コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

私の居場所がないように感じられて・・・ベテラン社員の悩み~職業人としての自分の価値を考える~


今日はベテラン社員の榊原さんのコーチングの日です。どんな会話が出来るのか楽しみに待っていましたが、榊原さんは、私の顔をみるなり、
「私の居場所がないように感じられて・・・」。

勤続二十年。まじめにこつこつと、会社のことだけを考えて仕事をしてきた自負があるとおっしゃる榊原さんは、いきなり話し始めました。
コーチングのセッション(会話すること)では、その日のテーマを扱う前に、気持ちをほぐす目的で、本題とはまったく違う話(アイスブレイク)をすることがあり、コーチである私は、今日もアイスブレイクからスタートしようと漠然と考えていたので、すぐには、傾聴の耳が用意出来ませんでした。
いつもはおだやかに時候の挨拶から始める榊原さんが、今日に限っては突然、本題を喋り始めたことを意外に思いながら榊原さんの話を聴いていました。

「榊原さん、会社に居場所がないと感じたきっかけは何かあったんですか?」

やっと榊原さんが考えをまとめるにふさわしいと思う質問が準備出来たのは、つぶやくように言った榊原さんの声からかなりの間があったと思います。
榊原さんは、私の問いかけに対し「いえ、別にこれということではないんです。この二月、異例の人事異動があって、課長が転勤されてきたんです。それから1ヶ月。まだまだ何もお分かりになっていらっしゃらないためか、うちの支所では一番キャリアが長い私を頼りにしてくださっているんです。
ただね、キャリアは長くても、結局チームのメンバーは、肝心なことの相談は課長にしてしまうわけです。当たり前ではあるけれども、淋しくてね。課長も一応は私を立てて話の輪に入れてくれるわけですが、結局決めるのは課長のわけです。私の今までの経験を踏みにじられているような気がして、たまらないんです。私って、どんな存在なんだろうって思う。そう思うと、ただ、キャリアが長いだけで、何にも価値がないように思えてしまって、最近では会社に行くのも嫌になったり、若い者から相談されても、課長に聴けばいいじゃないかって厭味を言ったりしてしまうんです」

一息に榊原さんは、話してくれました。

「榊原さん、あなたにとって、会社が認めるあなたの価値って、どのくらい大事なことなの?」

答えがわかっているようでも、あえて本人が話すことによって再確認出来る自分の思い。コーチングが大事にしている基礎に忠実にコーチングを進めてみました。

「そりゃあやっぱり大事ですよ。インセンティブ(報酬)で評価されるわけでしょ?ビジネスパーソンって。だったら、見合うというか、評価してくれた価値の分だけ、給料や役職で表すしかないでしょう。だから、会社が自分の価値をどのくらい認めてくれているかは大事だよ」

当たり前のことをたずねられたからか、榊原さんの口調がいつもよりきつく感じられました。しかし、ひるまず、「あなたがお考えになるあなた自身の価値を百点とした場合、会社はあなたをどのくらいで評価してくれていると思いますか?」と尋ねました。

「点数?そんなこと考えたことはないけれど、四〇点くらいかな?」
「なるほど、四〇点ですね。今置かれている立場、待遇などか四〇点くらいとお考えなのですね。それでは百点満点の榊原さんは、どんな待遇になるんでしょうか?」

「係長という責任ある立場を任されていると思います。係長という待遇もさることながら、メンバーがなんでも相談してくれて、ああ、それはこうしましょうとか、それはこうでしょう?こうしなさいと、指示命令出来るようになるでしょう。そうすると自分の思い通りの仕事も出来るようにあるわけだし・・・」
「なるほど、指示や命令が出来るようになり、自分の思い通りの仕事が出来るのですね。そうすると、チームはどうなりますか?」

「チームは、当然、業績も利益も上げられるから、いい雰囲気になると思います。会社内での評価ももちろん上がると思いますし・・」
「そうですね。業績利益や、雰囲気も良くなるわけですね。社内での評価も上がる。いいことばっかりですね。では、デメリットがあるとすると、どんなことがあげられますか?」

「デメリット?う・・・・ん・・・特にはないんじゃないでしょうかね?」
「特には見当たらなさそうなんですね?榊原さんが考えるご自分の価値は、指示命令をするポジションに立ったとき出来るものなんでしょうか?」

粘り強く、榊原さんが考えをまとめやすい質問を続けていこうと、努力します。

「いやぁ・・・どうかな?指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃないかも・・」
「なるほど、指示命令が出来るポジションに立ちたいわけじゃない。
では、どんな存在になると価値が上がるんでしょうか?」

「だれもが頼ってくれるような、私と話すと明るい気持ちになれるような、そんな存在になれたらいいかなって思うかなぁ?」
「榊原さんと話すと明るい気持ちになれるといってもらえるような存在になりたいんですね?」

「そのとおり、若い者から尊敬出来る先輩っていってもらいたい」
「尊敬出来る先輩というお立場でいいんですね。地位には固執しないわけですね」

「う・・ん、そうかなぁって思うけど・・」
「ほんとうにそれは望んでいらっしゃることなんですか?」

「うん・・・」
「いい人って思われればいいんですか」

「うん・・・・?」

考え込んでいる時間が長くなってきたセッションの後半。
私は、気長にゆっくり待ちます。

「コーチ、私が考える自分の価値についてもう一度考えてみてもいいですか?」
セッション開始二〇分。榊原さんは、その日のコーチングを終了したいと、自らの言葉で切り上げられました。
「榊原さんご自身のことですから、よく考えてみてください。今日はこれぐらいで終わりにしましょう」

ビジネス環境が大きく変化したからなのか、組織の中の自分のポジションを見直すビジネスパーソンが増えてきました。同時に、いつも感じるのは、仕事をしている人の承認がなされる機会が減っているのであろうということです。
人の三大渇望の一つ。尊重されるということの大切さを改めて感じさせられました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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成果のないコーチング実践に転職を考え始めた地方公務員の吉田さん ~コーチとの成果の確認のあり方~


地方公務員の吉田さんは、このところ、ずっと元気がありません。役所にいくのも億劫になってきました。もともと何でもやってやろう、すぐにやろうというエネルギッシュなタイプなので、表面上は明るく振舞っています。ですから、ふさぎこみがちとまではいかないものの、同僚や部下に呼ばれてもすぐに返事が出来ないほど、どこか上の空だったり、部下が話しかけたこととはまったくトンチンカンな受け答えをしたりで、上司から「最近、吉田さん、変じゃないかとみんなが言っているぞ、いったいどうしたんだ」と叱責されるなど、職場内での信頼関係が疑わしくなるほどでした。
吉田さんは、地方公務員として住民サービスに徹するためには、今のようなだらだらとしたその日ぐらしのような仕事のやり方ではなく、みんながもっと前向きにやるようにならなければいけない、そのためにはみんなの思いがそれぞれに伝わるようにするコミュニケーションが大事だと考え三ヶ月前からコーチングを受けており、コーチングを実践してきました。
上司との間のコミュニケーションをよくし、保守的な職場風土に変化を起こし、若い部下たち
が「どうせ俺達もあんな感じで定年を迎えるんでしょ?一生懸命になるだけムダだよ・・」という気持ちを何とか変えさせたいと、全力投球でぶつかってきました。
ところが、三ヶ月の成果を確認する時間を持つことによって、三ヶ月前となにも変わっていないどころか、職場の状況がますます悪くなっていることに気づいてしまいました。
吉田さんは、今後、このまま地方公務員でいても良いかどうか、いくらやっても人が動かないこんな職場にいてもいいんだろうか。自分の力が発揮出来るところはほかにあるのではないか、そう思い始めていました。
吉田さんは、今日のコーチングのテーマは、「転職する」ということにしようと、コーチに電話をかけました。

「吉田さん、お待ちしていました。こんばんは」コーチはいつもと同じように明るく受け止めてくれています。いつも素敵に聞こえるコーチの声ですが、今夜は自分とコーチのテンションが違いすぎるので、吉田さんにとっては重荷にさえ感じられるようでした。
吉田さんは、唐突に、「あの、コーチ。今日は、テーマを転職するということにしたいんですが・・」と切り出しました。
コーチは、少し驚いたのか「あれ?吉田さん、今日のテーマは、転職するということなんですね?」と、繰り返す言葉に戸惑いを感じました。
「すいません、コーチ。この間のフィードバック(成果を確認しあう時間)で、自分がぜんぜん、進歩していないことを目の当たりにしてしまって、それ以後、職場に行くのがイヤでイヤでたまらなくなってしまったんです。だから、今日は、転職について可能性を考えてみたいと思いました」
「わかりました。これからの三十分は吉田さんのためにあるのですから、吉田さんがお考えの転職をテーマにコーチングをすることにしましょう」
コーチのやさしい言葉に促されて吉田さんは思いのたけをぶちまけるように話を続けていきました。
一気に話す吉田さんの言葉を、コーチは、丁寧に聞き取っていってくれました。時に鸚鵡返しをしたり、時に要約したりしながら、吉田さんの話の聞き役に徹してくれたので、吉田さんは一五分の間、胸のうちの全てを明かすことが出来ました。
ひと段落したところで、お互い一息つく時間を持ちました。その沈黙を破ったのはコーチで、「吉田さん、吉田さんの職場の風土を見直したいという熱い思いを、これまではどんな風に上司に伝えていましたか?」
あまりに唐突だったため、吉田さんは、すぐには答えることが出来ません。
「・・・」。沈黙の時間は嫌いな吉田さん。すぐに答えようとしますが答えがまとまりません。
なぜ、答えがまとまらないのか?吉田さんは、自分を自分で責め始めています。
そんな吉田さんの心が伝わったのか?コーチは、「ゆっくり考えていいんですよ。待っています」と、やさしく伝えてくれました。
吉田さんは質問の意味を考えていますが、わからないのです。
なぜ、コーチはそんな質問をしたのか?
どういう目的でこの質問を受けたのか?
自分の答えを探しているというよりは、なぜという理由や、どうしてという目的を考えていました。
やがてコーチが、「吉田さん、今、吉田さんに考えていただきたいのは、なぜ?という理由や、どうしてそういう質問を受けているのか?ということではないんです。率直に、質問を受け止めていただければと思うんです。もう一度、質問を繰り返してもいいですか?」
「はい」
「吉田さんの職場の風土を見直したいという熱い思いを、これまではどんな風に上司に伝えていましたか?」
あらためて質問を受け取った吉田さんは、今度はあまりいろいろなことに惑わされずに、コーチに答えました。
「いいえ。どうせそういう考えを持つのは、自分だけだから・・。伝えたって無駄なことがわかっているのに、どうして伝えなければならないんでしょうか?言ったって、何も変えようとはしませんよ。あの人たちは。だから、私はあんな人達と一緒に仕事をするのがイヤになったんです。だから、転職したいんです!」と強い口調で話しました。
感情が高ぶったのでしょうか?吉田さんの言葉がきつくなったことを、自分でも感じるほどでした。
そんなやり取りでも、コーチは一向に感情的にならずに、普段どおり穏やかに言いました。
「吉田さん、あなたは、そんな人達と一緒に仕事をするのがイヤになったんですね。だから、転職したいと思われたんですね」
「はい。その通りです。あんな人達と仕事をするのはもうイヤなんです」
「そうですか、それでは、一つ質問していいですか。吉田さん、あなたは、職場の風土を変えたいのですか?それとも、相手(上司)を変えたいのですか?」。
どんよりとしていた冬空が、急に晴れたような気がした吉田さんの答えは明確でした。
「コーチ、過去と他人は変わらないんでした。僕は、相手を変えようとしていました。すっきりです。晴れ間が見えました」
改めて、吉田さんはスタートラインに戻ることが出来たようです。
フィードバックは、大切ですが、あまり、そもそもはと出発点を明確にしすぎたり、目標を意識しすぎたり、進捗状況にだけ視点をあてると、相手のやる気が失われることもあるようですね。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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パンを焼いてみたい店員さん~自己主張出来ずにキャリアを断念しようとする気持ちを奮い立たせる~


ベーカリーで働く野田さんは、入社七年目のベテラン販売員です。
店先に並ぶきれいなパンを見ては、このパンを焼いてみたいという思いに駆られますが、店長に話す勇気がありません。いっそのこと他のパン屋さんに転職をしようかと思うのですが、パンを焼いたことがない自分が、パンを焼くスタッフとして雇われることはないだろうと思うと、その勇気も出せず、暗澹たる気持ちで毎日、過ごしているそうです。

「野田さん、社長さんに『パンを焼いてみたいんですが・・』と、気持ちを伝えるという宿題を実行してみましたか?」
「いいえ・・・」

「何が野田さんの行動を引き止めているんだろう?」
「ん・・・、社長は強引な人だから、自分の言うことなんか聞いてくれないと思うんですよ・・」

「どんな行動を起こそうとしたか、細かくお話いただいてもいいですか?」
「はい、月曜日の昼過ぎ、社長は店に立ち寄られて、パンとコーヒーとサラダで食事をされました。食事中に話しかけるのは悪いと思って、終わるのを待っていたんです」

「なるほど、社長に対する配慮をなさる野田さんは、優しい人だと思いますね・・・。そして?」
「食事を終えられたので、トレイを下げようと近づいて、そのとき、お話しようと思ったんですが、何だか社長の表情が怖く見えてしまって。結局何も言えませんでした」

「そうかぁ・・・で、ほんとうに社長のご機嫌が悪かったんですか?」
「いやぁ・・・わかりません。でも、ああいう表情の時、社長はいつも機嫌が悪く、うっかり話しかけると、『後にしてくれ!』と、きっぱり言われてしまうので・・・」

「野田さんが想像する社長の気持ちに臆して、行動しなかったということですね?」
「・・・・」

「社長の表情が仮に明るかったとして、他にどんなことがあれば、ジョブローテーションしてほしいと言えるんでしょうか?」
「・・・・、そもそも、やっぱりそういうことを言ってもいいんでしょうか?そこから自信がなくなっています」

「ありがとう。ご自分の気持ちを言葉にしてくださると、次を考えやすくなります。ジョブローテーションを希望することが、そもそも良いかどうか?と言うところで、気持ちが揺れるわけですね?」
「はい・・・」

「仮に出すぎたことだとしましょうか?それを言い出して、社長に出すぎるなといわれたとして、野田さんにどんな影響がありますか?」
「社長はワンマンな人だから、私みたいな人は解雇するんじゃないかと思うと・・・」

「過去にもそういう人がいましたか?」
「いえ・・でも、給料を下げられた人はいます。パンを焼いていたスタッフですが、販売したパンの中に、異物が入っていたとクレームを受けたときです」

「それは、仕事の上での失敗が原因で、その人の態度や姿勢が悪いわけではなかったんでしょう?」
「まぁ、そうですが・・・」

「それでも心配?」
「はい・・・会社は好きなんです。仕事も好きです。でも、パンを焼いてみたいんです。お客様の喜ぶ顔を見たい。アイデアもあるんです。ケーキのようなパンを焼きたい。デザインも考えています」

「でも、アイデアも、デザインも誰にも公開していないんでしょう?」
「はい」

「お店の売り上げに貢献出来るんだったら、野田さんが直接焼けなかったとしても、社長に訴えるものがあるんじゃない?」
「どうしてですか?」

「パンをデザインしたいという気持ちに、少しだけ気づくかもしれない」
「そうでしょうか?」

「野田さんは、コミュニケーション能力が高い人だと思います。でも、それで自分の行動を縛っているのも確かなことだと思います。相手への配慮で、自分を縛り付けてしまっている。苦しい思いをしながら、相手のことを考えている」
「でも、働く場所がなくなったらどうしたらいいんでしょうか?」

「あたって砕けなさい!と、無責任なことはいえませんからネェ・・・」
「やっぱり今のままでいるしかないのかな・・・」

「一つ、提案してもいいですか?」
「野田さんのお休みに、クッキングスクールやパン教室に通ってみたらどうでしょうか?」

「え?」
「趣味としてでもいいけど、仕事を変えてもらうためには、勉強していたんですよという姿勢を見せたらどうでしょうか?」

「・・・。パン教室に通うんですねぇ・・・」
「お金はかかりますが、キャリア・デベロップメントにもなると考えたんですが、いかがでしょうか?」

「いくらくらいかかるんでしょうか?それに、自分のオリジナルなパンなんて焼かせてもらえるんでしょうか?」
「わからないことだらけですよね?もう一つ、提案したいんですがよろしいですね?」

「はい・・・。まず、パン教室がどこにあり、月謝がどのくらいかかるか、資格がとれるかどうかなど、必要な情報を集めるということを来週までにしていただきたいと思います。」
「なるほど、それなら出来ると思います」

「お友達と一緒に行動していただいてもいいと思いますし、いかがでしょうか?」
「そうですね。深谷さんもまだ、成型を担当していて、自分のパンを焼いたことはないって言ってるし。楽しみながら出来るかもしれません」

「ようやく明るい笑顔を見せていただけて、ほっとしました」
「ごめんなさい、いつも心配ばかりかけていて」

「誤らないでくださいね。私は、野田さんの人生の応援団長です。嫌なときはいやです!と教えていただけると嬉しいです。」
「でも、私は、人にいやな顔をされたくないので、やっぱり何も言えなくなっちゃうんです」

「残念ですが、このテーマは、来週お話しましょう。」
「はい、ありがとうございました」

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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働く目的がわからなくなった女性 ~転職について考える女性が仕事をする理由を考える~


団体職員の瀬戸さんは、一人で事務局を取り仕切って十年目。
今年限りで辞めようかどうしようか?迷ってのコーチングです。

「花粉がそろそろ飛ん出来ているようですが、今年は花粉症の対策をしましたか?」
「結局、去年から体質改善の注射も打たず終いでした」

「体質改善の注射は、長く打たなくちゃならないんでしょう?大変ですよね。ところで、先週宿題にさせていただいた、これからの人生設計を考えるために、気になることリストをあげていただけましたか?」

「そうですね。今の仕事を辞めるにしても、続けるにしても、今後の人生を設計しないと、進むべき方向がわからないと言われたコーチの言葉が、ずっと胸に残っていて、意識して生活すると、結構、生活の中で自分がひっかかることって多いんだなぁ・・って気づかされました。で、リストをあげてみたのがこれなんですね。こんなメモで良かったでしょうか?」
「かまいませんよ。ありがとうございます」

「これを書いていて気づいたんですが、自分にも結構、嘘ってつけないなって思いました。かっこつけて、仕事をする理由に、人のためになりたいとか、社会に出て役に立ちたいとか書いてみたんですが、ぜんぜん、しっくりこなくって・・・」
「なるほど、嘘をついてるっていう気がしたんですね?」

「はい、私が今回辞めようと思うきっかけが、給料が安いとか、待遇が気に入らないということであることは間違いないんです。ではなぜ、辞めなかったか考えてみたんですが、結局、姑と毎日顔を突き合わせて嫌な思いをしたくない。この一言です。私は、人から理不尽なことを言われることがすごく嫌で、正等に評価されなくてもいいけど、理屈に合わないことで責められることがたまらないんです。それは今回に限ったことではないんです。どうしても許せないと思ったのではなくて、たまたま、これまで抑えていた気持ちが、今回は抑えられなかっただけで、今までも、理不尽なことを言われるたびに、我慢をしていてモチベーションは下がっていたと思うんです。今回は、『別の仕事をしてみない?』と誘われていて、言ってみれば仕事を探さなくても見つかりそうだということが大きな要因になっているような気がします」

一気に胸の中にあった自分の気持ちを話す瀬戸さん。更に続けます。

「本質的な宿題とはちょっと違ってしまったと思うんですけど、気になることがあると、事実と、それを受け止める気持ちとを一緒に書いていったんですけれども、姑との関係でもそうなんです。
たとえば、私が、買い物にいく時間を伝えてそれまでに、必要なものがあれば一緒に買ってきますよと声をかけても、そのときは、言わないでおいて、夫が食事しているときに、今日、由美さんが買い物に行ったのに、私のものを買ってきてくれなかったと言いつけているんです。夫は、明日でいいなら買ってきてもらえばいいでしょ?と、取り合いませんが、私は、ええ??って思うわけです。さりとて、先走って、これ買っておきましたといえば、無駄なものを買ってくると、夫に告げ口ですし。
こういう理不尽な扱いを受けたくないから、家にずっといたくない。それだけは、はっきり今回の問題を考えていく上で感じました」
「それと同じことが職場でも起こった?」

「はい、会員さんはあまり経験のない方でもリーダーさんになり、事業を進めます。覚えようとする方はいいですが、書類の提出の仕方とか、わからなくても勉強してくださらない会員さんの書類を、しょうがないと思って、書き換えて本部へ提出したら、それがどうも気に入らなかったみたいで。勝手に、事務局が書き換えた。でしゃばりすぎだと・・・」
「瀬戸さんとしては、どんな気持ちで仕事をして差し上げたんですか?」

「恥をかかないようにと思って。勉強しないから書けないんですよって言うわけにはいかないから」
「それが、上手く受け止められなくて残念だったね」

「はい、とても残念です。悔しいです。でも、まぁ、いいかな?」
「瀬戸さんにとって、仕事って何ですか?」

「うん・・・聞かれると思ったんですが、逃げてるわけじゃないと思うんです。仕事に逃げているわけじゃない。子供の学費も必要だし。でも、なんだろう・・・自分のためになると思うし・・・」
「逃げてるわけじゃないけど、逃げてる気もする?」

「はい、姑とのことを考えると、やっぱり逃げてるのかな?」
「一般的に嫁の立場で言ってもいいですか?」

「はい」
「私も嫁の立場ですが、出来れば、会いたくないと行く気持ちはありますよ。面倒というか。だって、生活が違うし、年齢も違うし、育ち方が違うから、価値感が違うのは当たり前。お互いを尊重しあう関係は、ある程度、距離が離れているから出来るのであって、近くにいたら目に付くから」

「そうですよねぇ・・・でも、コーチは、だから仕事をしているのですか?」
「そこが違うんです。私は、私の自己実現というか、私は私が幸せになるために仕事をしています。そして、その幸せを、家族にも、周りの人にも、みんなに分け与えられたらいいと思って仕事をしています」

「すごい!立派ですよね・・」
「立派かどうかわかりません。ただ、私が生き生きしていて、楽しそうであれば、子供も社会に出て働くということは、楽しいことだと思ってくれると信じています。私が幸せであるからこそ、子供たちにそういう気持ちを分けてあげられると思うんです。もちろん、根拠はありませんが」

「なるほどね、そうですよね。私は、そこまでの強い思いがないんです」
「引き続き、考えて見ましょうか?今週は、どうして働くのか?理由を考えるということにさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、また、自分を見つめてみます。何かが見つかると、ぱ~っと、目の前が広がるような気がします」
「ぜひ、無理をせず、考えてみてください」

自分の心の深いところを知ることによって、今後のキャリア・ビジョンを見つけることが出来ればいいなぁと思います。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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熱血社長と夢を語らない契約社員へのコーチング(その2)~夫婦の信頼関係を取り戻すために、自分の人生を考えた男性社員の今後の夢をうかがう~


「はじめまして・・西川さんでいらっしゃいますね?」
「はい、西川です」

「どうぞ、お入りください。来ていただいたここは郊外ですが、わかりづらかったでしょう?」
「はい、ちょっと迷いましたが、それほどではありませんでした」

「ところで、西川さんは、コーチングは初めてでいらっしゃいますか?」
「いえ、ずっと以前働いていた会社で受けていました」

「?会社で受けてらっしゃったんですか?」
「はい、あの・・・私は、実は以前大手の商社におりまして・・・社内のコーチング研修で知り合ったコーチに、個人的に契約をしてもらっていて・・海外赴任のとき、家族を連れて行くかどうかとか、妻の父親と、私の親父がほぼ同時期に倒れて看病しなければならなくなったときの妻との関係とかをコーチとセッションして自分の気持ちを妻に伝える勇気を持ったりしていました」

「経歴を林社長は何もおっしゃらなかったので、失礼しました」
「いえ」

「この三月末で契約が切れるということですが、次の仕事はお決まりですか?」
「いえ、まだ・・・年齢が年齢だし、商社にいたのは、かれこれ五年も前の話。再就職は難しくて・・」

「雇用形態は契約社員をご希望なのですか?」
「はい、仕方がないんです。今は・・」

「事情がおありなんですね・・。伺ってもよろしいですか?」
「はい、実は、妻の父親はすでに他界しております。脳梗塞で倒れて、四年半、妻は看病していました。でも、三年前に倒れた私の親父は、まだ、生きていて・・(西川さんの目に涙が・・・)」

「続けてもらってもいいですか?感情を殺す必要はありません。しばらく時間をとりましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。みっともないですよね?男が泣くなんて・・・。
(しばらく沈黙の後)私の親父は心臓でした。心筋梗塞というやつで・・・妻が早く気づいてくれたので、命は落としていません。でも、入院して自宅に戻ってからどうも言動がおかしくて。いわゆる認知症というやつです。二年前は、まだ、妻も自分の父親の病院での看病と、自宅での私の親父の看病とをやりくりしてくれていました。でも、だんだん、私の親父の痴呆がひどくなって、徘徊するようになると、二人の病人と四人の子供の面倒を一人で見ることは困難になりました。当たり前ですよね。
でも、私は、仕事をやめられるはずがなく、自宅に戻ると不機嫌でいらいらしている妻の気持ちを汲み取ってやれず、自分だって仕事で疲れているからと、家事や育児を手伝ってやらなかったんです。二年半前に日本に戻るとき、自分は課長になったばかりで、中間管理職としての役割をいやというほど感じていた頃です。だれも、自分のことを理解してくれていないと思っていました。だから、妻の苦しみや悲しみに気づいてやれなかったんです。妻とは、同期入社で、総合職同士だったから、話もあったし、理解しあえていると思っていました。妻の父親が倒れたとき、彼女は介護の決心をし、子育てを保育園に任せっぱなしだったから、このあたりで社会とお別れしなきゃならないと自分から言い出したから、すべてを飲み込んでいたと思っていたんです」

「奥様は?今お元気ですか?」
「ええ、自殺したとかじゃないですよ。ただ、彼女との信頼関係は失ったままです。同じ家にいるし、子供の良き母親であり、私は良き父親であります。ただ、夫婦の間に信頼関係はありません。二人きりになると、会話もありません。彼女は、私に心を閉ざしたままです」

「西川さんが契約社員である理由は?」
「彼女は、仕事をやめたくてやめたわけじゃなかったんです。私のキャリアを優先して考えてくれてただけなんです。当時の私は、とにかく自分のことだけで精一杯だった。でも、彼女は、いつかそんな自分の気持ちを私が理解すると思って期待していたと思います。男だから、家事や育児なんて関係ないと思っていた。
今、私は、土曜日と日曜日は父の看護と子供たちの面倒を見ているんです。彼女に仕事をさせてあげるためです。パートだから、給料が良いわけじゃない。でも、私の給料だけじゃ生活が厳しいから、足しにしてもらってるんです。それでも、彼女は社会と接していたいというから、希望をかなえてあげているんです。
平日も、私は残業出来ないんです。私が、父と子供たちのお風呂の担当だから。彼女に三〇分だけ、自分のことだけする時間を作ってあげるんです。夫婦の信頼関係を取り戻すこと、私が男として役割を担う働きをすること。これが、私の夢なんです。でも、そうするためには、父親が死ぬのを待つしかない。そんなこと、社長に話せますか? 男気の高い社長に、今の私の生活は理解出来ないと思います。林社長のお母さんの介護は、専務である奥様に任せっぱなしだったと聴いています。林社長は苦労していないんです。そういう面で。理解してもらいたいという甘えもありません」

「夢を語れないのは、そういう理由だったんですね?」
「はい、父親の最後が待ち遠しい、仕事をしたいなんて、そんなこと人として、男として話すべきではないでしょう?」

「うん・・・話すべきかどうか私には結論は出せませんが、西川さんの心は伝わってきます。このままでよろしいのですか?」
「このままで?とは、契約のことですか?」

「はい、西川さんが林社長だったとしたら、今の西川さんの事情を知ったら、どんなふうに声をかけると思いますか?」
「いや、介護や育児に追われたといっても、だから仕事で失敗したのはフォロー出来ないと言うと思います。現に、妻は、そんなにぼろぼろになりながらも、パートに出る日や仕事をしている姿は輝いています。やはり、どこかに私は『手伝ってやってる』とか、『やらせてやってる』という気持ちを持っているからでしょう。仕事が出来ない=契約打ち切りは、ルールなので仕方がありません」

「林社長は、もっと懐の深い方であると感じたことはありませんか?」
「社長と私は似ているんだと思います。考え方に信念があるというか。自分の意見には絶対の自信があるし、男であることにこだわりもあります。私の夢を実現するためには、職場が必要でしょう?
男として家族を養う仕事をする環境が出来たら、私はもう一度、この会社を訪ね、社長と一緒に仕事をしたいと思っています」

「胸のうち、お伝えにならずにお辞めになるんですか?」
「ルールは大切です。男ですから・・・」

なんとも悲しい事情が二人の間にありました。
西川さんは、このセッションのあと、「久しぶりにコーチングを受けて、やる気というか、商社で海外赴任して自分の人生を楽しんでいた当時の自分のモチベーションを思い出すことが出来ました。また、いかに自分が林社長のこと好きなのかも理解出来ました」と、すっきりした顔でフィードバックをしてくれました。

「男として」という表現を、お二人とも口にしていたことがとても印象的な二回のセッションでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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