コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

奥さん依存症の自転車屋さん~事業を続ける意志の揺らぎを他責にする経営者のモチベーションを上げる~

今後、私はどうしたらよいのでしょうか?
相談くださったのは、自営業歴五年の岩山さん。経営する自転車屋さんは、中学校が近くにあることから中学生御用達の店として、順調ですが、このままでは先行きが不安とのことでした。

「いやぁ、実はうちの店の前で自転車に乗った女の子が鉄板の上で滑って転んだんですよ。頭を打ちましてね。出血がひどくて、傷口をタオルで抑えながら、救急車を待っていたんですけど、女の子の顔がみるみる蒼くなっていって。怖かったですよぉ」
「あらぁ、それは大変でしたね。女の子は? 大丈夫でしたか?」

「はい、1週間くらいたって、お父さんと一緒にお礼に見えて・・・頭を三針縫われたけれども、髪の毛に隠れて、傷口も見えないからって、ほっとしてらっしゃいました」
「そうですか・・何よりでしたね」

「はい、良かったねぇって思ったら、ついつい余計な口がすべちゃって・・・・・・・・・」
「?口が重くなっちゃいましたね」

「ええ女の子に説教しちゃったら、お父さんも固い顔になっちゃって。『たしかにうちの子が傘差し運転をしていたのが悪いけど、お宅の店の前の鉄板、お宅がしいたんでしょ。あれさえなければうちの子が転ぶこともなかったんじゃないかな。救急車を呼んでいただいてなんだけど、そんなに頭ごなしに叱らんかていいんじゃないですか』って言われたんです。女の子は女の子で泣き出してしまうし・・・。女房が、『まぁ、あんた、怪我がたいしたことなかったからいいじゃない・・』ってとりなしてくれなかったら、どうなっていたか・・・」
「なるほど、気まずい思いをしちゃったわけですね。それは、岩山さんが、自転車に乗ってくれる人を大事にしているし、自転車を愛しているからでしょう?」

「そうなのかなぁ?・・・自転車屋なんて、今時儲からないから、もう辞めようかなっと思っているのに・・。そうなんだろうか?」
「たしかに、岩山さんのこれまでのコーチングのテーマは、自転車屋さんからの転業、自転車屋さんの廃業でしたね。儲からないからやめたいという結論を持っているということは、自分の中にありました。それは変ってない?」

「はい、儲からないと、女房子供養えないですから・・・女房の機嫌も悪いですからねぇ」
「奥さんは、儲からないから機嫌が悪いんでしたっけ?奥さんのことを観察していただくように前回のセッションのときに宿題にしてありましたけど、観察してくれましたか?」

「はい、レジのお金がなくって支払日だったりすると、やっぱり銀行に行く前に、大きなため息ついてますよ」
「そんなとき、奥さんの気持ちを確認してくださいましたか?」

「コーチ、それは聞けないですよ。面と向かって、お金がないからため息つくのか?なんてことは」
「もっと、機嫌が悪くなりそうだから?」

「そうですよ。自転車屋は親父の代からやっているから、なんとなく継いだけど、今みたいに何でもスーパーやホームセンターで買えて、値段も安くなっちゃったら、うちらみたいな専門店は埒があかんのですよ」
「なるほど、経営が苦しいと感じている岩山さんの気持ちは、理解出来ます」

「でも、そのことと、奥さんの気持ちを確かめないこととは、違うと思いますよ。むしろ、明らかにするのを恐れているのは、岩山さん自身であるような気がしてなりません」
「きついこと、言いますね」

「はい、岩山さんの心の中に、この問題の根っこがあると感じるからです。もう少し、付け加えるならば、自転車を愛しているのに、経営に身を入れようとしない岩山さんに、奥さんは苛立っているだけに感じられるからです。だとしたら、奥さんが尚、気の毒に思えます」
「私は、自転車を愛しているんでしょうか?なんとなく、親父の後を継ぎ、なんとなく、これまでやってきた。大勢の子供たちが自転車を壊すたび、直してきたけど、修理すれば代金が入るからまぁいいかなぁと思っていただけの気がしますけど・・・コーチがいうほど、私は愛してもいないし、私のことを買い被りじゃないですか?」

「もし仮に、廃業して企業に入るとしても、たとえば、自転車を愛しているなら、自転車の知識とこれまでの経験を生かして自転車を売る営業の仕事が出来ます。どういう修理をしたらよいのか、指導者になることも出来ます。でも、自転車は二度とごめんということになれば、自転車とはまったく関係のない違う道を探すことになります」
「ああ、なるほど。そうですね。自転車を売るねぇ・・・。自転車を海外から輸入する会社に入るっていうのもいいですかネェ?」

「もちろんです。海外の自転車は、魅力があるんですか?」
「はい、デザイン性が高いんです」

「岩山さんにとって、自転車の存在は、大きいように思えます。でも、今は、目を背けたい?」
「・・・生活がありますからねぇ・・・」

「たしかに、レジのお金がないということは、不安な気持ちになりますよね?ただ、先日お話しの中にあった、子供がパンクで困っていると、ただで修理してあげちゃうとか、鍵をなくして困っている子供の自転車の鍵を外してあげるとか。お金を意識しないときもあるじゃないですか?」
「たしかに、そうなんですよね。後で、あ~あっと後悔するんですよ。また、金にならないこと、やっちゃったって・・・(大きなため息を漏らす)」

「岩山さんがパンクで困っている子や鍵を無くして困っている子の世話をすると、奥さんが怒った顔をしていますか」
「いえ、それは見たことはありません。ただ、お金が入らない余計なことを私がしているわけで、怒った顔をすると思いますよ」

「つまり、岩山さんの想像した、奥さんの顔でしょう?」
「はぁ、言われてみればそうですねぇ・・」

「ほんとうに怒ったときの理由を考えましょうか?」
「そうですねぇ・・・。いつ怒ったかな?・・・この間の、俺が余分なことを言ったときは、結構怖い顔してたなぁ・・・」

「理由を考えたことがありますか?」
「余分なこと言わなきゃ良かった?」

「余分であったかどうかも、岩山さんのイメージですよね?」
「ああ・・・わからんですねぇ・・・女房がどう思ってそういったのか・・・?」

「もう一度、チャレンジしてみましょうか? 奥さんの気持ちを確認するという宿題に」
「そうですねぇ・・・やってみます」

最後は、消え入りそうな小さな声で宣言した岩山さん。自分の心にまったく気づけずにいます。
男性は、どちらかといえば、感情を扱うことが苦手です。自分の感情も、家族の感情も、出来れば触れたくないと思っているか、わからないから触れてはならないか?苦手だから触れないようにしているのかのいずれかです。
自分の人生は自分で設計し、自ら行動することによっていかようにも変化させることが出来る、そのためには、自分の感情に正直になることが大切であることに早く気づいて欲しいと願うばかりです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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熱血社長と仕事以外に夢をもつ契約社員二人へのコーチング~男としての生き様に概念の強い社長が、意に反する社員を評価する~

「林社長、おはようございます」
「おはようございます。どうもすっきりしませんなぁ・・」

「曇り空っていう感じですか?」
「はい、そうですね。契約社員の西川のことなんですが、一生懸命やっているんですけれどもね、本人はね。でも、どこかピントがずれているんですよ。子供が四人もいるのに、契約社員でいいっていう気が知れませんね。僕が古いんでしょうかネェ」

「林社長は、今年でお仕事始められて何年でしたっけ?」
「大学1年のときに親父が急逝して以来だから、もう、五〇年ですかネェ」

「お母様が、代表取締役になって、林さんは?」
「大学生ですからね、僕は社員の一人。親父を支えてくれていた社員が一人。三人で仕事を続けました」

「お母様から受け継がれたのは?」
「お袋は二〇年、社長として頑張りました」

「そうすると、三九歳でお母様からバトンを受け取られたのかしら?」
「そうですね、男四〇になれば責任はしょえるだろうと、お袋は潔く引退しました」

「確かに、キャリアの長さで言えば、古い経営者でしょうね。ただ、時間的な長さだけで気持ちがふさがっているわけではないですよね?」
「はい、実は、契約社員の西川というのは、男性なんです。子供四人もいるのに、1年ごとの契約でいいというし、契約社員ですからネェ・・・他の社員と同じように給料は払えない。それどころか、今度の契約更新は、見合わせようと人事から結論が出された。男なのに、どうやって、これから家族を守るのか」

「人事担当者からの契約継続打ち切りの結論の理由は?」
「なんかね、ピリッとしないんですよ。仕事の面でも、考えの面でも。男の癖におせっかいというか。自分の身の振り方も考えられん男が、何が他人の世話なのか・・」

「それは、一つの実例でしょうけれども、他に、契約継続しない理由はあるんじゃないですか?」
「たとえば、担当として責任もたせている車両管理が出来んのですよ・・・。与えている仕事が出来ないんじゃ、給料払う価値がないですよね?」

「車両管理以外の仕事は出来るんですか?」
「いやぁ、彼がね、この間発注間違いした件では、二〇〇万円ほど損をしたし」

「でも、彼は、単年度契約者である自分の立場を理解しているんでしょう?それならば、ミスが続けば、当然、契約継続が難しくなることは理解しているはずですよね?挽回しようとか、弁解したとか?そういったことはないんですか?」
「それよりも、なぜ、彼がね、契約社員でいいのかがわからないんですよ。契約社員で与えられている仕事も上手く出来ない。だから、ボーナスもパートさんと同じくらい。年間三〇〇万円で契約したんですが、男だし、仕事が出来るなら、ボーナスをたくさん上げようと思っていたんですが、それも出来ない。
『どうしてもっと腰を入れて仕事をしないのか?正社員になることを考えたらどうか?』と聴いたんですが、『いや、夢があるんで、契約社員のままでいいです』と言うんです。『ただ、社長、生活出来ないんですよ、今の給料じゃ、だから、もう少し上げていただけませんか?』と、言われました」

「契約社員の西川さんは、夢は持っているんですよね?」
「はい、だけど、その夢って何だ?って聴いても、応えないし。あいつは、男の責任を果たせていないじゃないかなぁ、奥さんがどう思ってるかわからないけれども、あれじゃあ、かみさんがかわいそうだよねぇ」

「林社長は、男は、女房、子供を養わなくちゃならない?って考えですか?」
「あったり前でしょう?男なんですよ。男が四人も子供を持って、何が夢ですか?ばっかばかしい」

「ずいぶん、辛口ですね。林社長の夢は?」
「男としての夢は、事業を五年後に息子に譲るんですが、事業の発展と一族の発展を願うという夢はありますよ。男ですから・・」

「なるほどね。林さんが契約社員の西川さんに伝えたいことは、ずばり、何ですか?」
「男として、家族を泣かせるような生き方をするな!ということです」

「契約社員の西川さんは、自分の人生に満足してはいらっしゃらないんでしょうか?」
「僕は、理解出来ませんね。社員にならないかと、この二年の間、ずっと誘ってみたし。仕事も正社員と同じように教えてきたし。ただ、自分の考えを受け入れてもらえなかったのは、残念ですねぇ」

「なるほどね。林社長は、どうしたいんですか?」
「彼には、三月でやめてもらう。と言っても、一生懸命働いてもらいたいのは当然です。男だから、責任はきちんと果たしてもらわなければなりません」

「林社長、彼の立場にたってご自身(林社長)を見たら、林社長は男の中の男として眼に写るでしょうか?」
「彼の立場にたって僕を見れば、もちろん、日本の男の見本でしょう。自信がありますよ」

「なるほど。そんな林社長から契約社員の西川さんを見ると?」
「情けない男ですよね。仕事もまぁまぁ、家族にもまぁまぁなんて生活じゃあねぇ。奥さんが可愛そうですよ」

「西川さんの奥さんから相談があったんですか?」
「相談はありませんが、そんなことはわかりますよ。あれでは奥さんも大変でしょうな」

「といって、奥さんを雇うわけにはいかないわけですよね?」
「残念ですが、それは出来ません」

「ところで、そんなダメ社員のとの契約を打ち切るのであればせいせいして心の中は日本晴れだと思うんですが、林社長のお気持ちが曇り空なのはどうしてでしょう?」
「と言っても、彼の生活が心配でネェ・・心さえ入れ替えて、夢だなんていってないで、腰をすえて働けばいいのに。仕事が出来ない奴は、評価出来ないだけです」

「どんな仕事が出来るようになって欲しいのですか?」
「与えている仕事は、古くからのお取引先様の商品管理と発注業務、車両管理。これだけでもいいから、会社に損を出させるようなことはやめてもらいたい」

「そのお気持ちは、話されましたか?」
「言ってもわからんでしょう・・。それに、もう、契約の継続をしないことは、人事とも確認してあります。残念ですが・・・」

どうも林社長の気持ちは揺れているようです。
辞めさせるつもりではあるけれども、家族のために生活の心配をしている。
林社長が持つ「男」に対するイメージで、評価点が辛くなっているようにも思います。
こんな林社長の気持ちを、契約社員西川さんがどう感じるのか?
Ⅱ・8で西川さんのセッションをご紹介します。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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娘婿に社長職を譲った会長の悩み~後継者を信頼出来ず、復帰しようと考える社長のモチベーションを上げる~

社員一〇〇名の中規模会社を経営する久田さん。事業を継いで四八年。長い社長業の間には、浮き沈みもありましたが、久田さんの昼も夜もない献身的な努力と、もって生まれた抜群の経営センスによって徐々に安定し、社員も次第に増え魅力ある企業として地元に貢献するまでに成長しました。

ところが、自分が会長となり娘婿の太郎さんを社長に据えて会社を渡したとたん、新社長から「お父さんはこれまでずーと会社一筋でやってこられたので、ここらあたりで少しノンビリしてください。会社のことは社長の私に任せてください」と言われてしまったとのことです。始めは頼もしい奴だ、さすが自分が見込んだ奴だと思っていたのですが、そうもいかなくなりました。娘婿の社長から一切の相談がなくなったのです。そして、会社は悪い方に回り始めていました。

まず、社員の定着率が悪くなり、いつの間にか、知らない顔の社員が増える一方になったことに戸惑い、更に、銀行から保証人になって欲しいと言う申し入れを受け、びっくりして税理士に話を聴いて、高かった血圧が更に高くなり一時は入院するほどになったのは、借入金をしたという事実を知ったからでした。

自分が苦労した経験から、久田さんは、一五年ほど前に借入金をすべて返済し、一切借入金をしなくても会社が回るようにと安定させていました。そんな状態にして会社を渡したので、ぜったい大丈夫だと信じていたそうです。

心配になった久田さんは、さっそく事実関係を社長である娘婿に確認しました。娘婿は「お父さん、全く心配はありません。今、会社は、時代の要求に沿える形に脱皮しようとしているところです。全く、問題はありません。お父さんにはご心配をおかけして申し訳けありません。お父さんに心配をかけないように頑張りますし、来年には会長職を離れ相談役にでもなっていただきもっとゆっくりしていただきたいと考えているくらいです」と取り付く島もありません。

こんな久田さんがコーチングを受けるきっかけとなったのは、娘婿との会話がうまく成立せず、イライラした中でコミュニケーションをとっていたのですが、なかなか真実が見えてこないばかりか、よかれと思って娘が間に入ってくれたことから娘夫婦の間にもひびが入り、娘婿の太郎さんが「仕事が忙しいから会社に寝泊りする」と言って家から出て行ってしまい別居状態になったことからでした。

「久田さん、血圧の具合は落ち着いていますか?」
「ええ、あまり良い状態とはいえないようです。ほんとうに情けないことです。もう私の人生も終焉ですねぇ・・」

「気分はあまり優れないようですね」
「ええ・・・婿は出て行ったままですし・・」

「社員の方は?お辞めになる人は落ち着いてきましたか?」
「ええ、これ以上辞める人間はいないようです。それに、婿の強引なやり方に反発していた古参の社員は、私が社長に戻るなら、会社に戻りたいと言いに来てくれています」

「そうですか・・やはり原因は、若社長のやり方だったんですか?」
「そうですね。積極的な販路開拓はいいと思うんですが、営業にかなり無理なノルマを与えたようで。私は既に六八歳です。私が社長に戻るのは、体力的にも精神的にも辛いんですが、残ってくれている社員のためには、それしかないんでしょうか・・」

「久田さんの主治医は何と言っておられるんですか?」
「今のところ、すぐに発作が起きることはないと思うが、ストレスは体に良くないし、何より、社長業に戻るのは賛成はしないと言われています」

「他に、社長を任せられる人は?」
「私を支えてくれていた専務がいたのですが、すでに婿と対立して退社してしまっていますから、呼び戻すにしても、敵前逃亡したような元の上司が社員の信頼を100%勝ち得られるとは思えないんです」

「娘さんは?一番久田さんに似ていると言われている長女の富貴子さんは?」
「富貴子は、少なからず、今回のことで責任を感じているようです。しかし、まだ、子供も小さいし、今から経営の勉強するにしても、お父さんに迷惑かけるし、私が社長になって太郎さんを追い出すようなこともしたくないといって泣いています。そうなると、強くはいえないし・・」

「社員のほかの方は?」
「うん・・・任せられるとは思うんですが、私の会社でなくなるのが、辛い気もしてねぇ」

「会社は一族のものではないと思いますし、まして、あなたのものでもないと思いますが、どうしたいんですか?」
「そうです。私のものでも、私の一族のものでもない。でも、私が苦労してここまでにしたのに、ほんとうに悔しいですね。婿の太郎さえしっかりやってくれればいいんだが、あいつが勝手なことばかりやるから・・・・」

「毎日の業務は、みんながちゃんとやってくれるからいいんだけど、婿の太郎にはもう社長は任せておけない。早く責任のきちんと取れるものが舵取りしないと大変なことになってしまう。取引先や銀行の信頼もなくなっちゃうし・・でも、体のこともあり私には、社長復帰は無理だ、出来ない。医者からも止められている」

三十分間、とにかく久田さんは、コーチの質問や提案に対して「出来ない、受け入れられない」を繰り返すばかりか、自分自身も否定しはじめて、セッションは前に進むことがありませんでした。

すべてに対して、自分の中に答えがあるのに、プライドや見栄のために、最後の一歩を踏み出せない久田さん。「社員は、こんな元社長の姿をどんなふうに見ていると思いますか?」

というコーチのこの日最後の質問に、「情けない、社長として復帰してもらいたくない、受け入れたくないとおもうだろうな」と、慮る姿勢は見せましたが、やはり思い切ることは出来ないようでした。

人間は、仕事や役割によって幾つになっても成長していけるものだと思いますが、いったん一線から外れた人が、再度、前線に戻るには、相当の勇気と相当の理由と、相当の条件を作ることが必要であること、自分自身の考えを変えるために、自分への動機づけが必要であることを、ひしひしと感じる難しいセッションでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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職員のやる気なさに悩む介護団体の理事長さん~あれもこれもと問題の渦中にある当事者に、問題の数と優先順位を考えさせる~

高齢者を相手に、デイ・サービスと訪問介護所を経営する理事長の辻さん。このごろは、人手不足もあって、ヘルパーのやりくりに大変な毎日です。ついには、自分がサービスのためにお宅を訪問しなければならないという現実がやってきました。ところが、現場に出てみると、「あらまぁ・・」と思うことだらけで、つい先日は、「あんたが毎日来てくれる人だったらいいのに・・・」と、お客様に言われてしまう始末。現実には、職員に払っている給料も少なく、そんな中でみんなのやる気を高めるためにどうしたらいいのかをテーマに上げた辻さんとセッションしました。

「はい、辻さん、こんにちは。ずいぶん、お疲れの様子ですが何かあったんですか?」
「ええ、この間も急に職員が休暇をとってしまって、私しかいなかったので、急遽、訪問介護に私が出向いたんです。出向いた先で、お客様から日ごろのサービスのあり方について、「メシがまずい」などと小言を言われてしまって、翌日、その職員の顔を見るなり、「あんたたち、ふだん、どんなお料理作ってきてるの?」と、怒鳴ってしまったんです。怒鳴らなければよかったと自己嫌悪もあるし、でも、ホントにどんな仕事をしているのか考えたら、怒らずにいられなくてネェ・・」

「朝から怒鳴ってしまったわけですか?」
「はい、出勤しておはようございますも言わなかったような気がします。職員も落ち込んだけど、私はもっと落ち込んだ気がします」

「落ち込むことが分かっていても、我慢が出来なかったのかしら?」
「はい、今思うと、もっと言いようがあったように思いますが・・」

「今、改めて考えてみて、その職員に、何を伝えたかったの?」
「急に休まれると困るということ、お客様が希望する料理が出来ていないこと。この二つは、事実ですから、すぐにでも改善して欲しいです」

「その二点を、冷静に話し合うために、辻さんが心がけることは何でしょうか?」
「まずは、ゆっくり時間を作ること。私も忙しいので、彼女たちが今話せる状態かどうかを確認しなくちゃと思いながらも、『ちょっと待った』が今は出来ていません」

「いつもは、ちょっと待ったをしながらコミュニケーションをとっているのですね?」
「はい、十分に待ってからしているつもりなんですけど・・」

「十分に待ってから話をする理由は?」
「うん、辞められないようにですけど・・」

「人手の変わりはすぐには見つからないものね」
「はい、そうなんです。見つかってもすぐにお客様と仲良くなれるわけではないし、職員同士の和も大切だし」

「そうですね。ご苦労がよく伝わってきます。でも、一方で、指示や命令を出さなければならないわけですね。現実として・・どんな工夫をしましょうか?」
「事務所は、人がいないときはあまりないんです。かといって、一回は、サービスを受けているお年寄りがどこかに必ずいますし・・」

「ないない、これもだめ、あれもだめ、という考えに戻ってしまいますね。場所を変える、時間を変える、この二つのポイント以外に、何か方法はないのかしら?」
「うん・・・まさか、車の中って言うわけにはいかないし。手紙は書いている時間がもったいないから、口で伝えたほうがいいでしょうし・・」

「ところで、どうしても、辻さん自身が言ったほうがいいのかしら?」
「え?・・副理事長でもいいのかなぁ・・」

「辻さんが、その職員だったとして、誰なら言われてもいい?」
「そうですね、やっぱり役職者でなければ、『何であんたに言われなきゃいけないの?』って思いますけど、理事長の私でなくてもいいかしら?」

「なるほど、理事長である辻さんじゃなくてもいい。それなら、誰ならいいのかな?」
「そうですね、訪問介護の職員は、リーダー制にしてあるから、リーダーでもいいかな?」

「そうですか、リーダーでもいい。では、リーダーさんとはいつ、話しますか?」
「リーダーも、現場には行っているわけですから、やはり、戻ってきた後かな?」

「本人にしても、リーダーにしても、戻った後のほうがいいわけですね」
「何を伝えたいんですか?ただ、小言を言われたという事実だけですか?」

「事実は事実として言って、私の気持ち、どうして欲しいとかこれは止めてほしいとか、そんなことかな?」
「それから?」

「うん・・・よくやっているという点も褒めてあげたい」
「褒めることと、小言を言われたという事実と、注意点を挙げるのかな?」

「はい、そうですね」
「それを、リーダーに伝えてもらうって感じかな?」

「そうですね。リーダーにまずは理解してもらって、間違いなく伝えてもらう」
「それが伝わると、職員はどんなふうに変わっていくんでしょうか?」

「うん・・行動がぴりっとしてくれたらいいな」
「なるほど、行動をぴりっとさせて欲しいのね?それから?」

「行動が変われば、お客さんの満足が高まって、職員も充実感が高まるんじゃないかな?」
「職員には、充実感を高めてもらいたいの?」

「給料がたくさん出せないから、どうしてもやる気が出ないんだと思う。だから給料を上げるわけにいかない以上、職員が自分自身でやりがいをもって仕事をしてもらうようにしないと、どんどん辞めていってしまうから・・」
「二つの視点があるようですね。給与の問題と、職員のやる気はリンクした問題だとは思いますが、だからと言って、いい加減な仕事をしているのではないか?と、辻さんが職員に意見をするのは、別の問題だと思うのですが、いかがでしょうか?」

「え?給料が安いから、やる気が出ないんじゃないでしょうか?」
「確かに、リンクした問題だと思います。でも、それとこれとを一緒に考えないほうがいいと思うのは、給料が多いから、少ないからやる気が出ないとか、行動が雑になっているというのは、辻さんの憶測でしかなく、事実かどうかわからないからです。事実を元に、行動を改めてもらいたいのであれば、まずは、仕事を大雑把にしないで欲しいという辻さんの考えを、リーダーに理解してもらい、間違いなく第一線の職員に伝えてもらうことじゃないでしょうか?」

「・・・」

深く考え始めた辻さんを前に、コーチは辛抱強く、このセッションを続けました。
当事者は、問題を抱えると、ついつい、渦中にいるために、問題の本質さえ理解することが出来なくなってしまい、結果、ミスコミュニケーションを起こしてしまいます。
コーチは、冷静に、客観的にクライアントの問題を見つめることが出来るからこそ、的確なアドバイスや、考え方を提示することが出来ます。コーチングは、自分以外の目を持つことが出来ることも、魅力の一つではないか?と、改めて感じるセッションでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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若い起業家へのコーチング~戦略を立て、実行する経営者の支援にコーチングが有効であることに気づく~

起業をめざす人が増えています。若い人の場合は、職業経験年数も浅く、経営や人材育成に関するコンサルティングと、これまでの職業経験をいかにつなぐか、あるいは、いかに次の問題を引き起こさせないようにするかという防衛のためのコーチングセッションをご紹介しましょう。

「こんにちは、長田さん」
「こんにちはコーチ、前回は、適切なコンサルテーション、ありがとうございました。ホント!助かりました」

「お役に立てて、嬉しく思います。企業にとって、情報管理は重要な問題ですよね。今回は、たまたま早く分かったから良かったですが、派遣社員の人が家に仕事を持ち帰って家で仕事をされていたわけですよね、その結果、もしも顧客データを流失させたらトンでもないことになっていましたね」
「はい、正社員でない人については、私はこれまで社員として人材派遣会社からの社員との付き合いしかありませんでした。これまでは、同じ社員という立場で付き合っていましたが、派遣社員とはいえ、仕事熱心な人は、仕事を家でするために情報を持って帰ることが現実にあるんだということを考えていなかったので、正直、派遣社員の人を見る目が甘かったなと感じました」

「なるほど、これまでは同じ立場の社員だから、人材派遣会社の社員の立場をしっかり認識していなかったということでしょうか?」
「ええ、そうですね。使ってみてはじめて分かったことは、彼らの不安定な立場が理解出来ていなかったことですね。しかし、だからといって、私には正社員の管理をするという役目があるわけですから、派遣の社員ばかりにかまうことも出来ず、難しい立場だなぁと思いました。すべての社員の一人ひとりを、それぞれ、個別に管理するなんて、自分には到底出来ないと思いましたね・・・」

「なるほどね、一人ひとりを、それぞれに個別に満足させようとするような管理は、大変だということを学ばれたわけですね」
「はい。派遣会社の社員だからとか、自分が雇った社員だからということで区別はしてはならないと思いますが、実際には、手が回りません。派遣会社の社員の管理は、出来れば派遣元にお願いして、自分の社員の管理にだけ全力投球させてもらえたら・・と思いました。その上、今回のように顧客データを持ち帰って、自宅で仕事しようという人が出たことは、嬉しい反面、そんな大事なというか、基本的なこともちゃんと説明出来てなかった自分を、責めてしまいました」

「辛かったですね・・。今回、派遣会社の社員は、どうして自宅で仕事をするしかないと、考えてしまったんでしょうか?」
「やはり、私が、厳しく期限を守ってくださいといったことに原因があると思っています。期限を守って仕事をするのは当たり前ですが、残業契約のない派遣社員には、仕事のボリュームが適切ではなかったのではないかと反省しています」

「なるほど、期限を最優先してしまって、働く時間と、作業内容のボリュームが一致していなかったということですね」
「はい、そうですね。残業が出来ないのに、期日を守れ守れじゃ、無理ですよね」

「今回の問題で学習したことは何ですか?」
「はい、働く時間と作業の内容と、ボリューム(量)とのバランスを図らないと、相手を追い詰めるということでしょうか?」

「なるほどね、バランスをとらないと、思わぬトラブルを引き起こすことになるということを学ばれたわけですね」
「はい、そうですね」

「そのボリュームをとるためには、どうしたらいいんでしょうか?」
「はい、まず、もう、自分ですべてを管理しようとすることはやめようと思います。正直いって出来ないということに気づきました」

「具体的にどうしますか?」
「はい、私の下にいる部下に派遣会社の社員の管理を任せることにしました」

「部下に、派遣会社の社員をまとめさせるために、気をつけたほうがいいことは何ですか?」
「先にも申しましたが、派遣会社の社員は、どんなに自分がいっぱいいっぱいであっても、弱音を吐くところがありません。だから、小まめにコミュニケーションをとってもらって、ガス抜きすることだと思います」

「なるほど、小まめにコミュニケーションをとることが重要な要素である。他には?」
「はい、社員と同じように目標を持たせて、1週間、四週間、三ヶ月、六ヶ月の目標と達成について、管理することだと思いました。1日、1日での勝負ではなく、ある程度、長い目で見た目標達成や満足度を高めることが大事だということに気づかされました」

「なるほどね、時間的なゆとりがないからこそ、部下に任せてもいいことは任せる、自分がしなければならないことは自分でするけれども、優先順位をつけながら仕事を進めるということを学習されたわけですね」

「そうですね。私は自分ひとりで仕事をしていた気がします。自分以外の人を信頼していなかったのかもしれませんね」
「それだけ、ご自身にゆとりがなかったのかもしれませんね」

「そうかもしれませんね・・・」
「今回は情報の流出を防げましたが、今後こんな危機感を味わうことがないようにするために、人材管理というか、育成に努めれば防げますか?」

「いいえ、それだけでは完全ではないでしょう・・しかし、完全に防ぐことをめざすよりも、完全でなかったときにどうするかを含めて、企業防衛について、真剣に考えておくべきだと言うことは学習しましたから、社内にPJを立ち上げようと思います」
「人を信じないということですか?」

「そこまでは極端に思っていませんが、どんな場合にも備えがあれば憂いなしと言うことでしょうかね?」
「なるほどね、管理システムだけでなく、育成の仕組みが出来ればいいですね」

「そうですね。それにしても、会社を立ち上げるだけで精一杯意だったのに、いきなり人の採用や教育、管理をしなければならないなんて、自分に本当にこの先出来るのか不安です」
「コーチである私は、引き続き長田さんの支援をさせていただきたいと思っていますが・・」

「ええ、もちろんです。こんなにたくさんのことを、一人でやろうなんて思わないほうがいい。何でもお任せ出来ることはお任せする。お任せする順番は、コーチと一緒に決めればいい。今回の問題を未然に防ぐことが出来たのは、偶然だったと思います。しかし、これからは、偶然を当てにせず、自力で解決したいと思います」

情報の漏洩は、身近に潜む問題の一つです。もちろん、これを防ぐことが出来たことは何より嬉しいことでしたが、会社経営にコーチングの必要性をひしひしと感じました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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