コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

働く目的がわからなくなった女性 ~転職について考える女性が仕事をする理由を考える~


団体職員の瀬戸さんは、一人で事務局を取り仕切って十年目。
今年限りで辞めようかどうしようか?迷ってのコーチングです。

「花粉がそろそろ飛ん出来ているようですが、今年は花粉症の対策をしましたか?」
「結局、去年から体質改善の注射も打たず終いでした」

「体質改善の注射は、長く打たなくちゃならないんでしょう?大変ですよね。ところで、先週宿題にさせていただいた、これからの人生設計を考えるために、気になることリストをあげていただけましたか?」

「そうですね。今の仕事を辞めるにしても、続けるにしても、今後の人生を設計しないと、進むべき方向がわからないと言われたコーチの言葉が、ずっと胸に残っていて、意識して生活すると、結構、生活の中で自分がひっかかることって多いんだなぁ・・って気づかされました。で、リストをあげてみたのがこれなんですね。こんなメモで良かったでしょうか?」
「かまいませんよ。ありがとうございます」

「これを書いていて気づいたんですが、自分にも結構、嘘ってつけないなって思いました。かっこつけて、仕事をする理由に、人のためになりたいとか、社会に出て役に立ちたいとか書いてみたんですが、ぜんぜん、しっくりこなくって・・・」
「なるほど、嘘をついてるっていう気がしたんですね?」

「はい、私が今回辞めようと思うきっかけが、給料が安いとか、待遇が気に入らないということであることは間違いないんです。ではなぜ、辞めなかったか考えてみたんですが、結局、姑と毎日顔を突き合わせて嫌な思いをしたくない。この一言です。私は、人から理不尽なことを言われることがすごく嫌で、正等に評価されなくてもいいけど、理屈に合わないことで責められることがたまらないんです。それは今回に限ったことではないんです。どうしても許せないと思ったのではなくて、たまたま、これまで抑えていた気持ちが、今回は抑えられなかっただけで、今までも、理不尽なことを言われるたびに、我慢をしていてモチベーションは下がっていたと思うんです。今回は、『別の仕事をしてみない?』と誘われていて、言ってみれば仕事を探さなくても見つかりそうだということが大きな要因になっているような気がします」

一気に胸の中にあった自分の気持ちを話す瀬戸さん。更に続けます。

「本質的な宿題とはちょっと違ってしまったと思うんですけど、気になることがあると、事実と、それを受け止める気持ちとを一緒に書いていったんですけれども、姑との関係でもそうなんです。
たとえば、私が、買い物にいく時間を伝えてそれまでに、必要なものがあれば一緒に買ってきますよと声をかけても、そのときは、言わないでおいて、夫が食事しているときに、今日、由美さんが買い物に行ったのに、私のものを買ってきてくれなかったと言いつけているんです。夫は、明日でいいなら買ってきてもらえばいいでしょ?と、取り合いませんが、私は、ええ??って思うわけです。さりとて、先走って、これ買っておきましたといえば、無駄なものを買ってくると、夫に告げ口ですし。
こういう理不尽な扱いを受けたくないから、家にずっといたくない。それだけは、はっきり今回の問題を考えていく上で感じました」
「それと同じことが職場でも起こった?」

「はい、会員さんはあまり経験のない方でもリーダーさんになり、事業を進めます。覚えようとする方はいいですが、書類の提出の仕方とか、わからなくても勉強してくださらない会員さんの書類を、しょうがないと思って、書き換えて本部へ提出したら、それがどうも気に入らなかったみたいで。勝手に、事務局が書き換えた。でしゃばりすぎだと・・・」
「瀬戸さんとしては、どんな気持ちで仕事をして差し上げたんですか?」

「恥をかかないようにと思って。勉強しないから書けないんですよって言うわけにはいかないから」
「それが、上手く受け止められなくて残念だったね」

「はい、とても残念です。悔しいです。でも、まぁ、いいかな?」
「瀬戸さんにとって、仕事って何ですか?」

「うん・・・聞かれると思ったんですが、逃げてるわけじゃないと思うんです。仕事に逃げているわけじゃない。子供の学費も必要だし。でも、なんだろう・・・自分のためになると思うし・・・」
「逃げてるわけじゃないけど、逃げてる気もする?」

「はい、姑とのことを考えると、やっぱり逃げてるのかな?」
「一般的に嫁の立場で言ってもいいですか?」

「はい」
「私も嫁の立場ですが、出来れば、会いたくないと行く気持ちはありますよ。面倒というか。だって、生活が違うし、年齢も違うし、育ち方が違うから、価値感が違うのは当たり前。お互いを尊重しあう関係は、ある程度、距離が離れているから出来るのであって、近くにいたら目に付くから」

「そうですよねぇ・・・でも、コーチは、だから仕事をしているのですか?」
「そこが違うんです。私は、私の自己実現というか、私は私が幸せになるために仕事をしています。そして、その幸せを、家族にも、周りの人にも、みんなに分け与えられたらいいと思って仕事をしています」

「すごい!立派ですよね・・」
「立派かどうかわかりません。ただ、私が生き生きしていて、楽しそうであれば、子供も社会に出て働くということは、楽しいことだと思ってくれると信じています。私が幸せであるからこそ、子供たちにそういう気持ちを分けてあげられると思うんです。もちろん、根拠はありませんが」

「なるほどね、そうですよね。私は、そこまでの強い思いがないんです」
「引き続き、考えて見ましょうか?今週は、どうして働くのか?理由を考えるということにさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、また、自分を見つめてみます。何かが見つかると、ぱ~っと、目の前が広がるような気がします」
「ぜひ、無理をせず、考えてみてください」

自分の心の深いところを知ることによって、今後のキャリア・ビジョンを見つけることが出来ればいいなぁと思います。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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熱血社長と夢を語らない契約社員へのコーチング(その2)~夫婦の信頼関係を取り戻すために、自分の人生を考えた男性社員の今後の夢をうかがう~


「はじめまして・・西川さんでいらっしゃいますね?」
「はい、西川です」

「どうぞ、お入りください。来ていただいたここは郊外ですが、わかりづらかったでしょう?」
「はい、ちょっと迷いましたが、それほどではありませんでした」

「ところで、西川さんは、コーチングは初めてでいらっしゃいますか?」
「いえ、ずっと以前働いていた会社で受けていました」

「?会社で受けてらっしゃったんですか?」
「はい、あの・・・私は、実は以前大手の商社におりまして・・・社内のコーチング研修で知り合ったコーチに、個人的に契約をしてもらっていて・・海外赴任のとき、家族を連れて行くかどうかとか、妻の父親と、私の親父がほぼ同時期に倒れて看病しなければならなくなったときの妻との関係とかをコーチとセッションして自分の気持ちを妻に伝える勇気を持ったりしていました」

「経歴を林社長は何もおっしゃらなかったので、失礼しました」
「いえ」

「この三月末で契約が切れるということですが、次の仕事はお決まりですか?」
「いえ、まだ・・・年齢が年齢だし、商社にいたのは、かれこれ五年も前の話。再就職は難しくて・・」

「雇用形態は契約社員をご希望なのですか?」
「はい、仕方がないんです。今は・・」

「事情がおありなんですね・・。伺ってもよろしいですか?」
「はい、実は、妻の父親はすでに他界しております。脳梗塞で倒れて、四年半、妻は看病していました。でも、三年前に倒れた私の親父は、まだ、生きていて・・(西川さんの目に涙が・・・)」

「続けてもらってもいいですか?感情を殺す必要はありません。しばらく時間をとりましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。みっともないですよね?男が泣くなんて・・・。
(しばらく沈黙の後)私の親父は心臓でした。心筋梗塞というやつで・・・妻が早く気づいてくれたので、命は落としていません。でも、入院して自宅に戻ってからどうも言動がおかしくて。いわゆる認知症というやつです。二年前は、まだ、妻も自分の父親の病院での看病と、自宅での私の親父の看病とをやりくりしてくれていました。でも、だんだん、私の親父の痴呆がひどくなって、徘徊するようになると、二人の病人と四人の子供の面倒を一人で見ることは困難になりました。当たり前ですよね。
でも、私は、仕事をやめられるはずがなく、自宅に戻ると不機嫌でいらいらしている妻の気持ちを汲み取ってやれず、自分だって仕事で疲れているからと、家事や育児を手伝ってやらなかったんです。二年半前に日本に戻るとき、自分は課長になったばかりで、中間管理職としての役割をいやというほど感じていた頃です。だれも、自分のことを理解してくれていないと思っていました。だから、妻の苦しみや悲しみに気づいてやれなかったんです。妻とは、同期入社で、総合職同士だったから、話もあったし、理解しあえていると思っていました。妻の父親が倒れたとき、彼女は介護の決心をし、子育てを保育園に任せっぱなしだったから、このあたりで社会とお別れしなきゃならないと自分から言い出したから、すべてを飲み込んでいたと思っていたんです」

「奥様は?今お元気ですか?」
「ええ、自殺したとかじゃないですよ。ただ、彼女との信頼関係は失ったままです。同じ家にいるし、子供の良き母親であり、私は良き父親であります。ただ、夫婦の間に信頼関係はありません。二人きりになると、会話もありません。彼女は、私に心を閉ざしたままです」

「西川さんが契約社員である理由は?」
「彼女は、仕事をやめたくてやめたわけじゃなかったんです。私のキャリアを優先して考えてくれてただけなんです。当時の私は、とにかく自分のことだけで精一杯だった。でも、彼女は、いつかそんな自分の気持ちを私が理解すると思って期待していたと思います。男だから、家事や育児なんて関係ないと思っていた。
今、私は、土曜日と日曜日は父の看護と子供たちの面倒を見ているんです。彼女に仕事をさせてあげるためです。パートだから、給料が良いわけじゃない。でも、私の給料だけじゃ生活が厳しいから、足しにしてもらってるんです。それでも、彼女は社会と接していたいというから、希望をかなえてあげているんです。
平日も、私は残業出来ないんです。私が、父と子供たちのお風呂の担当だから。彼女に三〇分だけ、自分のことだけする時間を作ってあげるんです。夫婦の信頼関係を取り戻すこと、私が男として役割を担う働きをすること。これが、私の夢なんです。でも、そうするためには、父親が死ぬのを待つしかない。そんなこと、社長に話せますか? 男気の高い社長に、今の私の生活は理解出来ないと思います。林社長のお母さんの介護は、専務である奥様に任せっぱなしだったと聴いています。林社長は苦労していないんです。そういう面で。理解してもらいたいという甘えもありません」

「夢を語れないのは、そういう理由だったんですね?」
「はい、父親の最後が待ち遠しい、仕事をしたいなんて、そんなこと人として、男として話すべきではないでしょう?」

「うん・・・話すべきかどうか私には結論は出せませんが、西川さんの心は伝わってきます。このままでよろしいのですか?」
「このままで?とは、契約のことですか?」

「はい、西川さんが林社長だったとしたら、今の西川さんの事情を知ったら、どんなふうに声をかけると思いますか?」
「いや、介護や育児に追われたといっても、だから仕事で失敗したのはフォロー出来ないと言うと思います。現に、妻は、そんなにぼろぼろになりながらも、パートに出る日や仕事をしている姿は輝いています。やはり、どこかに私は『手伝ってやってる』とか、『やらせてやってる』という気持ちを持っているからでしょう。仕事が出来ない=契約打ち切りは、ルールなので仕方がありません」

「林社長は、もっと懐の深い方であると感じたことはありませんか?」
「社長と私は似ているんだと思います。考え方に信念があるというか。自分の意見には絶対の自信があるし、男であることにこだわりもあります。私の夢を実現するためには、職場が必要でしょう?
男として家族を養う仕事をする環境が出来たら、私はもう一度、この会社を訪ね、社長と一緒に仕事をしたいと思っています」

「胸のうち、お伝えにならずにお辞めになるんですか?」
「ルールは大切です。男ですから・・・」

なんとも悲しい事情が二人の間にありました。
西川さんは、このセッションのあと、「久しぶりにコーチングを受けて、やる気というか、商社で海外赴任して自分の人生を楽しんでいた当時の自分のモチベーションを思い出すことが出来ました。また、いかに自分が林社長のこと好きなのかも理解出来ました」と、すっきりした顔でフィードバックをしてくれました。

「男として」という表現を、お二人とも口にしていたことがとても印象的な二回のセッションでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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体調の悪い人へのコーチング~仕事中心に生きてきた若手女性社員。話したい思いを受け止める会話~


このままでは、自分がどこに流れ着くかが心配で・・とおっしゃる人材派遣会社のコーディネーター歴三年の今井さん。今回のセッションは、人生設計のお話です。

今井さんは、金融系の特定派遣をしている人材派遣会社のコーディネート業務をしています。マッチングの精度が高く、派遣先企業からも、スタッフからも信頼が厚く、この仕事は天職だと思って、少々の残業も、きついクレームの電話も、まったく気にせずに三年間、ただひたすら努力をしてきたと胸を張っておっしゃいます。

ところが、四年目にかかろうとしたこの夏、今井さんの身体に変調が起きたそうです。
三週間ほど頭が重い感覚が抜けず、思い切って心療内科を訪ねたら、「すこし会社を休んで、気分がリラックスする方法で休暇を過ごしてください」と言われてしまったそうです。

この場合のセッションは、組み立て方が難しく、今井さんのペースに合わせて今井さんの話したいことをしっかり聴きましょうという約束で、セッションをスタートさせました。

「今井さんが一番話したいことは何ですか?どんなことでもどうぞ」
「う~ん・・一番かどうか分かりませんが、私のこの身体、どうなっちゃったのか、それはとても不安です。この先、どうなるのか・・」

「身体がどうなるかが心配ですか?」
「そうですね。私の仕事をちゃんと変わりの人がやっているかも心配、スタッフの中に、新しい職場で仕事を始めたばかりの人がいて、電話かかってきているかもしれない。そんな時、私がいないなんて知ったら、裏切られたって思うかもしれない。クライアントに新しい人材を入れていただく提案をしていることも心配。途中で放り出したと思われないか?」

「たくさんの心配事がありますね。それらの仕事は、すべて自分で処理されてこられたの?」
「はい、営業さんは忙しいし。スタッフの面接は私が担当だから。一番、私がスタッフのことを知っているじゃないですか?だから、お仕事を紹介して、働いてもらうのが私の責任じゃないですか?そう思って一生懸命仕事をしてきました」

「たくさんの仕事をこなしたんですね・・尊敬します。どこからそのエネルギーが沸きあがるのでしょうねぇ」
「さぁ、みんなのためになりたいという衝動かな?」

「身体の中から力がわくっていう感じかしら」
「そうですね。この会社は、大学生のアルバイトでお世話になった派遣会社の仕事に興味をもってそのまま入社させてもらった会社でしょ。一緒に働いていたスタッフさんのところには、月に二回くらい、営業さんが来て楽しそうに話していた姿を見て、いいなぁと思ったのがきっかけですから、スタッフフォローが出来るコーディネーターになりたいと思っていたんです」

「それは、現状、どのくらい達成出来たと感じていますか?」
「80%は達成したと思いたいです。でも、派遣先と合わなくて三日でやめちゃうスタッフさんと電話で話す時とか、お仕事を紹介してもぜんぜんいい返事がもらえないことが続くと、この仕事をこのまま続けた先にどんな道が待っているのかな?と不安になります」

「今回の身体への信号は、そんな不安がサインを送ったんだろうか?」
「そうですかねぇ・・。キャリア・カウンセラーの資格をとって、スタッフさんのキャリア・ビジョンの設計をお手伝いしてきたんですけど、自分のビジョンって、描けているのかな?」

「十年は難しいかもしれないけど、五年先の自分は、やっぱり派遣で仕事していると思う?」
「うん、それが分からないんですよね。もっと何かがしたいわけでもない。でも、この会社でこのままでいいのかは分からない。急に、目標がなくなっちゃったんでしょうか?」

「そもそも、目標ってなんだったの?」
「う~ん・・目標というか、とにかくコーディネーターとして、スタッフさんとお仕事をうまくマッチングしたかったし、クライアントさんのために役に立ちたかったんです。でも、それが目標かと言われると、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。わからないです」

「あまり、思いつめないほうがいいと思いますから、質問を変えてもいいですか?」
「はい」

「だれかに、今の気持ちを話されましたか?」
「上司とか?ですか」

「ええ、上司や、先輩、あるいは話しやすい誰かがいますか?」
「先輩とは時々話しますが、あまり自分の話はしませんでしたねぇ。スタッフのことを相談したり、クライアントとのことは相談したりしましたけど・・・」

「仕事の話が中心だったんですね?」
「そうですね。スタッフさんからみて、いいコーディネーターでなければって思っていましたから、全部の力を仕事に注いでいたかもしれません」

「新卒の頃から、コーディネート業務をしていたんでしたっけ?」
「そうです。最初は、仕事の内容も分からなくて困りましたけど、だから、キャリア・カウンセラーの資格もとって、勉強して。一生懸命だったから、あまり考えなかったけど、自分は、この先どんなふうに生きていくのかなぁ・・」

「うん、一番見つけたいのは、自分のこれからの生き方かしら?」
「そうですかねぇ・・スタッフさんには、キャリア・ビジョンをもってなんて言ってるけど、自分が一番、わかってなかったりして・・」

「今井さんは、コーディネーターが天職だと思っているんでしょう?」
「はい、そうです!ただね、こんなコーディネーターになりたいというはっきりしたイメージがなくなっちゃったんです」

「ロールモデルは?会社にいませんか?」
「うん・・先輩に一人、すっごくあこがれている人がいたんですが、その人、この間、自分の会社を立ち上げて、辞めていかれちゃったんです」

「身近にはいなくなった?」
「そうですね。新しい会社にお尋ねしてみようかな?でも、忙しいと悪いし・・」

「アポイントメントを取ってから伺ったらどうでしょうか?」
「そうですね、電話してみようかな?」

「どこへなら連絡出来ますか?」
「携帯、教えてもらっているので、変わってなければすぐに直接取れます」

「いつ先輩に連絡しましょうか?」
「あはは、この流れは、コーチング!明日のお昼ごろにします。休んでいてもスタッフさんからの電話が時々入るんですが、あまりない時間帯にします」

「やっぱり、スタッフとクライアントを行動の軸においていらっしゃる。まさしくプロですね」
「ありがとうございます。これから私、どこに行くのか、自分のことを考えてみます。とりあえず、先輩に明日のお昼、電話します」

少し明るい表情になって、今井さんはセッションを終えました。
このセッションが、身体や心に負担にならなかったか、心配ではありましたが、話を聴くプロに力を借りたいという希望であれば、セッションを持つことはかまわないと実感しました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその2~後輩の言葉に将来のことを真剣に考えた先輩社員~人生の目標を見つける~


山崎さんは、三宅さんの言ったことが気になって仕方がなく、終業のサイレンがなると同時に、山崎さんは三宅さんに話し始めました。

「三宅さん、私は女房のことを何も知らないで生活していました。定年後は女房と二人の時間が長くなるわけだし、いまよりいっそう二人の生活が大切なものになるのに、女房が毎日何を考え、何をしているのかさっぱり分からないなんて、反省しなくちゃいけませんねぇ」と言う山崎さんに対して三宅さんは、

「いやぁ、山崎さん、案外奥様はこれまでの生活を楽しんでいらっしゃったんじゃないですか。それより、奥様は、旅行の具体的な計画のことご存知ですよね?」

「いやぁ、三宅さん、内緒にしてプレゼントしようと思っていてねぇ・・。まだ、はっきりとは言ってないんですよ。内緒のほうがいいでしょう?びっくりして喜ぶ顔を想像するだけで、毎日が楽しいですよ」

と言う山崎さんに三宅さんは申し訳なさそうに言葉を続けました。

「それは、奥様に早くおっしゃったほうがいいと思いますよ」
「え?どうして?」あまりに思いがけない言葉に山崎さんは、だんだん不安になってきました。

「退職後の生活設計は、どんなふうになさっているんですか?奥様と話されましたか?」
「いや・・何もまだ、具体的なものは話をしていない。でも、ゆっくりしたいと思うので、しばらくはずっとうちにいる生活になるかなぁ・・」
と言う山崎さんに、三宅さんはずばり!言いました。

「山崎さんが毎日ゆっくりなさるとすると、奥様はゆっくり出来るでしょうか?」
山崎さんは、三宅さんが何を言ったのか理解出来ず、不安になってしまいました。
「三宅さん、あなたは何が言いたいんですか?」
少し怒ったような口調になったことに気づきながらも、山崎さんは言葉を切り出しました。

「山崎さん、奥さんは毎日の生活を楽しむプロですが、山崎さんは、生活を楽しむための計画がまだはっきりしていませんよね?そうしたら、奥様は負担が増えるだけではないでしょうか?奥様にとって、家庭は職場でもあるわけですから、毎日お客様がいるような状態では、リズムも狂うでしょう。お昼ごはん一つをとっても、自分だけなら残り物で済ませるけど、ご主人がいたらそういうわけにもいかないわけです」
「それは、そうだけど・・・それでは、私はどうしたらいんだろうか。家事を手伝うといっても、それこそ向こうがプロで、私は、これまでまかせっぱなしだったから、まったくの素人なんですよ」

「そうですか、それでも、山崎さんは、この会社では、仕事のプロですよね。会社での役割はまだまだあると思うんですがいかがでしょうか?旅行は、十日間で終わってしまわれる。少しゆっくりなさったとしても、半月もすると、どうしようかと考えてしまうようになられるのではないでしょうか?山崎さんのご趣味を伺ったこともありませんが、もっと自分自身で生活を楽しむ設計をなさってから、退職なさるといいのではないでしょうか?」

三宅さんの言葉があまりにも唐突だったので、最初は驚くばかりだった山崎さんも、だんだん、三宅さんのような考え方もあると思えるようになりました。

「そうだね。三宅さん。私はもうくたびれた、後進のためにも、老兵は去るのみだと思っていたんですが、私の役割といったものを考えたほうがよさそうですね。ありがとう。君は、かっこいい横文字の言葉が多くて、私には近寄りがたいと思っていたんだが、率直に、私にはない考え方を示してくれたお陰で、女房のこと、ちゃんと考えてやれるような気がするよ。ありがとう。退職後のことも含めて、ちゃんと話してみるよ。我が女房とね」

数日後、ニコニコしている山崎さんに、また三宅さんが話しかけました。

「山崎さん、奥様と話をされましたか?」
「三宅さん、どうもありがとう。この間、君に言われてすぐに女房に旅行のことを話したんだ。そうしたら、賛成して喜んでくれたんだけど、『今度計画するときは、前もって相談して欲しい。私には私の都合というものがあるから』って言われたんだよ。これまでの私だったら、『うるさい。俺の言うとおりすればいいんだ』って女房を怒るところだけど、この前、三宅さんからいい話を聞いていたんで、おこらずに素直に女房の話が聞けたよ」

山崎さんは、この前の三宅さんとの会話から人の話をきちんと聴く「傾聴」の大切さを学び、すぐに実行したようです。

「そうですか。それはよかったですね。私もお話しした甲斐があったというものです」
「それでね、女房に言われたんだ。『お父さんは、会社に遣り残したことはないですか。今、こうして無事に定年を迎えられるのも会社があったからですよね。私もお父さんの会社に感謝しています。なんとか恩返しが出来ないものですかね?』女房からそう質問されて自分で考えてみたよ。『恩返しすべきですよ』などと詰問調で言われたとしたら、反発したんだろうけど、私に考えさせるような質問だったんで、素直に考える気になったよ」

山崎さんは、その後も三宅さんと話す時間をたくさん持ち、山崎さんは自分から再雇用に手を上げ、旅行は有休をとっていくという結論を引き出すことが出来ました。仕事については、役割を後進の育成にだけに絞られたそうです。また、家庭においての自分の居場所について、真剣に考え、町内会などを通じて地域社会に貢献したいと、奥様のネットワーク(人脈)を紹介してもらい、奥様とともに、地域美化清掃活動のボランティアを始められたり、地域の小学生に「技術」ってこんなに素晴らしいと、モノづくり教室の講師を始めると、人生計画を熱心に三宅さんに話したそうです。

山崎さんは、自分の人生にいつも自分のために使う時間がなかったことに気づき、今後は積極的に社会と触れ合いたいと、改めて三宅さんと話す時間を持ってよかったと、三宅さんに感謝の言葉を伝えました。

また、三宅さんも、山崎さんとの会話の中から「自分不在の人生設計」という言葉をヒントに、この後、キャリア・カウンセラーの資格取得を目標の一つに加えたとのことです。
コーチングは、「目標達成の支援」といわれますが、会話を通して、コーチ自身も新たな気づきを得られる魅力があるようです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその1~後輩の言葉に不安になった定年間近の先輩社員~~定年後の生活を考直す~


この道一筋四十年。
板金工として、まじめにこつこつ一生懸命仕事をしてきた山崎さんは、後二ヶ月で定年退職です。
精一杯、会社にご奉公したという満足感と、いや、後を託す後輩に自分の技術の伝承が出来ていない時間は二ヶ月しかないと、あせる気持ちが交錯し、ついつい後継者に辛く当たってしまいます。山崎さんは、会社の再雇用制度には手を上げず、退職後は、ゆっくり奥さんと旅行でもして過ごそうと考えているので、残り二ヶ月がとても短いものに思えてならなくなってきました。
今日も、後輩の鈴木課長の失敗が許せず、大きな声で怒鳴ってしまったことを後悔していました。
自分たちが育てられたときには、「ばかやろう!何やってやがる」「一回聞いたら分かるはずだ。何度言ってもわからんのは、根性が曲がっているからだ!たたきなおしてやる」と、口より手のほうが早い先輩の中で、職場はいつもぴりぴりした雰囲気で包まれており、一瞬たりとも気が抜けない、しかし充実した場でした。「一度聞いたらちゃんと覚えろ、頭で覚えようとするからダメなんだ、体で覚えろ。自然と出来るようにならなきゃ、出来るとは言えないんだ」「俺達の時代は、先輩のやることを後ろから見て、盗むように覚えたもんだ」先輩達の叱咤激励を受けて、ただただひたすら上司や先輩の背中を見て追いかけていたように感じていた。そんな時代を振り返って、懐かしいと思うのも、定年が近いからだ、歳をとったからだと思い込むようにして、なるべく今時の若い者は・・と、考えないように努力していた。

「定年後はゆっくり女房と旅行でもしようと思っているんだ。旅行に行った後は、そうだなあ、すこしノンビリするよ」山崎さんは、定年後のことを聞かれるといつもそう答えていました。
定年後はゆっくり旅行をしようと思っているだけで、特には目標もない山崎さんを見て、三十代後半の三宅さんが、お昼休みに山崎さんに声を掛けてきました。
三宅さんは、コーチングというものを勉強しているらしく、何かというと横文字をよく使う社員で、理屈よりも体を動かせというタイプの山崎さんにはちょっと馬のあわない後輩で苦手でしたので、これまではあまり長く話したことはありませんでした。しかし、あと少しで定年だから、お礼の気持ちを伝えることも大切と思って、煙たがらずに三宅さんと話をしてみることにしました。
「山崎さん、もうすぐ仕事終わられるんですねぇ」
「ああ、三宅さんにも随分とお世話になりましたねぇ・・ありがとうございました」
「とんでもない山崎さん。僕たちは、山崎さんのお陰で、技術が身についたんです。厳しさもあったけど、山崎さんの懐の暖かさみたいなものが、私は好きで、甘えちゃっていたように思います。ホントにありがとうございました」
山崎さんは、三宅さんの言葉にふっと遠い昔を思い出していました。
(「そういえば、自分も厳しいけれども暖かい上司に、ずいぶんしごかれたなぁ・・。でも、厳しいだけじゃなかった。失敗したときも怒鳴られたけれども、上手くいったときには、自分のことのように喜んでもらえた。それが嬉しくって、おっちょこちょいの自分は、ずいぶん仕事に精を出すことが出来ていたような気がする」)山崎さんは、言葉には出さなかったけれども、暖かいものを心の奥に思い起こして、思わず目頭をおさえました。と同時に、(「それに比べて自分は今、どうだろう・・」)と、振り返る気持ちを感じていました。

三宅さんは、山崎さんの隣に腰を下ろして相変わらずゆったりと話しかけてきます。
「ところで山崎さん、山崎さんは退職後、どうなさるんですか?」
「いやぁ、これまで女房には迷惑をかけっぱなしてきたからねぇ・・。会社も忙しかったからね。会社がどんどん大きくなっていく、それに自分が貢献出来るのが楽しくて、そんなときには、家にも帰らず、ただひたすら社長やみんなと一緒に仕事をしてきたんだ。私も二十四時間戦ってきた企業戦士の端くれだよ。家のことは何もしないで女房に任せっぱなしだった。けれども、女房は、愚痴の一つもこぼさず家庭を守ってきてくれていた。こんなありがたいことはないが、今更口に出すのは恥ずかしいからね。旅行にでも連れて行こうかと、思っているんだ」

「いやぁ、それはいいですね・・。どちらへいらっしゃるご予定なんですか?」
「海外は初めてだから、心配もあるんだけれども、オーストラリアに添乗員が一緒についていってくれる旅行があるので、それに申込をしたんだ。十日間ほどの旅行でね。楽しみなんだよ」

「オーストラリアですか。いいですねぇ。十日間、奥さんに孝行されるんですねぇ」

山崎さんは、相変わらずゆったりと話しかけてくる。しかも、社内で言われているような横文字の言葉はほとんどなく、不愉快なものや緊張感はまったく感じられませんでした。更に三宅さんは話しを続けます。

「山崎さん、山崎さんの奥さんは、どんなご趣味をお持ちなんですか?我が家の女房は、パッチワークを習っていて、やれ今日は教室がある、やれ今日は展示会がある、やれ今日は先生のお宅にお招きいただいていると、しょっちゅう外出して、忙しそうにしているんです。山崎さんの奥さんも、毎日忙しくされているんじゃないですか?」

三宅さんの愚痴とも言えぬ言葉を聴いて、山崎さんはふと考えました。

(「我が女房殿は、どんな暮らしをしているのだろうか。わからない。そんなことなど考えたこともない。女房が毎日何を考えて、どういうことをしているのかを知らないなんて・・
これまでいったいどんな夫婦だったのだろうか?女房は何を考えているんだろう?熟年離婚?まさか、そんなはずは・・・・・?)

ふと不安がよぎった山崎さんでしたが、お昼休みの終わるサイレンにせかされて、「三宅さん、この続きはまたあとで・・・」後ろ髪を惹かれる思いで仕事にもどりました。

次回に続きます。

次回はさまざまな形でコーチングが出てきます。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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