コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

青年実業家の事業拡大の悩み~企業合併の利益と弊害のバランスをはかり、戦略を立てる~

青年実業家の日比野さん。起業して早八年。会社はようやく軌道に乗り始め、経常利益も順調に増えていました。自分は「運がいい、人に恵まれている」と、年齢に似合わず常日頃から感謝の言葉を多く口にする誠実な人柄が取引先や社員から信頼され、実直な企業経営が高く評価されていました。
そんな日比野さんに大きな転機が訪れたのは、企業合併の話が持ち上がってからでした。
借入金なしの企業経営姿勢を評価されたのか? 倒産寸前のライバル会社を買収しないかと持ちかけられたのです。
日比野さんの今日のテーマは、もちろん、この買収についてでした。

「おはようございます。今朝は少し肌寒かったように思いますが、どうですか朝の散歩は、気持ちよくすごせましたか?」

「いやぁ、道を歩いていても、どうも下ばかり見ているようで、すれ違う人に挨拶されて、初めて気づく始末で・・元気がないと見られたかも知れませんねぇ」

「日比野さんの元気がないことから、皆さんにどんなことを思わせるんでしょう」

「うん、これまでは自分から挨拶しなかったことがありませんから、私が挨拶をせずに通り過ぎていくことに対して変に思ったでしょうねぇ」

「人にも分かるぐらい、日比野さんの雰囲気が変わったんですね。ところで、日比野さんが気になったことは、どんなことですか?」

「この合併の話をいただいたときから、ずっと、こんなチャンスはない、大きくなれるんだから躊躇することはないと思って、正直嬉しいんです。ただ、吸収される側の社員の統制が自分で取れるのか?と考えると、今は、まだ、自分では無理なのではないかと思うんです。企業規模は、本来、相手のほうが大きかったわけですからねぇ」

「なるほど、自分の会社より大きな資本を持っていた会社を吸収するのに、吸収したほうの社員の統制をどうするか?ということが不安なんですね」

「はい、自分はやはり、零細企業の社長の器だと思うんです。中規模の会社の社員とうちでこれまで一緒にがんばってくれた社員が馴染めなければ、私は企業を大きくする意味がないと思うのです。しかし、誰かが、この会社を吸収しなければ、その会社の社員や家族は路頭に迷うわけで・・」

「どこまでが、日比野さんの責任範囲なんでしょうねぇ」

「うん・・・そうですね。この話が持ち上がらなければ、ライバル会社の社員だったわけですからねぇ。私が面倒見なければと言うのは、おこがましい話ですかねぇ」

「いや、おこがましいとは申しませんが、ずいぶん、責任を感じておられるようですから、その必要があるのかと思っただけです」

「そうですね。たしかに、客観的に見たらおかしいでしょうね。私自身が若い頃、買収された企業の社員だった経験があってね・・無力感と言うか、モチベーションが下がってどうしようもなかったときを過ごした経験があるもんだから、なんとか、あの気持ちを味わわせないようにしたいと思ってねぇ」

「そうなんですか、買収された側の企業の社員だったんですねぇ・・辛い気持ちが分かるだけに、慎重になるわけですね」

「慎重にというか、戦略を立てておかないと、今いるうちの社員のモチベーションも一緒に下がれば、致命的に生産性が落ちるわけですから、それは回避したいということです」

「なるほど、この合併は、チャンスであるとおっしゃっただけありますね。混乱なく、事業を続けたいとお考えなんですね」

「はい、粛々と事業を続けていかないと、お客様を悲しませることになってはいけませんし。何かいい方法はないものでしょうか?」

「ご自身の社員経験を踏まえて、日比野さんが出来ることはなんですか?」

「私が出来ることは、合併後の戦略を明確にすることと、吸収した会社の社員もされた側の社員も、これからは一緒に企業のために尽くして欲しいという気持ちを分かってもらうことかな?」

「なるほど、合併は戦略の一つとして行ったと言うことを明確にすることと、社員は一つになって企業のために尽くして欲しいということを分かってもらいたいわけですね?」

「はい、そうですね。」

「そのために、日比野さんはどんな方法でみんなに語りますか?」

「そうですねぇ。社内誌よりも、ビデオかなぁ・・」

「いずれにしても、直接ではないのですか?」

「いや、だめかな?直接支店を全部回るとなると、スケジュールの調整が難しくないかな?」

「幾つの支店を回ることになるのですか?」

「新しく増えるから、全部で八支店かな?」

「1日一つでも八日間ですよね?」

「そうだねぇ・・八日間だけど、今、すでに決まっている予定を調整するのは相手に悪いからねぇ・・」

「うん・・・社員のことを考えたり、お客様のことを考えたり、大変ですね。どちらか一つと選択を迫ったら、どちらを選ばれるんでしょうか?」

「一つに絞る・・難しいなぁ・・。やはり社員のモチベーションを下げないほうが先かなぁ・・」

「何もかもお一人でしようとなさっているんですが、誰か、日比野さんの代わりになれる方はいらっしゃらないのですか?」

「お客様を任せることも出来ないし、方向を示すのは、トップの仕事だし・・うん・・困りましたねぇ」

日比野さんは、確かに誠実に物事に真正面からまじめに取り組む性格ですが、どうも優先順位がつけられないようです。
こんなふうに、目標を一つに絞りきれないときのセッションは、堂々巡りに陥りやすく、最初に戻って、シンプルに目標を明確にすると良いときがあります。
何のためにそれをするのか。大きな決断をするときは、理性を優先するのか、感情を優先するのか。
挑戦するのか、現状維持を大事にするのか。チャンクアップとチャンクダウンを使い分けしてコーチングをしていきます。
迷いや戸惑い、不安が大きいほど、コーチの役割は重要になります。イメージが描けなくなっているクライアントには、選択肢を与えるためにも、明確なイメージを描くようにしましょう。
コーチが押し付ける形の指示や命令は、絶対に避けなければなりませんが、クライアントが自分で考え答をだしていくための質問の形をとった助言・提案、例えば「コーチはこのようにしたらいいのでないかと考えますが、どうお考えになりますか」このような問いかけを必要であれば勇気をもって与えることも大切です。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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急に体調をこわしたラーメン屋さんの悩み~真剣に話を聴いてもらうことによるモチベーション向上効果~

ラーメン屋を営んで二十年。開店当初のラーメンブームに乗り、マスコミへの露出度も高く順調に十五年は「あっ!」という間に過ぎたという山形さん。忙しさにかまけて、休日もとらず、家族との時間も作れない毎日でしたが、「仕事を成功させるのが男の役目」と割り切った考え方をしていたため、夫婦の間に出来た溝が埋まらず二年前に離婚されたそうです。

今年に入って受けた健康診断により、肝臓が悪いことが判明。三ヶ月の入院が必要と宣告を受けてしまいました。店は、アルバイトがいるだけで、とても自分が入院中の仕事を任せられるような腕を持っていない為、急遽、店を長期休業とすることにし、ともかく体を治すことに専念することにしたにもかかわらず、廃業に追い込まれるのではないか、果たして復帰出来るのかと不安でならず、健康を害して悪い顔色が、なおさら、冴えない顔色となっている山形さん。
無料体験セッションをお受けにいらした最初の印象は、「この人、倒れそう・・・」というものでした。

「一生懸命、仕事に励んでいただけなのに・・。家族のためにと頑張っていたのに、気がつくと
離婚して一人ぼっち。入院同意書にサインを頼める家族がいない。手術が必要になっても、心配してくれる家族がいないんです。万一の時にも葬式を出してくれる人もいない。たしかに、特別、健康に気を配ってきたわけじゃない。でも、仕事をしても大して疲れるわけじゃなく、夜更かしをしないようにして朝だってすっきり起きていたし、体に悪いことはあまりしないようにしていたし。酒だって、お客さんに勧められたとき意外は飲まなかったし、タバコは、ラーメン屋を開業するときに1日の売り上げが三十万円になるまでは・・と願をかけて止めているうちに、自然に吸わなくなったし。何にも悪いことなんかしてこなかったのに・・・。どうして、私がこんな目にあわなければいけないんだ」

山形さんは、悔しそうに語ったままうつむき、言葉が続かなくなってしまいました。

「山形さん、お尋ねしたいことがあるんですが、よろしいですか?山形さんは今日コーチングを受けにこられているわけですが、コーチングってどんなものか、あらかじめ本を読んだり、情
報を集めたりしたことはありますか?」

「いえ、どういうものかわからなかったんですが、サラリーマンの若いお客さんが『コーチングがいいとか』、『コーチに相談するとすっきりして、ただよっていた霧がすっきりと晴れるような気がするとか』って言っていたのを思い出して・・。新聞のお知らせ欄に乗っていた案内を頼りに伺いました」

「そうですか。新聞をごらんいただいたんですね。ありがとうございます。今、お話をお聞きして、山形さんが抱えている悩みが、どれだけ深く大きなものか、私にはよく伝わってきます。しかし、山形さん。残念ですが、私はあなたの悩みを解決するのが仕事ではありません。あなたがこれからどんなふうに生きていきたいのかとか、どんな仕事をしたいのかとか、人生をどんなふうに計画して行動していきたいのかを具体的にイメージし、行動するための方法を一緒に考えるなど手助けをするのがコーチの仕事、つまり私に出来ることなんです。
現状の山形さんの苦労や不安はよく理解出来ました。残りの時間を使って、山形さんがこのセッションを通して、すこしでも前向きな気持ちを取り戻し、自分の人生は自分で決めることが出来ると感じられるようにしたいと思うのですが、いかがでしょうか?」

「そんな・・・」

「山形さん、山形さんにとって、健康を害したことは大きなショックだったのですか?
それとも、こういう生活だったら、ある程度体が壊れることも気がついていたのでしょうか?」

山形さんは、沈んだ表情のまま答えてくれました。

「実は決して健康に自信があったわけではありません。毎晩、遅くまで仕事をしていたし、新しいスープの開発のときは、何日も徹夜に近い状態になっていたこともあります。面白かったのでまったく疲れを感じませんでした。家族も気持ちは一緒に頑張ってくれていると思っていましたし・・・・。離婚してからの、ここ二年間くらいは、家族もいなくなってしまったので、家に帰る理由も目的もなくずっと店の奥の小さな部屋で寝ている始末でした。店が休みの日も研究しないと店がつぶれると思って他のお店のラーメンを食べ歩いていました」

「山形さんは、研究熱心だったんですね。私は山形さんがとてもまじめな努力家であると思います。ところで、山形さんが追求した完璧なスープの味は完成したのですか?」

「いや、完成はしていません。というか、どんな味にしたらいいか、まったくわからなくなってしまったといったほうがいいなぁ・・」

「そうですか。残念なお気持ちも、これからどうしたらいいのかという不安な気持ちでいらっしゃることもよくわかります。しかし、何にしても、まずは健康を取り戻すことが一番大切だと思うのですが、ご自身は今回の入院をどう受け止めていらっしゃるんでしょうか?」

「最初はやけっぱちでした。入院するのも止めようかと思い、せっかく先生がベッドを開けてくれた日を無視して、行かなかったんです。家族のためになるわけじゃないし。店だっていつまで持つかわからない。店をなんとかするしか私の人生はない。それなのにここで店を休むなんて、私から唯一の希望の店を取り上げるなんて・・・一体私の人生は、何のためにあったんだかと思うと、体に力が入らなくて。ただ、アルバイトしてくれていた吉山君が、『店長が帰ってくるのを楽しみに待ってますから。とりあえず働く次のバイト先は駅前のコンビニです。再開するときは、ぜったい声かけてくださいね。俺、店長のラーメンに対する頑固さが好きだったから・・』と言ってくれて。
家族は失ったけど、こんな自分のことを慕ってくれた奴がいたのかと思うと、入院して、体を治そうと思えるようになって・・」

「そうですか。今回の入院治療のきっかけは、アルバイトの吉山さんだったわけですね。
治ってお店を再開することが出来たら、彼を呼び戻してまた一緒にやりますか?」

「もちろんです。だからこそ、入院する決意をしたんだし・・」

そう言いながら、無料体験のセッションの時間が終わりました。
無料体験のセッションですから、残念ながらコーチとしてこれ以上の継続的な支援は出来ません。しかし、今、この時に感じていることを誰かに真剣に聞いてもらうだけで、人の意識はずいぶん変わっていくものです。山形さんも、最初は青白く生気のない顔をしていましたが、三十分の時間をともに過ごすうちに、顔に赤みが差し、少しだけですが、いきいきとした表情を取り戻してくれたように感じられました。

人生は、すべてをバランスよく過ごす力を備えておかなければなりません。
家庭生活、自己実現、仕事、健康、お金(経済力)など、いくつものバランスによって人生への満足感や、達成感が変わってくるものです。

私たちコーチにとって、人生のバランスがうまく図られているかどうかを客観的に冷静に、第三者の視点で見つめてあげることが使命であるのではないかを考えさせられるセッションでした。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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他責にて仕事をしている人への初回のコーチング~コーチングへの正しい理解と自分で行動することに気づかせる~

初めて訪ねた病院の事務長さんとのコーチングです。
「経営戦略を立てて稼げる病院にしたいんです。このままでは病院はだめになってしまいます」と唐突に語る事務長さん。
「そのことについては、院長先生はどんなお考えなんでしょうか?」との質問に、「院長は、ドクターとしては腕は立つけれども、経営感覚は全くないと思います」と、語気を強めて訴える事務長さんは、明らかに苛立ちながらコーチングを受ける決心を話し始めました。

「病院はね、ドクターの資格がないと、経営は出来ないんです。でも、ドクターで経営の感覚を持っている人なんて、いないんじゃないですか?」

「ドクターに対する意見をはっきりお持ちのようですね」

「ええ、看護師だって余分に確保しないでいるから、みんな疲弊しきっている。にもかかわらず、一言の労らいもなく、自分の機嫌しだいで若手の医師や看護士を当り散らすし。見ていても気の毒ですよね。病床数の増減だって行き当たりばったりだから、職員の数もしょっちゅう見直さなきゃならない。忙しいばっかりだし、褒めないどころかしかられてばっかりという職場だから、ベテランの看護師はどんどん辞めるし・・・」

「なるほど、そこで、戦略を立てる必要があると思われたんですか?」

「ええ、もう、自分の首をかける気持ちで院長に進言したんです。『このままじゃ、病院は立ち行かなくなります。看護士は疲れきっているし、ベテランの看護師はどんどん辞めるし、このままでは医療ミスを起こしたり、看護師の労災問題などで新聞沙汰になりますよ?なんとかしなくては経営も立ちいかなくなりますよ』と。そうしたら、急に顔色が変わって、『そんなに危ないのか?』とおっしゃるから、長い目で見たら、倒れるということですと申し上げたら、どうしたらいい?と、下手に出られて・・」

「なるほど、院長先生が少し弱気になったんですね?」

「ええ、そうですね。それで、『経営を立て直すなら、やはり戦略が必要なのではないでしょうか?』と提案したんです。そうしたら、『そうか。戦略が必要か。その通りだな。戦略案を院長である私がつくってもいいんだが、私がつくるとそれは戦略案ではなくて決定になるので、ここはひとまず経験豊富な事務長、君のところでいい案をつくって持ってきてくれ。それで今後のことを検討していこう』って言われたんですよ」

「なるほど。院長先生は、それを事務長であるあなたの仕事にしたということですね?」

「おかしいとは思うんですよ。その役割は、病院の、経営者の役割だと思うんですが、とにかく病院が立ち行かなくなると困るので、私が考えようと思ったんです。院長に任されたのもすこしいい気分だったし、院長には考えられないから、自分しかいない。よしやってやろうって思いました」

「少しいい気分でやる気が出たのですね」

「ただ・・・」

「ただ、どうなさったんでしょう?」

「私には、荷が重くて・・すぐにはわからないんです。どうしたらいいのか・・・そこで、経営の勉強を始めビジネススクールに通うことにしたんですが両立が出来ず、投げ出してしまおううかと思ったりしました。挫折しかかっていたら、ビジネススクールの先生が、コーチングのことを教えてくださったんです」

「なるほど、では、実際に会話をしてみて、話す前と後では、どんな風に気持ちが変わるかをやってみましょうか?今日ははじめてのセッションですが、どんなことをテーマに進めましょうか?」

「え?話すテーマを自分で決めるんですか?僕の話を聴いて、アドバイスをくれるんじゃないんですか?」

コーチの言葉に対して明らかに不信感と不満を表情にした事務長さんは、コーチの質問に答えようか辞めようか、迷っているようです。

「無理にお答えになる必要はありません。答えたくないですという答えもあるんですよ。それでは、改めて伺いますが、すぐに解決してしまいたい問題をテーマにしたいと思いますが、いかがでしょうか?」

コーチの穏やかな表現に、意を決したように事務長さんは口を開きました。

「すぐ解決出来るアドバイスや方法がほしい」

「すぐに解決するためのアドバイスや方法がほしいのですね。では、最初に質問させていただいてもよろしいですか?」

コーチは、アドバイスするとも方法をあげるとも言わず、自分の話すことを質問という形として表現しました。
事務長さんは、コーチの話に了承して、コーチの次の言葉を待ちました。

「事務長さんは、人からの指示・命令を受けたとき、いつもどんな気持ちになりますか?」

「え?気持ちですか?仕事上での指示・命令は当たり前のことだから・・・」と言いながらも、はっとしたようです。

「そういえば、気持ちよく思ったことはありませんね。もっと別の方法があるのに・・と、心の中で考えています。ましてや、院長からなら、『またかぁ、自分は言うばっかりだなぁ・・』と思っていますね」

「なるほどね、気持ちよく思ったことはないんですね。では、こうしたら、ああしたらという助言はどういう気持ちで受け取りますか?」

「・・・(しばらくの沈黙の後)いやだけど、従っておかないと、院長の機嫌が悪くなる、と思い、しぶしぶ従っていますねぇ・・」

「なるほど、助言は、しぶしぶ従うわけですねぇ。ということは、院長先生からの指示・命令・助言は、間違っていると思っても、ほかにいい方法があると思っても従っている、その結果については、自分のせいではない、院長がやれと言ったからやるだけのことにすぎないということでしょうか。では、どうしたら、事務長さんは気持ちよく自分の考えどおりに行動するのでしょうか?」

「・・・ん・・・・」

事務長さんは、すっかり考え込んでしまいました。
だれでも、答えは自分の中にあるのです。しかし、それに気づかず過ごしている人がほとんどなのです。自分の持っている答えを封印して、上司の言うことにひたすら従っている人もいます。そのほうが責任をとらなくてもいいから楽だからだと思う人もいます。しかし、それで企業人としての使命が果たされていると言えるでしょうか。
自分の中にある自分の意見や考えを曲げずに、なおかつ、組織が目指す方向からは外れないように行動する。それが、企業人としての使命です。
コーチはコーチングを通じて、クライアントにそのことを自ら気づいていただくことに主眼をおき、クライアントを支援します。答えを提供するのではなく、クライアントが自分で持っている答えに気づくことを援助するのです。
戦略作りは、まさに、会社の今後の全てを左右するほどの重要な役割です。
使命を与えられたことに気づくためにも、コーチングはしばらく続きました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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歯科開業医コーチングにふれました~コーチングを体験して自己を見つめなおす~

歯科医になって五年半。石川さんは念願の開業にこぎつけました。
勤務医としての経験を元に独立し、晴れて開業医となり最初は無我夢中で走っていました。このごろ、自分は技術者として患者さんの歯を治療する歯科医として活躍したかったのか、それとも歯科の経営者として行動したかったのかに迷いが出てしまいました。独立して開業しているわけで、技術者としての歯科医師としての自分と、歯科経営者としての自分との両面で仕事をしていかなければならない。また、それがやりたくて独立したんじゃないかとは思うのですが、自分には両立出来るほど時間にゆとりがない、才能がないと悩み始めました。患者さんの治療をしていても、ふっとそれが頭をよぎるようになり、適切な治療が出来ているのか不安にもなってきて、気持ちは落ち込む一方でした。

そんなとき、歯科医師会の会合があり、何か参考になることはないかと参加してみました。宴席であったこともあったせいか、「私は歯科医として患者さんのことを最優先に考えているんです。しかし、個人で開業しているわけで経営というものも考えなければならないんです。

歯科医としての自分と経営者としての自分とは、矛盾した関係であると思い、それは両立出来るはずがないと思うんです。どちらかを犠牲にしなければ成り立たないわけで、そうすると歯科医ではなくなってしまうんじゃないか、自分がとんでもない男になってしまうんじゃないかととても不安なんです」自分の心の中のわだかまりを、酒の勢いで話し出したところ、地域でもやり手との評判の高い橋本先生が話しかけてくれました。

「石川さん、ぼくもさぁ最初はそう思ったんだよねぇ・・。患者は少ないし、高齢者ばっかりで時間にゆとりがあるから、なかなか話に付き合うのが大変で、ともすると予約時間がだらだらになっちゃって、別の患者さんからのクレームで、受付に飛んでいって、平身低頭謝って。何のために苦労して歯科医になり、独立したかわからなくなっちゃったんだよねぇ」

石川さんは橋本さんの話にうなづくばかりでした。ただ、石川さんはこの時「橋本先生、なぜ、そんなこと僕に話すのかな?ずいぶんやり手の先生と聞いているけど、苦労話はいつ自慢話に変わるんだろう?」と、懐疑的に感じたそうです。

その後も、橋本先生は「石川先生は、どんな歯医者になりたいと思っているの?」とか、
「子供の患者って、どうしたら増えると思う?」など、日ごろ石川さんが考えていることを話したくなる質問ばかりをしてくるので、ついうっかり話してしまいそうになりました。しかし、石川さんは「橋本先生は、私のアイデアを盗みにきているのかもしれない」という不安が生じ、同業者はライバルだと思い始めたそうです。そのことが石川さんの口を重くしていました。

その夜は、橋本先生の質問に対して答えをあいまいにしたまま自分の部屋に戻り、一人、飲みなおしていたのですが、橋本先生の質問が何度も頭によみがえり、石川さんは、自分に向かって、「それは・・・」と、答えてみたそうです。

翌朝、どうしても橋本先生ともう一度話したくなり、石川さんは自分から橋本先生を探し、朝食を一緒にとりたいと、自分から橋本先生に話しかけてみました。

橋本先生は、石川さんの突然の申し入れを快く受け入れてくれたばかりではなく、穏やかに石川さんが話す夕べの質問に対する答えを聞いてくれていました。
石川さんの意気込む姿が落ち着いたころ、橋本先生はゆっくりした口調で石川さんに質問をしました。

「石川先生、先生は、昨日はお話しにならなかったのに、どうして今朝は私に話してくれる気持ちになったのでしょうか?」
あまりに率直な質問に、石川さんはどう答えたらいいのかわからずもじもじしていましたが、思い切って答えてみました。

「いやぁ、橋本先生、ほんとうに申し訳ないことですが、先生の質問に答えると、自分のアイデアをとられちゃうような気がしたんです。だけど、あの後、部屋で自分に向かってたくさん話をしたんです。『どうしたい、こうしたい、こういう思いもある・・』とね。今朝、橋本先生のお姿を探してまで話したくなったのは、どうしてなのかわかりません。しかしこれだけは言えます。夕べ考えていたことを今朝、橋本先生にお話したら、夕べ考えたより、更にアイデアが膨らむのを感じて、驚きを感じています」
と、石川さんは素直に橋本先生に話しました。

橋本先生は、「僕はね、実は、患者さんの話を聴くのが苦手でね。ず~っと、治療中黙って仕事をしていたんですよ。ところが、ある日、おふくろがこっそり治療にやってきて、びっくりしながらも、いつものように仕事をしたら、治療を終えた後にこう言ったんですよ。『歯医者はマスクをしているから、目線で話をしなくちゃならない。言葉にならない言葉で語るのは難しいねぇ。今のお前の眼は怖くて、見つめられると思わず眼をつぶってしまうよ。お前の考えているところを読み取るために眼で会話するどころじゃないよ』とね。それで、考えちゃったんだよねぇ」

そのとき、橋本先生は初めて、マスクで顔を覆ったまま、いかに患者とコミュニケーションをとったらいいかを考え、先輩の歯科医から患者とのコミュニケーションには相手の考えていることを引き出すコーチングが効果あるよと教えられ、コーチングを勉強し始めたことを教えてくださいました。

「僕に今、話をしたら、夕べのアイデアが更に膨らむように感じたって言ってたでしょ?これって、大事なことなんだよ。経営者としても、歯科医としても、僕らの仕事はとても孤独なんだ。誰かに話をすると、アイデア取られちゃうように思うその気持ち、僕にもよく理解出来るからね。だからこそ、コーチと会話する時間が必要なんだと思うよ。何でも聴いてくれるから話しているうちに、思わぬことを思いついて嬉しくなったり、こんなに人の口と心を軽くするなら、自分も聴き方を習おうと学習出来たりね。経営者としてとか歯科医としてとか、難しいことは後で考えるとして、どうだろう、とにかく患者さんからありがとうという言葉がもらえる歯医者を目指して、突っ走ってみたらいいんじゃないかな?と僕は思うよ。報われない努力はない。石川先生は、真剣に自分の仕事と向き合っていると僕は思うよ」と、言われ、石川さんは心が暖かいものでいっぱいに満たされたような気がしたそうです。

「日々の忙しさに流されないようにその日に感じたことを日記につけることも大事なことだから必ず日記をつけたらいいよ。それは自分を自分自身でコーチングすることにつながるよ。セルフコーチングって言うんだ。そして、それで感じたことを今日みたいに人に話すことが大事だよ」と橋本先生から最後に言われました。

人に話すことによって、更にアイデアが膨らむのがコーチングの醍醐味です。

石川さんは、患者さんとのコミュニケーションのとり方を橋本先生に習ったような気がして、気分がスッキリ晴れて今日も一日頑張るぞと思ったそうです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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創業会長の力を活かす二代目社長の配慮

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
生きるために必要なものはたくさんあると思いますが、遠く離れている私達ができる支援は、皆さんに「勇気と希望」を忘れないようにしていただくことだと思い、心をこめて今号を記します。

さて、今回は、事業承継してまもない2代目若社長とのコーチングの続きをご紹介します。

コーチ:「前回は、先代社長のお父様と意見が違うことが、大きな障害となるのか・・・と言うところで終えましたが、前回から昨日までの間に何か、お考えはまとまりましたか?」
社長:「いやぁ、まとまったようなまとまらなかったような」

コーチ:「具体的にお話しをしていただきながら、まとめましょうか?」
社長:「はい、まず、意見の違いは障害ではなくて、不快に思っているだけのような気がします」

コーチ:「具体的になっていますね。嬉しいです。不快な気持は、社長にどう影響を与えるんですか?」
社長:「やる気をそがれるんです。ああ・・またか!って」

コーチ:「天を仰ぎたいって感じ?」
社長:「まぁ、そこまではいかないですが、かなり体を重くします」

コーチ:「他には?」
社長:「ただ、一方で、あまり親父の考えを否定するのはどうか?って思っちゃいます」

コーチ:「それはなぜ?」
社長:「一生頑張ってきた人だからね。それに、自分が否定されてやる気がそがれるんだから、親父も一緒だろうって。それと・・・可哀そうだという思いもある」

コーチ:「結局、お父様思いなんですね」
社長:「うん・・・やっぱり親父ですからね・・・」

コーチ:「さて、やる気がそがれる、不快な気持ちですが、どうしましょうか?」
社長:「そうですね。どうしたらいいんでしょうか?」

コーチ:「相手を変えようと思わないこと。これは今までも散々申し上げていますよね?」
社長:「はい、今さらかわりゃしませんし」

コーチ :「では、改めて伺います。二代目社長として、いま何をしたいのでしょう?」
社長:「安定した経営をし、社員を養うこと」

コーチ :「なるほど。それを実現するためにお父様の意見が自分と違う。違うと、やる気がなくなったり、不快になる。それを乗り越えるためには?」
社長:「そういうものだと思うこと。意見がそれぞれ違うことはよくある。部長とも違うのは会議でお互い歩み寄ることにしている。
ああ、そうですね。親父にももう一度、会議に参加してもらったらどうだろう。乗っ取られるから、この頃、正式なメンバーとして会議に出席するよう要請していなかった」

コーチ :「それでは、お父上の立場はないですもんね」
社長:「そうですね。余りにマイペースなので、社員が嫌になると思っていたのですが、自分が嫌だったことを棚上げしていました」

コーチ :「それで、会議は思うように進められますか?」
社長:「いやぁ、いろいろ脱線するだろうし、人の言うことを聴くとは思えない。だから、言いたいことだけ言わせて、早めに退席していただけるよう、自由な立場で出席してもらおうと思います。そのためには、全員が入る会議のほかに、古参の幹部社員だけの会議を1つ、作るようにします。」

コーチ :「それは何か、思うことが合ってですか?」
社長:「はい、古参の幹部社員は、親父の考えの癖や表現になれているので、冷静に受け止められると思うからです。もちろん、わたしもそれは出来ますし、わたしと考えが違うところは、すぐに自分の意見を伝えることができるので、齟齬が生じても、おそらくこの間よりもごたつかないで、別の会議に進むことができると思います。」

コーチ :「なるほど、それは実行できそうなアイデアですね。ぜひ、やってみましょう。」

というところで、セッションは終了させました。

父と子。関係は単なる社員と経営者と言うよりも複雑でしょうが、実は親と子なのだから、分かりあえる要素もたくさんあることでしょう。
父から見れば、幾つになっても子供は子ども。子供からすれば、親父の背中が丸くなり、小さくなったことを受け入れて、自分がしっかりせねばと力む。そんな関係が、お互い自然体になりさえすれば上手く行く。答えを見つけられるまで、しばらく見守って参りましょう。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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