コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

若手の先生と教頭先生の会話 のその後~コミュニケーションを考え直す~


さて今回は、前回の若手の先生と教頭先生の会話のその後をお伝えしようと思います。
教頭先生との会話の後、横井先生は深く考えました。

特に、教頭先生から受けた質問の、「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いていたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。
問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。
ですが、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」
という思ってもみなかった質問は、深く心をえぐられました。

それでも答えが出ないので考えることをやめてみようと思いながらも、教頭先生から言われたことは、頭から簡単には離れませんでした。

「そうだなぁ・・自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁ・・」と、自分を責める言葉ばかりが胸にこみ上げて、しまいには、「自分は教師には向いてないのでは・・?」という答えしか思い浮かばなくなってしまいました。

翌日以降は、顔を合わせると質問され追求されるような気がして教頭先生のことを避けるように、職員室にも身をおかないようにしていました。
たまに顔を合わせても、「どうも・・」とか、「お疲れ様です」と短くあいさつするだけで、なるべく教頭先生とは距離をおくようにしていました。

期末の成績評価も終え、明日から生徒は冬休みという日、職場では忘年会をかねた慰労会を行いましたが、横井先生は教頭先生と話したくないという理由のためだけに欠席しました。そんな横井先生の態度を見かねた教頭先生は、自分から横井先生に話しかけてきました。

「横井先生、お話したいのですが、今、よろしいですか?」教頭先生は相変わらず穏やかに接してくれていますが、横井先生は気がすすみません。
「今日は予定があるので、手短にお願いします」と答えるのが精一杯で、声も冷たく顔もこわばっているのが自分でもわかるほどでした。しかし、上司が接触してくるのを拒めば、更に居場所がなくなると思い、しぶしぶ教頭先生と向き合うことにしました。

「横井先生、何か私に話したいことがありませんか?このごろ、先生の様子がおかしいと思って心配になっていました。いかがですか?私に話せますか?」
教頭先生も心なしか、緊張しているようです。

「いえ、あの、この間は一緒に考えようと言ってくださったし、明日までと言ったのに、何も答えが見つからなくて。どんどん教頭先生に距離をおいてしまい、接触しづらくなっていました。すいません」横井先生の体格はがっしりしているほうですが、これ以上ないというほどに身を縮めて申し訳なさそうに話します。

そんな姿を見て教頭先生は、「横井先生、謝られることなど何もないですよ。私のほうこそちょっと空回りしたかと思っていました。横井先生にすぐにお詫びをしようと思ったのですが、ついつい後回しにしていました。申し訳ないことです」と、頭を下げました。
横井先生は、教頭先生から頭を下げられたことに驚くとともに、率直に自分の考えを話しても良い人なんだと、初めて思いました。

「教頭先生、実は、あの質問の答えを探しているうちに、どんどん、自分は教師に向かないという一点にだけ、心が集中していってしまっています。自分が一番、生徒に甘えて自律した考えを持てていなかったかと思うと、生徒に申し訳ないような気がして・・・」一気に話す横井先生の肩から力が抜けていくようでした。
「自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁと思ったんです」

「それってどんなことですか」
「はい、生徒の結果だけを注目して、あんなにやっているのにどうして生徒はついてこないんだろうと、生徒の態度だけを気にしていたような気がします」

「生徒の結果に注目して、生徒のついてこないことを気にされていたのですね」
「そうなんです。私は一生懸命に生徒のことを思ってやっている。それなのにあいつらときたら と思うと生徒に信頼されていないような気がして、もうどうしていいか分からなくなってしまっていました」

「どうしていいかわからなくなってしまったんですね」
「はい、それも原因は、信頼されていない私にある。結局、私は教師には向かないんだって思うと、それ以上、前に進まないんです」。

「横井先生のクラス、生徒は何人でしたっけ」
「二十五人ですが、それが何か、私の悩みと関係あるんですか」

「横井先生、生徒一人ひとりの顔を思い浮かべてください」
「・・・・・・・?」

「一人ひとりに数学をどのように指導してきました?」
「基本をきっちりと教え込んで、それから個々の理解度にあわせてやろうとはしているんですが。どうしても時間との競争になってしまうので、宿題にして生徒自身で答えを導き出すように仕向けています。生徒一人ひとりがそれぞれ違いますから・・・」

「そうですよね。生徒一人ひとりそれぞれ理解度も違えば、考えるスピードも違うわけで、われわれ教師は、出来るだけ一人ひとりの生徒と向き合っていきたいものですね」
その後二人は、日が暮れ、底冷えするのに気づくまで、ゆっくり話し合いました。
横井先生は、自分の心の中にたまっていたものをすっかり出し切ったのか、スッキリした顔で教頭先生に胸のうちを伝えました。

「教頭先生、答えはまだ出ていませんが、前向きに考えて生きたいと思っています。来年、新しい太陽が上るのと同時に、もう一度一からやり直して見ます!ありがとうございました」
教頭先生も、横井先生に「習ったばかりのコーチングのスキルを振り回したために、混乱させて悪かったね。コーチングはコーチの自分自身のために行うのではなく、相談者のために行うんだということを再認識しました。相談者を思いやることの大切さを、横井先生に教えてもらえました。ありがとう」と伝えました。

三学期は、新年九日からスタートします。
前向きに考える気持ちになった横井先生にとって新しい一年が、希望に満ちたものであることは間違いありません。
コーチングは、スキルや知識を大切にしますが、相手の人格尊重、相手を思いやることも重要な要素であることを、改めて感じました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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若手の先生と教頭先生の会話~コミュニケーションを考え直す~


中学校で数学を教えるようになって七年目。熱血先生として評判の横井先生、熱血ぶりにかげりが出ています。

このごろの生徒の学力低下はひどいものであり、どうやって指導していけばいいのかと悩みの深い横井先生。近頃では、生徒がどんなことを考えているのか、自分のやり方に不満をもっていないか、ついていけないと考えているのではないかと思い出して生徒の言動のすべてが気に障るようになりました。文武両道、数学の授業もクラブ活動のバスケットボールでの指導も熱心に行うことから学校の中でも有名な熱血先生でしたが、このごろでは、部活動の指導にも熱が入っていないように見受けられるようになっていました。熱血先生の極端な変わりように教頭の田中先生は心を痛めていました。

期末テストも終わり、珍しく部活動の指導を早めに終えた横井先生が、ひとり職員室にいたのを見計らって、教頭先生は横井先生の隣に腰を下ろしました。

「お疲れ様です、横井先生。このごろ、元気がないようで心配なんですが、何かあったのですか?」と、何気ない世間話を始めるように、教頭先生は横井先生に話しかけました。

横井先生は、深いため息をつきながら「教頭先生、この前の期末テストの結果でも明らかなように、僕の教えている生徒たちの成績、惨憺たるモノなんです」と、横井先生は胸のうちを吐き出すように話し始めました。
「生徒たちはまじめに僕の授業は受けているんです。とても熱心だと思います。僕も、授業の進め方は工夫しています。でも、テストになると、皆、盛田先生の指導のクラスより成績が悪いんです。ある保護者からは、3者面談のときに、『指導力がたらないのでは?』と、露骨に指摘されてしまったし。どうしたらいいのかわからなくて・・・」

胸の中にずっとしまっていた荷物を降ろし始めた横井先生は、次から次へと話します。「生徒たちは、普段、とても楽しげに授業を聞いてくれているんですが、問題を解けというと、『わからん』だの、『難しい』だのといって真剣に問題と向き合おうとしないんです。
時間がないから、どうしても、授業最後のほうに出す問題については、正解を出すまでの過程を板書し、ノートに写させて各自で勉強しておくようにと伝えるんです。

次の授業のとき、振り返りにと問題を扱うと、覚えているらしくそのときには出来るんですが、理解していないからかテストになって、応用問題にすると、まるっきりわかっていないようなんです。私は数学は暗記じゃなくて、順序立てて物事を考えていき、答えを導いていく過程が大事だと考えています。ところが生徒達は、暗記ものと捉えているらしく、少し応用を利かせるともう出来なくなってしまうのです。
例題をどんどんやらせて、解き方を暗記させていくのも一つの手なんでしょうけど、それでは数学を勉強する意味がないと思うんです。例えば、『分数の割算は逆さにしてかければいい』というテクニックを覚えるのではなく、どうして逆さにしてかけるのだろうかということを順序だって理解してもらいたいんです。ところが、生徒達には・・・・」

どうやら横井先生は深い悩みを抱えているようです。

教頭先生は黙って横井先生の話を聴いていましたが、横井先生の言葉が切れてから、十分に時間を空けて、穏やかに質問をしました。

「横井先生、よく話してくれましたね。私はとても嬉しく思います。同時に、あなたの悩みがとても深いことを感じています。少し時間をかけて、その問題の解決に向けて、横井先生を支援していきたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「教頭先生、ありがとうございます。こんな話、だれにも相談出来ず悩んでいたんです。教師が授業のあり方で悩んでいることを人には知らせられなくて、どうしたらいいのか困っていたんです。思い切って教頭先生にお話してみました。ですから、校長や学年主任には黙っていてくださいね。もちろん、保護者の方にもです」

「横井先生のお気持ちはよくわかります。今日うかがったことは、横井先生と私の間だけの話としましょう」

「ところで横井先生、先生は、生徒たちにどうなって欲しいんでしょうか?」

「え?どうなって?そんなこと、考えたこともありませんでした。今考えますと少なくとも、自分の力で考えられるようになって欲しいと思いますんです。数学の魅力は、考えて答えを導き出すところにあります。今の生徒は、すぐに解決の方法を知りたがる。答えと解き方を聴いて、ほんとうにそのとおりになるだろうか?と、結果だけを確認している。それでは、考える力はつかないと思うのです。だけど、カリキュラムの時間はめいっぱいで組まれているし、盛田先生のクラスに遅れてはならないし・・・。そうなると、暗記させてでもいいから、カリキュラムどおり進めようと思ってしまいます。自分の〝そうあってほしいと〟いう気持ちとやっていることが矛盾しています」

「横井先生、一つ、今、私が感じていることを言ってもいいですか?」

前置きをしてから、教頭先生は言葉を続けました。

「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いたりしておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。だけれども、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」

「え?!」と、再び横井先生は黙り込んでしまったまま、しばらく時間が過ぎました。それでも教頭先生は、じっと次の言葉を待ってくれているようです。

「教頭先生、明日まで待ってもらってもいいですか?もう一度、ゆっくり考えてみます」といった横井先生の眼に、ほんの少しですが力が入ったように感じた教頭先生は、「今後もこの問題を一緒に考えさせてください。横井先生、今日はどうもありがとう」と言って、職員室を後にしました。

教頭先生は、生徒とのコミュニケーションをよくするために、コーチングを学んでいましたが、馴れ合いにならないコミュニケーションを目指しているばかりでなく、先生とのコミュニケーションを図るためにも、スキルが活かせることに気づいて、職場で活かしているそうです。

若手の教員は、自分の行動を自分で評論する力は強いが、当事者として問題を受け止める力が弱いと感じているようです。

若手教員のモチベーションを向上させたり、悩みを聴いてあげられるよき先輩教員として、コーチングのスキルを活かしているとのことです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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経営コンサルタントとして独立して悩んでいる綿谷さん~異業種交流会で出会ったコーチとのセッションをきっかけに相手に配慮する重要性に気づく~


会社勤めで経営コンサルタントの仕事をしていた綿谷さんは、自分の事務所をもち独立するのが十年来の夢でした。そのためにこれまで仕事をしていたといっても過言ではありません。綿谷さんへご指名のお話も多く来るようになり、これなら独立しても十分にやっていけると考えて今年三月三十一日に会社を退職し、念願の経営コンサルタントとして独立をしました。

オフィスは自宅の書斎と決め、必要な事務機器等も搬入され、逸る気持ちを抑えながらスタートを切りました。

まずは今までお付き合いのあった企業に独立したことの挨拶と、今後は自分に直接お話をいただけるようにとお願いすることから始めました。ところが、これまで付き合いのあった企業さんは、「わが社は綿谷さんの個人としてのコンサルタントとしての働きよりは、むしろ会社としての全体の働きを評価していたわけです。私どもとしては今後も従前の会社とは顧問契約を続けていく所存です。綿谷さん個人には、これまでお世話になったことでもあり、何かあったときにこちらから声をおかけすることでいかがでしょうか」と体よくあしらわれてしまいました。「何かあったときにこちらから・・・」というのは、「何もないと思えば声をかけない」ということです。

これまで付き合いのあったところは、自分のコンサルタントとしての力を評価してくれていると思っていた綿谷さんは、それが間違いで相手は自分の背中の看板、○○社のコンサルタントということを評価していただけだということに、初めて気づきました。

このままではいけないと考えた綿谷さんは、いろいろなつてを頼りにして、これまで付き合いの全くなかった会社さんへの営業を開始しました。飛び込み営業も行ったわけです。しかしながら独立して四ヶ月。営業をかけても相手にしてくれる企業はほとんどなく、話すらまともに聴いてもらえなかったり、話は聴いてもらえるものの、相手にとって必要な情報を引き出されると、後は、邪魔だといわんばかりに追い返されたりする毎日でした。

独立前の会社では、専門の営業がいて、コンサルテーションが必要なクライアントは、彼らが専門に獲得してくれていたので、名刺交換のときからすでに、「先生」と呼ばれ、厚くもてなされていただけに、このギャップを冷静に受け止めることが出来ませんでした。

これではまずい、何とかしなければと思い、ある夜、異業種交流会に出席してみました。なかなか名刺を出す勇気がなくどうしたらよいものかと考えあぐねていたところ、笑顔の綺麗な女性が、声を掛けてくれました。

「はじめまして。私、橋本幸子と申します。職業は、ビジネスコーチをしています。ご参加ははじめてでいらっしゃるんですか?」

「は、私は、経営コンサルタントをはじめたばかりの綿谷利男と申します。初めての参加です」と挨拶をし、もう何度も踏みにじられている名刺を躊躇しながら出しました。橋本さんはとても活発な人で、大勢の人から声を掛けられる顔の広い人で、多くの人と朗らかに話しているのを見て、うらやましく思いながらも、この会で自分がどうしたらよいのかがわからず、ずっと橋本さんを頼りに、行動することにしました。積極的な橋本さんの真似をしてみることにしたわけです。合間を見て橋本さんは、「ごめんなさいね。お声を掛けてくださる方が多くて。何だか落ち着きませんね。ところで、今日初めてお目にかかった方に失礼だと思うんですが、何か、悩んでいらっしゃることがあるようですが、いかがですか?」
と話しかけてくれました。

綿谷さんは、(初対面の人にどうしてそんなことがわかるのか。コーチをしているといっていたから職業がら誰にでもそういって話しかけているのではないのか。占い師が道行く人に声をかけるように、私に話しかけたのではないのかな。ちょっと追及してみてやろう)少し意地悪な気持ちになり、「どうして、悩んでいると感じられたんですか?」と質問してみました。橋本さんは、あっさり、「ため息の回数と深さです。この会場に入ってからずっとため息をおつきでしたよ。ご自身の行動に気づいていらっしゃいましたか?」と、にっこり笑っておっしゃいました。

綿谷さんは、この会場に入ってから、ずっと一人ぼっちで居るようなさびしさや疎外感を感じていたのですが、橋本さんはずっと見ていてくれたようです。

「この人になら、胸のうちを明かしても笑われることはない」。直感で判断した綿谷さんは、率直に胸のうちを明かしました。

「今年の春に独立したんですが、思ったようにいかなくて・・・」

ずっと静かにうなづいて聴いていてくれた橋本さんは、綿谷さんの話に、「そう、大変な思いをしたんですね」とか、「悔しかったんでしょうねぇ」と、綿谷さんが避けて表現しない心の中を、実に見事に言葉にして表現しながら、どんどん、話を聴いてくれました。

綿谷さんは、橋本さんの対応につられて自分の気持ちを話し続けていました。

十分ほどの長話になってしまったことに気づいた綿谷さんは、「橋本さん、ごめんなさい、あなただってここには何かを探しにいらっしゃってたんでしょ?僕が邪魔をしていますよね?」と、率直に橋本さんにお詫びしました。

すると橋本さんは静かに言いました。「綿谷さん、今のその心遣いを、企業周りの飛び込み営業でもしていましたか?兎に角、自分のことを売り込もうとして、自分のことばかり話して相手の都合など気にしていなかったというようなことはないですか?」。綿谷さんは、心臓をナイフでえぐられたような衝撃を感じたように、体をまっすぐにし、頬を紅潮させながら橋本さんに答えました。

「僕は一生懸命、自分のために契約してくれることばかりを探していました。そうですよね。誰だって邪魔されたくない話の途中や、仕事の途中で、人の話には付き合いませんよね。なぜそんなことに気づかなかったんだろう」

「そうなんです。話というのは相手のためにすることであって、自分のためにするもんじゃないんです。心底、相手のためを思って真剣に話していると相手の琴線に触れることになるわけです」

「どうもありがとうござます。橋本さんと出会えただけでもこの会に参加した意義がありました」

綿谷さんはこの夜をきっかけに、今は橋本さんのコーチングを受けながら、個人事業主を楽しんでいるそうです。

そして、この半年の間に、顧問先は三社になり、目標まであと二社を目指して日々、営業に励んでいるそうです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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営業に異動して悩んでいる清水さん~不平不満を提案に変える~


清水さんが営業チームのリーダーに任命されたのは、九月1日のことでした。
これまでは、技術開発員としてキャリアを積んでおり、会社からの異動辞令には「どうして?」という気持ち以外には感じることがなかったそうです。確かに、これまでも営業に同行して、お客様へのプレゼンテーションなどの際には、補足説明をし発注につなげるなど、売り上げ拡大に貢献していた実績はあります。しかし、どちらかというと口も重いほうだし、人と話すのは苦手でそれだから人と話をしなくてもいい技術開発を仕事として選んだというような意識もあり、自分に営業など勤まるのだろうかととても悩んでいました。

そんな時、営業部長の都築さんに食事に誘われ、仕事のことでハッパをかけられるのはイヤダなと重い心を引きずりながらも、同行することにしました。

しかし、都築営業部長は、もともと人事部で長く社員教育に携わっていた人で、自分と同じように、営業との関連が薄い中での異動を受けた人ですが、営業にうつってからは、かつてないほどの高い成績をあげている社内で有名な人です。他部署から異動してきて、全く新しい仕事をきちんとこなされている都築さんから、何かしら自分のこれからのヒントでももらえれば無駄な時間になることはないな、そう思うことによって、なぜか清水さんにとって都築部長のお誘いはいやいや同行するということでもなくなりました。

「まあまあ、お疲れさん、慣れない仕事で気が張っておられると思って、今日はねぎらいたくてお誘いしたんですよ」。

開口一番、都築部長から清水さんの心の中をかいま見たかのような挨拶を受けた清水さんは、少しびっくりしたということでした。

「部長も、営業はあまりご経験なくして部長を拝受されたとのことですが、お困りのことはなかったんでしょうか?私は、未だに『なぜ私が営業チームのリーダなんだろう?』と思っているだけで、会社に対しては、不信さえ感じています。私は技術開発員としては失格だったんでしょうか」
「清水さんは、この人事に何を感じておられるのですか?会社への不信だけですか?」

「いやぁ、そうではありません。ただ、会社からの期待を感じれば感じるほど、自分の能力に不足を感じるんです。そうなると、この人事を恨む気持ちも強まってくるんですよ」
「なるほど、ご自分の能力と会社の期待の高さが比例していないと感じているわけですね?」

「ええ、そうです」
「では、清水さんは、会社から何を期待されていると感じているんですか?」

「そりゃ、もちろん、営業成績をあげること、売上と利益の向上でしょう。都築部長だって、それを望んでいらっしゃるからこそ、こうして私を食事に誘ってくれているんじゃないんですか?異動して二ヶ月もたつのに、どうして清水は自分から積極的に動かないんだろうと、ほんとうは思っていらっしゃるんじゃないですか?」
「自分の気持ちを何とか前向きにしていこうと思うだけで精一杯で、営業チームのリーダーとして部下と接する余裕など全くありませんよ」

「部下と一緒にお客様まわりをしていても、お客様と部下との会話を横で黙って聞いているだけで、こんなことでいいんでしょうか」
「力不足をどうやって解消していけばいいのかわからないんですよ」

「やりながら覚えるといっても、営業で失敗して大きな穴を開けるようでは、大変ですし・・・」
「そもそも、私は口下手ですし、人に説明するのは向いていないんですよ。ほんとうに誰が見てもミスキャストですよ。今回の人事は・・・。会社は私に営業で何をしろと言うんでしょうか。もっと適任がいるはずですよ。部下だってそう思っているみたいだし・・・」

清水さんの不平・不満は、どんどんエスカレートしていきます。都築部長の質問に答えれば答えるほど、自分が不平・不満を感じていることに気づいてきました。しかし、それと同時に都築部長は一切、その不平や不満を口にする清水さんの発言をやめさせようとはせず、むしろ、どんどん吐き出させるように、清水さんの発言の全てを認めるようなあいづちをうってくれていました。
三十分もじっくり話を聞いていただいたころでしょうか?都築部長は、穏やかに清水さんに質問をしました。

「どんな人でも最初から営業のプロって人はいませんよね」
「会社は清水さんのことを適任だと考えて起用したわけです。もちろん、最初から全部出来るとは思っていません。次第にプロになられるだろうと思っているわけです。一方、清水さんはミスキャストだとおっしゃる。それでは清水さん、清水さんの今の不満を、提案として訴えるとすると、会社にどんなことが言えると思いますか?」

「会社に提案ですか・・・」
清水さんは、とっさに答えることが出来ませんでした。(「私は一体どうしたいんだろうか。不平・不満を言っているだけでは、解決にはならないし・・・会社への提案は特にありません というのも違うような気がするし・・・どうすればいいんだ」)

都築部長は続けて静かにおっしゃいました。
「人はミスを犯したくないものです。それゆえ慣れた仕事をしたがるものです。慣れた仕事から、新しい慣れない仕事に異動させられてしまうと、それが不平・不満につながるわけです。不平・不満は、誰でも持っています。それは自分にとっての『問題』ということです。『問題』を『問題』のままで終わらさないで、自分のこれからの『課題』として、取り組むことが大事だと思います。不平・不満を持つこと、それはさらに自分を成長させるチャンスなのです。

不平・不満のまったくない部下などは、私は信頼しません。不平・不満は、向上心の現れです。
私は、部下の不平・不満を、提案に変えるスキルを持つことも、上司の役割だと思って、コーチングを勉強しています。もしも清水さんが自分の営業能力の不足を不安に感じていて、それが会社に対する不平・不満になっているのだとすれば、自分に必要な学習をして能力開発することを提案しますが、よろしいですか?

私はそうやってきました。このやり方をやられるかどうかは清水さんが決めることです」と、都築部長は力を込めてお話くださいました。
清水さんは都築部長の話を真剣に聴くことによって何かを感じたそうです。
清水さんは自身の不平・不満と真っ向から向き合い、同時に部下の不平不満にも付き合う覚悟で、次の日に出社しました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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仕事を任せた婿への対応に悩む経営者~業績向上につなぐ人材育成を考える~

「人生は長い長い「ウサギとカメの競争」。怠け心(ウサギ)と頑張る心(カメ)のバランスがなかなか上手く取れない。お客様へのアプローチが下手な社員を抱える経営者とのセッションです。

「お客様対応が下手な田所さん、その後いかがですか?」
「いやぁ・・・相変わらずなんですよね・・・。『これください』とおっしゃられたものだけしかお勧めしない。迷っているお客様との応対なんて、お客様が迷われている時間だけかかってしまって、完全に相手のペースでねぇ。お客さんが減ったとはいえ、うちは老舗の店ですよ、次のお客様がお待ちになっていらっしゃるわけだし。もう少してきぱきとお客様をさばいてもらいたいんです。『これがお勧めです』といって押し切ってもいいと思うんですよね」

「社長のお気持ちは、田所さんには伝えていらっしゃるんですよね?」
「いやぁ、私が直接言うと、若いモンには重荷だろうから、専務から伝えさせていますよ」

「なるほど、ご自分でおっしゃると、若い人に重荷になるから、専務さんに伝えてもらっているわけですね?専務はどんなふうに伝えているか、また、いつ伝えているか、確認していらっしゃいますか?」
「いやぁ・・・専務は入り婿ですからねぇ。私にも何かと遠慮があって、任せたことは一切口出ししないようにしているんだ」

「そうでしたね。では、なぜ、娘さんにお話して、教育をしてもらわないんですか?」
「いやぁ、娘では社員は動かないだろうからネェ。それに、あまり娘の力を当てにしたくないんだよ。まだ、子供たちにも手がかかるから、あれもこれもさせるわけにはいかないんだよ」

「お嬢さんへの配慮ですね。お嬢さんには手を貸していただこうと思わないのであれば、やはり、専務さんとの連携をもっと深める必要がありますね」
「専務の仕事ぶりがなかなか、自分の思うように進んでいなくて、イライラするんですねぇ」

「専務さんのお仕事が自分の思うものと違うことと、お客様対応が上手くならない田所さんの問題は、社長の中では、同列なんですか?」
「うん?いやぁ、そうじゃないんだが・・・」

「少し切り離して考えましょう。田所さんのように接客が上手く出来ない社員には、お手本を見せて感じさせることも重要ではないかと思うんですが、誰か先輩社員でお手本になれる人をあげていただけますか?」
「はぁ、そりゃあ、やっぱり私でしょう。この道五十三年。私もまだ、店には立ちますからネェ」

「なるほどね。社長自らをお手本として真似してみようと、提案なさったらいかがですか?」
「そりゃぁ、いいと思うが・・・」

「何か問題がありますか?」
「教育は専務に任せたといった以上、それもおかしいのではないか?それに、私が店頭に立つといっても、そうそう毎日じゃないわけだし。そんな悠長なこと言っていたら、人は育たんのではないのかな?」

「なるほどね。専務さんへの配慮が一つ。育てる時間が悠長になるのが一つ。二つの問題があるわけですね。この二つは、連携した問題であるように思うから、どちらか一方を選ばない、また両方とも選ばないこととして、何か別に手立てを考えてみましょう。いかがですか?」
「そうですね・・・」

「社長以外にお手本になりそうな社員はいますか?社長が信頼出来る社員がいいですね」
「うん・・・ベテランの課長が一人いるが、指導なんて出来るかなぁ・・」

「どんな指導をさせたいんですか?」
「そうだなぁ・・販売をさせている姿がゆっくり見られるように、彼女のアシスタントのようにぴったりひっつけようかな?」

「二人一組のようにペアを組ませるということですか?」
「そうだな。人件費の無駄遣いだと、専務には叱られるだろうけど、早く一人前になってもらえれば、取り戻せるだろうからなぁ・・・」

「ベテランの課長さんには、どんなことをあらかじめ伝えておく必要があると思いますか?」
「田所の販売が上手くないので、教えてやって欲しいということかな?」

「田所さんの販売が上手くないと、ベテランの課長さんは感じているんでしょうか?」
「いや、わからんが・・」

「もし、課長さんも同じように上手くないと感じていたのなら、自分が積極的に指導をしていたのではないでしょうか?」
「いや、うちはそういう人のことを率先して面倒みようなんていう社風じゃないから・・・」

「なるほどね。社長、それならなおさら、田所さんの何が問題なのか、明確にしたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「そうだなぁ、お客様の言うとおりじゃなくて、店の自慢の品を勧めるとか、お客様の気持ちを慮れる店員になって欲しいということかな・・・」

「お客様の気持ちを慮るとはどういうことですか?」
「お客様の気持ちになって考えるということだろう。そんな細かなことまで言わなきゃわからないのかな?今の若いモノは・・。情けないネェ」

「店の自慢の品を勧めて、それがお客様の気持ちを慮れることになっていること、そんな店員さんになってもらいたいわけですね」
「そのとおり。それが出来て初めて販売のプロと言えると思う。そんなの当たり前だろう。私もこの道五十三年常にそうあるべきだと思ってやってきたんだ」

「社長の中にある販売のプロとしてのあり方、販売の理想像は、社長が頭の中で思われているだけでは社長だけのものですね。みんなのものとするためには、出来る限り具体的に、わかりやすく伝えないと、理解してもらえないのではないですか?」
「そうかなぁ・・言わなくてもわかると思うけど・・・・、あなたが言うなら、言ったほうが
いいのかなぁ」

「社長のお気持ちはいかがですか?おっしゃったほうがいいと思いますか?」
「よく分からんが、まぁ、一度やってみよう。それで、どう言ったらいいのかな?」

「田所さんにどんな販売員になってもらいたいか、出来る限り具体的に伝えてはいかがでしょうか?接客時間は、十五分くらいまでにしたいとか、迷っているお客様には、こんなふうにお品をお勧めしてもらいたいとか。まずは、社長のイメージする販売が出来るようにして、それから、田所さんの長所を生かした接客を確立させるという二段構えにしてはいかがですか?」

「そうだねぇ・・・それならいいなぁ」
「長年している仕事は、何でも上手くいっていますか?」

「うん?・・まぁ、そういうわけではないが・・・」
「うまくいかないことは、指導する。うまくいったことは褒めることが大事ですね」

「そうだな、褒めてやればやる気も出るな」
「そうでしょ。照れくさいかもしれませんが、やってみられますか?」

解決出来ない問題は、複雑にいくつか重なり合って起きるときがあります。当事者はそれに気づかず解決出来ないと悩みを抱えますす。コーチは、それに切り込むことも大切です。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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