのはほんとうに辛いです」と訴えます。

コーチは、「お辛いんですね。それを今日のテーマにしますか?」と尋ねました。
「コーチングのテーマを代えてもらってもいいんですか」

「もちろんです。コーチングは浅野さんのためにやっているわけですから、浅野さんのためになるテーマを選んでコーチングをすればいいんです」
「ありがとうございます。それでは、私の辛い気持ちを何とかしていただく方向にてコーチングお願いします」

「わかりました。そうしましょう。仕事をしてて辛いとおっしゃいましたが、浅野さんは仕事をしていてどんな気持ちなんですか」
「いつも自分は最後まで一人で仕事をするんですが、どうにもやりきれないんです。答えになっているかどうかわかりませんが、この気持ちを何とかしたいです」

「そうですか、やりきれない気持ちをなんとかしたいんですね?」
「はい、そうですね」

「今日のセッションを終えたらどんな気持ちになっていたいと思いますか?」
「う~ん、今の気持ちがすっきりしてどんよりした雲がきれた感じ、満天の星空となるといいかなぁ・・」

「なるほど、満点の星空なんですね。どうして夜の空なんだろう?」
「星空を見上げたことあります?希望が湧いてくるでしょう?星って気持ちを広げてくれるじゃないですか?」

「そういえば、星空を見上げる時間ってなかなかないですねぇ。すっかり忘れていました。星の観察はお好きなんですか?」
「はい、感動しますよ。満点の空を見上げてるとね。自分がちっぽけな存在だと思います。この社会に生きていることはね」

「星空を見ていると自分の気持ちがすっきりするのですね。嫌なことは忘れて・・・」
「そうなんです。星空を見ていると落ち着くんです。だけど、朝になって会社に行くと腹が立ってイライラするんです」

「どんなとき、腹が立ってイライラするんですか?」
「メンバーや上司、誰に対してもですが、決められたことをきちんと出来ない人を見かけたときですね。これが一番キライです。そんな時イライラしてしまうんです」

「なるほど、決められたことをきちんとしない人を見ると苛立つんですね。他にはどんなときですか?」
「そうですね。他には・・」

しばらく浅野さんは考えた上、「イライラではありませんが、一人で仕事をしているときに無性にさびしくなるんです」と答えます。
「ああ、それからですね。僕が一人で仕事をして事務所に戻っても、上司はお疲れ様というだけで、どんな仕事をしてきたのか尋ねもしない。こっちは、汗水たらして、ひとりで広いグランドの整備とかしてるのに、だぁれも自分のことなど見向きもしない、そんな感じなんですよ。これじゃあ、仕事をする気力をなくすどころか、精神的に参ってしまいますよ」
と、浅野さんは、辛い気持ちをどんどん吐露してきます。

「浅野さんは今、ほんとうに辛いんですねぇ」コーチは共感する言葉を繰り返します。
「ちょっと一声かけてくれるだけでいいんです。仕事は嫌いじゃないし、しんどいなぁと思ったことはあっても、まぁ、仕事だからしょうがないと思えるし。ただ、なんていうのかなぁ・・自分一人だけが仕事をしているような気持ちにさせられることが、嫌なのかなぁ?・・」

「なるほど、浅野さんは、自分一人で仕事をしているような孤独感を感じることが嫌なんですね」
コーチは、今日のセッションでは浅野さんの気持ちを前向きには出来ないかもしれないと、感じました。

この後の時間も、浅野さんは、仕事をするためのモチベーションがどうしても上がらない、職場に行くのが辛いと、心情を訴えました。
「朝起きて仕事にいくのが億劫になってしまっています。いっそのこと休んでやろうかと思うことすらあります」
「そうだね。休んでしまいたいこともあるわね。それでそんなときはどうするんですか。思い切って休んだりしますか」

「そんなわけには行きませんよ。休んだとしても自分の担当している仕事を誰もやってくれるわけでもないので、滞ってしまって後が大変になってしまう。それに、なにより休み癖がついてしまうと、本当に会社に行かなくなってしまうような気がします。だから少しばかり熱があっても、会社は休みません」
「何があっても会社には行くわけですね」

「そうです。でも、風邪気味で熱をおして会社に出ても、誰もご苦労さんともいわないし、風邪気味なら早く帰ったほうがいいとも言ってくれない。ますます気分が滅入ってしまう」
「そんなこともあったんですか。それは辛かったでしょうね」

「そのときは本当に最悪でした。いまだかってあんなにモチベーションの下がったことはなかった」
コーチングのセッションをしていると、いつも元気で前向きな人が、急にやる気をなくしただけではなく、感情的になったり、落ち込んだりすることを経験することがあります。
こんなときは、無理やり話を進めず、徹底した傾聴と承認を繰り返しながら、共感することに重点を置いた会話を進めます。

人は誰しも、常に元気に前向きな姿勢で生きていけるものではないのでしょう。
孤独感は人を立ち止まらせます。こんなときは、コーチも一緒に立ち止まり、もう一度歩き始める気持ちを高めるための会話を進めることに徹しましょう。クライアントより早く立ち上がり歩き出さないようにすることが大事です。
クライアントの中に答えがあるわけです。クライアントの望まないほうに無理に引っ張らないことです。
コーチングは、コーチが決める結論に、無理やり引っ張るように答えを教えたり、押し付けたりすることではありません。
相手のペースで、その人が望む方向を目指して行動するように支援する。
原点を忘れないように・・・という戒めのようなセッションでした。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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「入社三年目 若い人から同僚へのコーチング」~職場での不平不満を解消し、積極性を取り戻す~


「会社休みたいなぁ・・」
同僚の田中君の言葉がきっかけとなり、私はさっそくコーチングをしてみることにしました。
まだ、コーチングの基礎的な傾聴や承認、質問のスキルを習ったばかりなので、自信はありませんでした。
しかし、田中君の元気を取り戻したい一心でチャレンジしてみたのです。
田中君とは、同期入社で同じ営業所に配属になったこともあり、時間さえあえば一緒にランチをしたり、飲み会をしたりする仲でした。入社二年半。とにかくふたりとも突っ走ってきたという感じで、営業成績もいつも競い合うようにしてがんばってきました。
その田中君が、夏以降、だんだん元気がなくなってきたのです。遅刻や欠勤があるわけではありませんが、朝の挨拶や営業所から外回りに行くときや帰ってきたときなど、なんとなく挨拶に生気が無く、気にかけていた矢先「会社休みたいなぁ・・」という言葉で本人の心の中をのぞく事になりました。

「どうした?田中、会社休みたいって、何かあったのか?」
「いやぁ、おまえんとこの課長はおまえにいろいろさせてくれてるだろ? 資料作りだって、ある程度まで任せてもらっているようだし、いざってときには、課長が同行して交渉してくれているだろう?それに比べて、うちの課は、課長が絶対で、新しい資料作ったほうがいいなぁと思って指示されなくても作るだろ? そうすると、そんないらんことはしなくてもいい、お前は俺の言ったとおりの方法で売り上げさえあげてりゃいいんだって、えらい剣幕で叱られてさぁ・・。でも、資料なくて顔だけの営業って、先行き細くなる一方だと思うんだよなぁ・・」

「そうかぁ、田中は課長の言ったとおりの方法で売り上げさえあげていりゃ良いって言われることが嫌なんだね?」
「ああ、そうだね。課長たちの時代と今は違うさ。課長だって、今でこそ顔を出しさえすれば取引先がまぁしょうがないって感じで売り上げつけてくれるけど、最初からそうだったはずじゃないんだ。それなのに、自分の時のことは忘れちゃってて、俺のときは言うとおりにしろだって?それじゃ、俺は力がつかないって。何でも経験することが大事だって、社内報の社長の言葉にだって書いてあっただろう?社長が経験を大切にって言ってるのに、何で課長がそれを止めるのか?ホント!理解に苦しいよ。それで焦っちゃってさ・・・」

「そうだね。僕も読んだよ。社長の年頭所感。俺たち若手には刺激のある言葉だったよなぁ・・。ところで田中君は、どんなことに焦っているんだ?」
「え? そりゃ、このままじゃ、お前をはじめ同期のやつらと比べて経験というものが絶対に不足することや、みんなよりスキルが不足することだろうな?おれは、お前と違って、この会社にずっといるつもりは無いんだ。だから、三年間で結果を出さないと、転職の準備に入れないわけだよ。この三年間はホント重要だったのに、あんな課長の下に付いちゃって・・・。お前の課に配属されなかった俺は、つくづく不運だと思う」

「そうかぁ、田中は配属そのものさえ受け入れられない状態になっているんだね。残念だね。ところで、三年ですぐに転職活動に入るのか?」
「いや、五年間はここにいる。だけど、このままあの課長の下ではなんの経験も実績も残せず、転職には不利になるから、春の異動で動かしてもらうよう人事部にかけあってみようと思うんだ」

「すごいなぁ田中。人事部に思いを伝えるんだ。どんなふうに言おうと思うんだ?」
「え、だから、このままあの課長の下にいても何もさせてもらえないし、経験が不足するし、実績を上げられずに組織に貢献出来ないことがいやだからって、ストレートに言うさ」

「なるほど。課長の下にいても何もさせてもらえない、経験不足や組織貢献出来ないからいやだって言うんだね。人事部はなんて思うかなぁ?」
「そりゃぁもっともだって言うと思うよ。組織貢献出来ないっていうのは、痛いだろうさ」

「なるほど、そうだね。組織貢献出来ないっていうのは、こたえるだろうね。ところで、新しく異動した先では、どんなふうに組織貢献出来ると思う?」
「そりゃぁ、ばりばり仕事して、売り上げ目標、いつも一〇%超えで達成だよ」

「なるほどね、それはどんな方法で達成するの?」
「そりゃ、資料なんかもちゃんと作ったり、電話アポで見込みのあるところにだけ営業に行って効率よく動いたりだよ。つまり、今の課長とはまったく正反対のやり方をするってことさ。課長の鼻を明かしてやりたいよ」

「なるほどね。資料も作って、電話アポちゃんととって、見込みあるところだけと効率よく営業するんだね?」
「ああ、そうだよ。なにもさせなかった課長に思い知らせてやりたいなぁ」

「田中君、一つ聴いても良いかな?会社休みたいことと、異動をお願いすることと、課長の鼻を明かすことと、どんなふうに結びつくんだろう?少し、わけて整理してみようよ」
「ん??そうだな。そう言われてみると、それぞれが違うことのような気もするな。一つひとつ考えてみるよ」

ようやくここで田中君の話すスピードを止めることが出来ました。
会社を休みたいと思うのは、ただ単に自分の思い通りにならずつまらないからで、異動をお願いしたい、課長の鼻を明かしたいというのは、単なる自分の思いを通すための手段であって、何らかの根拠のある事ではないことが、この後の会話で明らかになっていきました。
入社して三年。そろそろ会社の中での自分の立場や役割が理解出来る頃になると、急に不安を覚えたり、会社が何も与えてくれていなかったのではないかと疑心暗鬼になるようです。
しかし、どんなに長く社員として働いたとしても、常に会社は個人に何かを与えてくれるわけではありません。会社にどう自分をアピールし、自分から積極的に組織とかかわろうと努力しなければ、何も変わることはないのです。
自己主張をどうしたらよいのか?そのためにどんな行動を起こし、どんな実績をあげるのか?
すべて自分で組み立てていくことが大切であると気づかなければ、早晩、会社に居場所が無くなっていくことでしょう。
入社して三年。自分の居場所を自分で見つけるためにも、コーチングは役に立つことでしょう。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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進学塾の講師の山口さん 最近やる気が出ない~子供との接し方を取り戻したセッション~


進学塾の講師になって三年半。子供たちを時には叱り、時には褒めて認めて、子供たちがやる気をなくさないように必死で受験指導をしてきました。しかしながら、このごろ、マンネリ感からか毎日の生活に張りを感じず、ただただ、契約があるからやらなければならないという感じで、塾に出勤して子供たちに接しているという山口さん。このままではいけないと思って、コーチングを学習し、自らコーチングと出合ったことにより、自分自身が変わったことを楽しんでいるという同僚の村中さんのコーチングを受けてみることにしました。
村中さんは、いつもと変わらず、ソフトな語り口で山口さんに話かけました。

「山口さん、このごろ塾内で山口さんの笑顔が少なくなっていたことが、とても気になっていたんですよ。何か、悩みでも抱えているんですか?」
「え? 村中さん、気づいてくれていたんですか?やっぱり態度にもでてしまっているのかなあ。私は、正直やる気がなくなっていて、子供たちの変化や無気力サインにすら、このごろは気づいてあげられなくなってしまっているんです」

「何かあったんですか。よろしければ具体的なことを教えてください」
「この間、中間テストの結果が芳しくなかった子供の保護者の方から『中間テストの結果が思うように上がってないのは、山口先生のせいだ!子供がやる気のないことにどうして気づいてくださらなかったんですか?山口先生を信頼していたのに、こんなことが続くようだと先生を替えてもらわなければならなくなります。しっかりしてくださいよ』と、全面的に私の責任だといわんばかりの電話を受けたんです。それ以来、電話に出るのも、子供に接するのも怖くなってしまって・・・。もうどうしたら良いか、ぜんぜんわからなくなってしまったんです」

「そうですか、それは大変だったですね。ところで、山口さんは子供たちの受験について、どんなお考えをもっておられるのでしたか?」と、村中先生は、ご自分も授業準備や小テストの採点でお忙しいのに、しっかり手を止めて、山口さんとゆっくり向き合ってくれています。

山口さんの発言に対し、決して、「自分はこうしている、自分の経験はこうだ!」と押し付け
ることもなく、ときに深くうなずいたり、ときに話の続きを促すようなあいづちをうってくれたりしており、山口さんは、どんどん村中先生に自分の考えや気持ちを伝えることが出来たそうです。
「子供たちには、全員志望校に入ってもらいたいと考えています。そのために出来ることは何でもやるつもりではいるんです。また、そうしてきたつもりなんです」

「ところで山口さん、子供たちに伝えたいけど、言えないで黙っていることありますよね?」
と、唐突に村中さんに言われた山口さんは、言っても良いものか言わないほうが良いのか判断がつかず、黙っていました。村中さんは、しばらく考える時間をくれました。
しばらく沈黙が続いて、そのあと山口さんは、胸の中にしまっていることを話したほうがいいかどうか半信半疑で重い口を開きました。
「たしかに、あることはありますが、それは私と子供たちとのことであって、村中さんにお話して解決出来る問題かどうかよくわかりません」
村中さんは静かに付け加えました。

「山口さん、私を信頼してくださいというのはおこがましいかもしれません。でもね、胸につかえていることを人に話すだけでも、心はずいぶん軽くなるんですよ。でも、それはね、独り言や壁に向かって話してもすっきりはしないんです。なぜだと思いますか? 聴いてもらっているということが大切だからです」
「たしかに、さきほどの保護者からのクレームのことも村中さんにお話しをしたらすっきりしました」

「そうでしょ。子供たちも同じなんですよ。
子供たちの言葉や表情を真剣に受け取ってあげるだけでいいんですよ。真剣な思いが伝わると、子供は『めんどくせぇ・・』とは言わなくなるんですよ」
「それは分かっているんですが、どうしたら子供たちに心を開いてもらえるか、分からなくて・・・」

「子供たちはどうでしょうか。山口さんが心を開いていると感じないかぎり心を開かないんじゃないでしょうか。子供たちは、何か話すとすぐそれを親に言われるのではないかと疑心暗鬼になっているもんなんですよ」
「お互い様ってことですか。相手に心を開いてもらうためには、こちらも心を開くことということですね。頭では分かっているのですが、受験生の子供たちの前に立つと、成績というか数字だけが先に立ってしまうんです。子供たちの気持ちなど二の次にしてついハッパをかけてしまうんです。一体、どうしたらいいんでしょうか」

「そうですか。ちょっと提案してもいいですか?これから話すことをやってみるかどうかは山口さんが決めればいいことなので、ちょっと聴いて下さい」
「はい。私の参考になると思われることでしたら、何なりとお話しください」

「一度、時間を決めて、子供一人ひとりと話す時間を作って将来の夢を聴いてみたらいかがですか?五分でいいんです。やってみませんか?」と、村中さんに提案された山口さんは、「将来の夢ですか。そんなことを聴いたこともなかったです。目先の受験さえうまく行けばその先はあとで考えろなどと言ってましたから。そうですね。やってみます」と答えました。どうやら、子供たちとの接し方を見つけたようです。

受験コーチングは、難しいといいます。相手が子供であるために、目先のしたいことが先にたって計画的にものを考える習慣がついていません。将来の夢を語らせて、「それに向かっていくにはどうしたらいいと思う」と子供たちにぶつけてみることで、子供たちが前向きに受験勉強を考えるようになります。
親にすぐ連絡してしまうのではないかと不安になっており、なかなか本音を言ってもらえないこともあります。子供たちとの間に信頼関係が築けるかどうかです。真剣に対峙し誠意をもって対応することが大切になります。
山口さんが村中さんの話を素直に聴けたのも、村中さんの話しぶりなどから村中さんとの間で信頼関係が保てたからです。
どうしたらいいか困ったときには、仲間に相談して協力をあおぐ必要もあることを、村中さんはそっと教えてくれたようです。山口さんは、コーチングというもののすばらしさが少し分かったようでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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